北野勇作さんの【ほぼ百字小説】その２

北野勇作 『100文字ＳＦ』発売中！ @yuusakukitano

たぶん10日後あたりに2001になる【ほぼ百字小説】 作者が死ななければ。

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【ほぼ百字小説】（１９８６）　誕生日に妻と娘が古いＳＦ映画のＴシャツをくれた。たしか高校生のとき、リバイバル上映で初めて観た映画だ。あの頃はまだ遠い未来だと思っていた映画の中の未来は、今となってはふた昔も前なのか。まるでＳＦだな。

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【ほぼ百字小説】（１９８７）　毎日、長い石段を下って谷底へ。岩の隙間に置いたコップに、ぽた、ぽた、と溜まっている。一日でコップに半分ほど。たまに一杯になることもあるが、半分にならないことも。そんなときは飲まずに、石段を上って帰る。

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【ほぼ百字小説】（１９８８）　亀が多いのは、いっしょに暮しているから。狸が多いのは、芝居で狸の役をやったから。砂が多いのは、砂漠が舞台の芝居をやったから。月が多いのは、空が広い町に住んでいるから。泥が多いのは、泥から作られたから。

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【ほぼ百字小説】（１９８９）　坂の途中に具合の良さそうな窪みがあって、通りかかるたびに、あそこにすっぽり填まり込めたら、と思っていたのだが、最近はいつ通りかかっても誰かが填まり込んでいて、ああもっと前にそうしておけばよかったなあ。

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【ほぼ百字小説】（１９９０）　灯台が見えたから来てみたが、海がない。違う違う、灯台の向こうにあるものが海。そういう約束事をちゃんと押さえとかないとぜんぶ無くなっちゃいますよ、と灯台守。自分の定義とか、あまり考えないほうがよさそう。

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【ほぼ百字小説】（１９９１）　円周率の小数点以下の数字が十秒ごとに順番に表示されるアプリを入れていて、十秒ごとに変わるその数字をたまに眺めることで、割り切れない思いを抱えているのは自分だけではないのだな、と割り切ることにしている。

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【ほぼ百字小説】（１９９２）　ああ、それ、信号。信号には見えないと思うけど。だから、ちょっと見方は難しいよ。うん、それが青。亀みたいに見えるけどね。で、そっちの狸みたいのが黄だよ。ああ、赤か、赤だけはまあ、見ればすぐにわかるかな。

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【ほぼ百字小説】（１９９３）　自粛要請もあってか今年の桜の森はいつもより静か。でもそのかわり夜更けには、桜の下に埋められていたものたちがここぞとばかり這い出して、泣いたり叫んだり桜を見る会を開いたり。オリンピックのような賑やかさ。

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【ほぼ百字小説】（１９９４）　今回は無観客花見で、ということは確定したのだが、客に観測されることのない花、そして花に観測されることのない客、双方共に、はたして存在していると言えるのだろうか、などと考えながら大量の団子を食っている。

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【ほぼ百字小説】（１９９５）　ぴー、ぴー、とブザーが聞こえる。たぶん、バックしてくるときの警告音。どこにいても同じように聞こえるから、頭の中で鳴っているのだろう。近頃は、オーライ、オーライ、とつぶやいていたりする。ずっとオーライ。

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【ほぼ百字小説】（１９９６）　花見自粛の桜の上にどかどかと雪が降り積もっていく様をコーヒーを飲みながらテレビで見ていたら、コーヒーの表面でクリームがぐねぐね渦を巻いてＱの字を形作った。自然界のバランスが崩れていくサインなのかもな。

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【ほぼ百字小説】（１９９７）　音のない爆発によって世界がばらばらになって飛び散っていく様を自分もいっしょに爆散しながら眺めていたはずなのだが、いつからか自分を含む世界の破片は拡散から収縮に転じたらしいことを風景の変化から推論する。

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【ほぼ百字小説】（１９９８）　死を記号化することでその恐怖を見えなくするという方法でなんとかやってきたところにいきなり記号化できない死が出現したが、記号化できない死として受け入れるべきか記号化できない死という記号化を試みるべきか。

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「100文字ＳＦ」の候補200が届いた。かなりいい。これもすごくＳＦらしいＳＦになると思う。

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【ほぼ百字小説】（１９９９）　あの大予言によって本当にその年に世界が終わると信じていた我々は今、予言が外れた世界に生きているわけで、ということは、あの大予言が当たった世界は終わってしまったのだから、つまり当たったことになるのかな。

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そして【ほぼ百字小説】も明日、新世紀を迎えます。

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いや、明後日かも。ま、明日いってしまうか。

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【ほぼ百字小説】（２０００）　国民の皆さん、これからこの四月馬鹿がみなさんに貴重なマスクを配ります。なんと一家に二枚、であります。この四月馬鹿もつけておりますオシャレで素敵な布マスクが二枚ですよ。ええ、どこにも売ってはおりません。

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ああ、せっかくの2000番がこんなことに。