ゴールデンカモイ　＃１３

劉度 @arther456

その腕をガングートが外側から抱え込んだ。獣といえど関節はある。振り払うための左腕は失った。「取ったぞ……！」大木が折れたような音が、海岸に響いた。ネオヒグマの肘が逆方向に曲がった。痛みに絶叫しながら、ネオヒグマは折れた腕をガングートごと振り上げる。22

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「おおっ！？」砂浜に叩きつけられ、ガングートは手を放してしまった。その衝撃で老人も吹き飛ばされた。身を起こしたネオヒグマが、ガングートを踏み潰そうとし、突然振り返った。ネオヒグマの懐に、ナイフを括り付けたライフルを持った杉坂が飛び込んでいた。23

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狙いは、左腕を失いガラ空きになった心臓。ネオヒグマは折れた右腕を振り上げる。「おおおおっ！」ナイフの切っ先がネオヒグマの胸に当たった。毛皮を切り裂き、しかしその先に進まない！魔法ではなく、単純に分厚すぎる筋肉が、鋼鉄を食い止めている！24

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頭上の腕が迫る。「殺してみろ……っ！」杉坂は足を踏ん張り、銃剣を押し込む。鋭い刃が肉を切り裂き、ネオヒグマの心臓に迫る。己を奮い立たせるため、杉坂は咆哮した。「俺は不死身の杉坂だっ！」ネオヒグマは、ほとんど倒れ込むように、その腕を振り下ろした。25

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「杉坂さんっ！」神威の叫びが海岸に響いた。ネオヒグマの爪は、杉坂の頭を掠め、宙を掻いて力を失っていた。前のめりになったネオヒグマの体重が、ナイフを心臓に届かせたのだ。偶然にも、熊に追い詰められた昔のアイヌ人が使った、決死の戦法と同じだった。26

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魔獣は倒れたが、誰も立ち上がらなかった。想像を絶する大自然の魔獣に、誰もが死力を尽くしていた。ただ一人、援護に徹していた人狼を除いて。「さて、指輪を探さねばな」ナチスの人狼、ゾルダーゲンは、アメリアの柩があった辺りを見た。そこには、北方水姫のせいでクレーターができていた。27

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「……いかん」ゾルダーはクレーターに駆け寄る。嫌な予感が当たった。アメリアの柩は、北方水姫の突撃で粉々に砕けていた。部品もあちこちに散らばり、指輪がどこにあるか見当もつかない。「こっちだ！」「隊長、大丈夫ですか！？」更に、ロシアの輸送艦から兵士たちが降りてきた。28

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「これは、どうにもならんか」指輪を回収できなかったのは無念だが、あの数は相手にできない。それに、制御する柩が壊れてしまったから、持ち帰っても使い道がない。「素直に退くか。残念だ」砂に頭から埋まっている護衛棲姫を飛び越えて、人狼は森の中へと姿を消した。29

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幌筵泊地から逃げる、一人の深海棲艦がいた。「ここまでくれば大丈夫だろ」北方水姫だ。ネオヒグマに吹き飛ばされた後、一命を取り留めた彼女はこっそりと戦線を離れていた。「ごーちゃんをさら……お迎えできなかったのは残念だけど、沈んだら元も子もないからな。我慢だ、我慢」31

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前方に空母の深海棲艦を見つけた。ようやく仲間に出会えて、北方水姫はホッと息を吐いた。「おーい」彼女が手を振ると、空母たちは近づいてきた。これで助かる、と思った北方水姫だったが、その顔が引きつった。空母たちは、頭に艤装ではなく警察の帽子を乗せていた。ヲまわりさんだ。32

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「まずい……！」北方水姫の服は激戦のせいでボロボロ、隠すところは貞淑に隠しているが、ほぼ全裸だ。そしてヲまわりさんは、そんな彼女を公然わいせつ罪で現行犯逮捕しようと、全力疾走し始めた！「ウオアァーッ！？」社会的生命を賭けた、不毛な鬼ごっこが始まる――！33

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「ほっ、ぽっ、ぽいっ！」「むあー」砂浜に上半身が埋まっていた護衛棲姫だったが、北方棲姫のお陰で無事に引っこ抜かれた。「だいじょうぶ？」「頭クラクラする」「かぜ？」「っぽい」護衛棲姫はその場にへたり込んだ。頭から埋まって風邪になる理由はわからない。恐らく、疲れただけだろう。35

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「えーと、とりあえず全員無事か」メンバーを一か所に集めた提督は、仲間が一人も欠けていないことを確かめて安堵した。少し離れたところでは、潜水棲姫がマグロを連れて逃げようとしていた。彼女と目が合った提督は、即座に首を横に振った。お互い、これ以上は戦えない。36

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潜水棲姫はフン、と鼻を鳴らして海に入っていった。提督たちとは別の場所に集まっていたガングートとロシア軍は、それを訝しげな目で見ていたが、止めようとはしなかった。《提督。海上部隊の収容が完了しました。中破２隻ですが、全員生還です》幌筵の艦娘を食い止めていた仲間も無事だ。37

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「ただ、これがなあ……」最後に提督は、座礁した蔵王を見上げた。妖精さんたちが応急修理を始めているが、舵を始めとしてあちこちを損傷している。艦娘ではないただの船とはいえ、苦楽を共にした艦の負傷には提督も心を痛めた。38

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《東郷くん！無事かい！》今頃、幌筵の城島大将が通信してきた。「無事じゃないです。負傷者多数、蔵王も中破です」《すまん、ホンマすまん！今やっと、あのバカ共が止まった！》「まあ、そうでしょうね……」提督の視線の先には、破壊された『アメリアの柩』の残骸があった。39

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「とにかく救護班と、工作隊を大至急お願いします」《わかった！》通信を切る。ふと、北方棲姫を見ると、何やら護衛棲姫の角に手を当てていた。「どうしたの？」「とれないの……」護衛棲姫の角に、金の輪っかが嵌っていた。「あー、それならあれだ。石鹸水で濡らし……て……？」40

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提督の顔がみるみるうちに青くなる。「ぽ？」「ねえ、隼鷹、グラーフ、ちょっと」集まってきた隼鷹とグラーフも、護衛棲姫の角を見て表情を強張らせた。「指輪だねえ」「指輪だな」箱が壊れた時に、勢い良く嵌ったのだろうか。角には『アメリアの柩』の核となった指輪が引っかかっていた。41

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【ゴールデンカモイ】＃１３おわり＃１４へ続く