ゴールデンカモイ #3

護衛棲姫の艦載機のデザインは衝撃的だった 2:https://togetter.com/li/1130260 4:https://togetter.com/li/1132318
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-07-17 21:01:40
劉度 @arther456

1945年、8月22日。小さな漁船が幌筵泊地を発った。それを岸から見送るのは、立派な身なりの軍人だ。舟を操る兵士は彼に敬礼し、操船に集中した。――恩を返せる。日本軍の軍服を身にまとった『白人』の青年の頭の中は、その考えで満たされていた。1

2017-07-17 21:03:07
劉度 @arther456

彼が日本にやってきたのは、ほんの数年前の話だ。ドイツに追われ、鉄道を伝って満州へ逃げ込んだ。駅で止められた時は駄目だと思ったが、奇跡的に入国する事ができた。それがある日本の軍人によるものだと聞いた彼は、恩返しの為に彼の下で働くことにした。家族は満州まで来れなかった。2

2017-07-17 21:06:06
劉度 @arther456

人種の壁がある手前、兵士にはなれなかったが、恩人とその部下たちは彼を一人前の男として扱ってくれた。やがて戦争が起き、終わり、そしてついこの前、また戦いがあった。そこで使った物を、誰の手にも届かないところに運ぶため、彼は舟を操っている。3

2017-07-17 21:09:14
劉度 @arther456

背筋にむずかゆい感覚が走る。積み荷のせいだ。おぞましい兵器だった。敵も味方も狂わせる、あってはならない呪物だった。彼の恩人も同じ考えだったのだろう。壊すことも止めることもできないことをできないこれを、彼に命じて隠そうとしている。4

2017-07-17 21:12:08
劉度 @arther456

彼も同じ考えだった。だけど、もし。ふと、彼は考える。もしこれを使いこなせれば、日本を勝たせることができるのではないか。あの人に栄光を捧げることが――。そこまで考えて、彼は慌てて考えを振り払った。危ない。弱まっているとはいえ、あれは容赦なく彼の心を蝕んでくる。5

2017-07-17 21:15:06
劉度 @arther456

「主よ」彼は神に呼び掛けていた。「どうか、私の成すことを、その目で見届けてください……!」神は彼を救わない。だから彼は成すべきことを成すと宣言した。誘惑の声を振り払い、舟は一路北を目指す。6

2017-07-17 21:18:04
劉度 @arther456

【ゴールデンカモイ】#3

2017-07-17 21:19:00
劉度 @arther456

蔵王が入港してから2日が経った。「増援を送れない!?」大湊と単冠湾からの通信に、提督は耳を疑った。「こっちは目の前に深海棲艦がいるんですよ!?」《わかっている。だが、オタル沖の船団は放置できない。輸送艦もいる。北海道への上陸を狙っているに違いない》7

2017-07-17 21:21:08
劉度 @arther456

ネオホッカイドウ西海岸、オタル沖に深海棲艦の一団が現れた。数は少ないが、東の幌筵と単冠湾に戦力を集中させていた日本海軍にとっては、嫌な位置だった。「陽動です!」《恐らくな。だが、本当にオタルに上陸されたら、責任はとれるか?》提督はとっさに返事ができなかった。8

2017-07-17 21:24:01
劉度 @arther456

《とにかく、今ある戦力でなんとかしてくれ》「……了解」そして通信は終わった。提督は背もたれに体重を預ける。「いやー、増援なしかあ。冷たいねえ」そう言ったのは、秘書艦の隼鷹だ。不知火たちはもう阿頼度島に出発している。「幌筵泊地が陥ちてもいいってのか、もう……」9

2017-07-17 21:27:05
劉度 @arther456

「ホントの所は?」提督が振り返ると、隼鷹は提督の真意を確かめるように、にんまり笑っていた。「……まあ、予想通り」これぐらいは想像していた。今進めている作戦が味方に知られると困るので、焦ったふりをしただけだ。ただ、やはり最古参の艦娘には悟られていたようだ。10

2017-07-17 21:30:27
劉度 @arther456

「提督さん、秘匿回線が繋がりました」「10分は隠しとおせるので」妖精さんたちが言った。「おっと」そしてこれが、味方に教えられない作戦だ。戦力が増やせないのなら、敵の戦力を戦闘以外の手段で減らせばよい。幸いなことに、話のわかる相手がいた。「もしもし、泊地水姫さん?」《うむ》11

2017-07-17 21:33:15
劉度 @arther456

幌筵泊地にすら内緒にした通信の相手は、以前からこの泊地を何度か攻撃していた深海棲艦、泊地水姫だった。「この前は急に切ってすみません。通信が傍受されかけたんで」《気にするな。それより、私の娘は息災なのだろうな?》「まだ見つかってないので、なんとも」12

2017-07-17 21:36:07
劉度 @arther456

幌筵泊地に着いてすぐ、蔵王は奇妙な通信を傍受した。神威が言っていた謎の声ではない。蔵王の魔法通信装置で受信できる、普通の通信だ。その内容は、北方水姫が子供を捜すものだった。《早く護衛棲姫を見つけておくれよ……?》「わかってますから」13

2017-07-17 21:39:04
劉度 @arther456

暗号化された通信を解いた提督は、北方水姫に話しかけた。北方水姫は最初は驚いていたが、子供を探す手伝いを申し出ると、すぐに了承した。どうやら彼女は自分の娘を探して、この北方海域までやってきていたらしい。子供さえ見つかれば、すぐに帰るつもりだそうだ。14

2017-07-17 21:42:29
劉度 @arther456

そこで提督は、北方水姫の子供を探す代わりに、泊地に近寄らないことと、見つかった後の即時撤退、それに1ヶ月停戦する約束を取り付けた。北方水姫以外の深海棲艦群は自力で追い払わなければいけないが、彼女が帰るだけで戦況はぐっと楽になる。15

2017-07-17 21:45:04
劉度 @arther456

「しかし、なんか特徴とかないんですか?」《うむ。まず、愛い。頭に角がある。愛い。飴より煎餅が好き。愛い。それと……》「えーと、可愛いのはよーくわかりました」「提督さん、あと1分です」オペレーター妖精が告げる。あまり長く話していると、どこに魔力を送っているか探知されてしまう。16

2017-07-17 21:48:03
劉度 @arther456

「それじゃあ、また明日、同じ時間に連絡しますんで」《吉報を待っているぞ》「頑張ります!」通信が切れた。「隼鷹、それであの子は見つかった?」「いやー、まだだねえ。ほっぽちゃん、どこに遊びに行ったんだか」北方水姫が探しているのは、恐らく北方棲姫の親戚の子のことだ。17

2017-07-17 21:51:03
劉度 @arther456

子供のような深海棲艦で、最近幌筵泊地の近くで見かけたといえば、その子しかいない。時々セコマに買い物に来るというので、昨日1日幌筵のセコマに部下を張り込ませていたのだが、会えなかったようだ。「早いところ見つけたいね……」今後のことを提督が考えていると、外が騒がしくなった。18

2017-07-17 21:54:06
劉度 @arther456

「提督!大変だぞ!」いきなり木曽が艦橋に飛び込んできた。「どうした?」「ロシアが来た!」「何ィ!?」「しかも、ネオホッカイドウの沿岸警備隊も一緒だ!」提督が慌てて窓に駆け寄った。ロシア極東軍の大型輸送艦と、ネオホッカイドウの警備艇が、並んでこちらへと向かってきていた。19

2017-07-17 21:57:06
劉度 @arther456

「極東軍から入電!」「つないで!」モニターにガングートと阿東の顔が映る。《ズドラーストヴィーチェ!ガングート、及びロシア極東軍、援軍に到着したぞ!》《ネオホッカイドウ沿岸警備隊も到着しました!》「ちょっと、何やってるんですか!?持ち場は北海道沿岸でしょう!?」20

2017-07-17 22:00:12
劉度 @arther456

《大湊と単冠湾が動けないと聞いてな。それならまだ手の空いてる我々が動いたほうがいいと思って、こっちに駆けつけたんだ。感謝するがいい》「ええ……」普段なら嬉しい援軍だが、今日に限って提督は喜べなかった。「えっと、極東軍の、陸上部隊も来てるんですか?」21

2017-07-17 22:03:43
劉度 @arther456

《そうだ》「あの、なんで陸上戦力を?」《深海棲艦が上陸しようとしているのだろう?城島大将から聞いたぞ。だから部隊をいくつか引っ張ってきた》「そ、そうですか……」理屈はわかる。だが、極東軍の一部はロシアンマフィアと通じている。神威を匿っている今は、なるべく近付いて欲しくない。22

2017-07-17 22:06:07