ゴールデンカモイ #4

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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-07-20 21:01:24
劉度 @arther456

1907年、阿頼度島は酷い時化に襲われていた。「ちくしょう……ちくしょう……!」雨に濡れながら、男たちは涙を流していた。彼らの前に一人の男の亡骸がある。その顔には深いシワが刻まれており、相当な年月が垣間見えるが、表情はどこか遊び疲れて眠る少年のようでもあった。1

2017-07-20 21:03:19
劉度 @arther456

やがて一人の若者が顔を上げた。「行くぞ。旦那のためにも……俺達は、ロシアに行かなきゃならん」他の男たちも頷き、立ち上がる。彼らは老人の遺体を穴に寝かせると、一人ずつ、丁寧にその上に土をかけていった。屍の傍らには、男が終生振るい続けてきた、一振りの刀が共に横たわった。2

2017-07-20 21:06:15
劉度 @arther456

【ゴールデンカモイ】#4

2017-07-20 21:07:07
劉度 @arther456

「チタタプ、チタタプ」アウ・ライト島の林の中で、杉坂はリズムよくリスの肉をナイフで叩き、ミンチ肉を作っていた。アイヌ料理の1つ、チタタプである。骨を取りにくい小動物の肉を、骨ごと砕いて肉団子にすることで、余すことなく食べることができるようになる。3

2017-07-20 21:09:08
劉度 @arther456

「じゃあ、次、不知火さん」「私ですか」不知火は渡されたナイフを使って、リスの肉を叩き始めた。「チタタプって言ってください」「なぜ」「言ってください」神威がチタタプを強く推してくる。「チタタプ……チタタプ……」「声が小さい!」「なんですか一体」4

2017-07-20 21:12:04
劉度 @arther456

その後、やましろもチタタプして、ようやく肉団子ができあがった。「昔は生で食べてたらしいですけど、今日はオハウにしましょう」火にかけた鍋に、肉団子にしたチタタプとキノコを入れる。「味付けは……ああ、しまった。プクサキナがあれば良かったんですけど」5

2017-07-20 21:15:05
劉度 @arther456

「プクサキナ?」鍋を覗いていた不知火が聞いた。「ニリンソウのことです。一緒に煮込むとお肉の味が倍になるんですよ。これがまた美味しくて美味しくて」「ウチの味噌じゃダメなの?」やましろが持ってきたタッパの中には、城島お手製の味噌がある。「オソマ……」「何その顔」6

2017-07-20 21:18:02
劉度 @arther456

「神威さん、神威さん」杉坂が神威に囁いた。「なんです?」「あるんですよ、ニリンソウ……!」そう言いながら懐から取り出したのは、ビニール袋に入った若草だった。それを見た途端、神威の顔に満面の笑みが浮かんだ。「さっきの休憩中に見かけたから、採っておいたんですよ……!」7

2017-07-20 21:21:12
劉度 @arther456

「早速オハウ、に……ああ……」嬉しがっていた神威だったが、その声が急にトーンダウンした。「あ、あー……」やましろも何かに気付いた。「え、どうした?」「杉坂さん……これ、ニリンソウじゃないです」「え?」「トリカブトよ。危なかった……」8

2017-07-20 21:24:11
劉度 @arther456

ニリンソウとトリカブトの若草はよく似ている。猟師とは言えまだ山歩きの経験が浅い杉坂には、見分けがつかなかったのだ。無論、鍋に使えるものではない。「仕方がないですね。味噌のオハウにしましょう」「杉坂さん、それ早くしまってよね」「何の役にも立ちませんでしたね」9

2017-07-20 21:27:01
劉度 @arther456

「うう……何も寄ってたかっていわなくても……」特に何もしていない不知火にまで白い目を向けられ、杉坂はしょんぼりしつつニリンソウ改めトリカブトをバッグに戻した。結局、オハウの味付けは島で採れたキノコと、やましろの持ってきた味噌で味付けることになった。10

2017-07-20 21:30:25
劉度 @arther456

しばらくしてから鍋の蓋を開けると、真っ白な湯気が立ち上り、芳しい香りとともに杉坂たちの顔を包み込んだ。視界が晴れると、ぐつぐつと煮えた具材が姿を現した。詰め込まれた肉や山菜には、どれもくまなく火が通っている。『食べ頃』という言葉をそのまま形にしたようだった。11

2017-07-20 21:33:17
劉度 @arther456

「おおっ、こいつは美味そうだ。なあ、早く食べようぜ!」「はいはい。今よそいますから、待っててくださいね」神威は持ち込んだお椀にそれぞれのオハウを盛り付けた。「さ、どうぞ、めしあがれ」「いただきまーす」「いただきます」杉坂たちは早速鍋を食べ始めた。12

2017-07-20 21:37:04
劉度 @arther456

リスのチタタプを歯で真っ二つにすると、肉汁が吹き出た。やましろは熱さに一瞬顔をしかめたが、同時に口の中に広がった旨味に目を見開いた。「あら、意外と癖がなくて、おいしい……!?」「骨も粉々になっていますね。いい食感のアクセントです」不知火も神妙な顔で肉を食べている。13

2017-07-20 21:39:02
劉度 @arther456

続いて汁をすすってみる。肉と山菜の味が溶け込み、それらを味噌が引き立てる。自家製味噌のおかげか、塩味はそれほどでもなく食べやすい。「んまっ……あー、白いご飯が欲しい」やましろが幸せそうな顔で呟くが、残念ながら米はない。それでも美味しい食事なのは確かだ。14

2017-07-20 21:42:03
劉度 @arther456

「うん、こりゃあヒンナだ」杉坂が満面の笑みで言った。「ヒンナ?」「アイヌの言葉で『おいしい』って意味です」不知火の疑問に、神威が答える。「なるほど、ヒンナですか」「ヒンナヒンナ」やましろもすっかりジビエに味をしめている。「うまい飯はありがたいよなあ。生きてるって感じがする」15

2017-07-20 21:45:03
劉度 @arther456

杉坂のその言葉に、不知火はふと、疑問を持った。「そういえば、杉坂さんはどちらの部隊に所属していたのですか?」彼の陸軍制服、そして顔の傷を見れば、かつては軍人だったことはわかる。「ん、あー……俺はなあ、南西諸島から帰ってきたんだ」16

2017-07-20 21:48:02
劉度 @arther456

「それは……申し訳ありません」「いや、謝ることじゃねえよ」かつて、深海棲艦との防衛戦のために、南西諸島には続々と兵士が送り込まれた。しかし制海権を奪われた後、彼らは島に押し込められ、戦いにもならない虐殺に晒され続けてきた。帰ってきた兵士は半分にも満たなかったという。17

2017-07-20 21:51:03
劉度 @arther456

「流石にあの時は辛かったけどよ……手榴弾もなんか爆発しなかったし……とにかく海軍のお陰で生きて帰ってこれたんだ」「ですが、あなた達が孤立したのも、我々の失態です」「だからおあいこだよ」そう言った杉坂だったが、ふと、少し離れたところの茂みが、かすかに揺れているのに気付いた。18

2017-07-20 21:55:16
劉度 @arther456

「あー」杉坂はバッグからタバコを取り出し、立ち上がった。「ちょっとタバコ吸ってくる」「そうですか」不知火が意味ありげな視線を向けてきたが、止めることはなかった。茂みの横を通って、3人が見えないところまで来ると、タバコに火をつけた。オレンジ色の火を見つめながら、紫煙を吐き出す。19

2017-07-20 21:57:04
劉度 @arther456

――その背後から近寄る人間がいた。土にまみれたスコップを構えた2人のロシア人が、足音を立てないようにゆっくりと、杉坂の背後から近付いていた。十分間合いを詰めると、2人は顔を見合わせて頷き、スコップを振り上げた。狙いは杉坂の後頭部だ。20

2017-07-20 22:00:19
劉度 @arther456

「ンゴッフ!?」突然、髭を生やした方のロシア人が崩れ落ちた。「アッ!?」いつの間にか背後にいた紫色の髪の少女が、回し蹴りを脇腹に叩き込んだところだった。「このッ……!」もう1人はスコップを振り下ろそうとする。が、動かない。「え?」振り返ると、杉坂がスコップの柄を掴んでいた。21

2017-07-20 22:03:06
劉度 @arther456

男は驚く間もなく、杉坂の前蹴りを食らい、地面に倒された。杉坂と不知火は、倒れた2人を黙々と蹴りつける。あっという間にロシア人たちは気絶した。「杉坂さん、ロープをどうぞ」「おう、ありがとうな」気絶したロシア人を縛り、2人は焚き火まで戻った。22

2017-07-20 22:06:04