MHDエピソードゼロ

MHDのssです。
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gori@創作 @gorryyyyyy

MHDエピソードゼロ ファルト編~そのⅥ~

2018-06-06 21:31:21
gori@創作 @gorryyyyyy

崖を蹴ると、樹海の夜露が跳ねる。 満ちた月へ翔び、眼前に地平線へと樹海が広がる。 吹き付ける冷たい風に、彼は目を閉じた。

2018-06-06 21:33:30
gori@創作 @gorryyyyyy

目の前の少女すら救えなかったオレが、人並みに愛し、愛される資格なんて無い。 オレの左眼が見ているモノは、醒めない夢なんだ。 それにも今夜、決着がつく。

2018-06-06 21:36:12
gori@創作 @gorryyyyyy

すっ、と息を吸うと、迫る大木へと身を滑らせる。 木の葉を散らし、夜の地へ転がり、着地を完遂する。 ひんやりとした土を踏みしめ、周囲を見渡した。

2018-06-06 21:36:45
gori@創作 @gorryyyyyy

縄張り意識が強い彼奴の事だ。きっと音を頼りに近付いてくる。 呼吸を整えながら、背中から雌火竜の深緑の弓を引き抜き、ポーチから瓶を取り出す。

2018-06-06 21:37:33
gori@創作 @gorryyyyyy

「こんな夜中に散歩かい?」 その声に反応し振り返る頃には、それは姿を表していた。 「お前は……」 肩から延びる太刀に、赤布の口当てを指先で下ろし、白い息を吐くノブツナがそこに佇んでいた。

2018-06-06 21:40:21
gori@創作 @gorryyyyyy

煙草に火をつけ息を吐き出すと、煙が月に照らされ紫煙と化す。 「狙ってるんだろ?『隻眼』。動くなら今日だろうと…」 「帰れ」 言葉を遮り、告げる。 ビンを装填する背後で、溜め息混じりに煙を昇らせた。

2018-06-06 21:41:51
gori@創作 @gorryyyyyy

「……あの街が壊滅したのは、俺の責任なんだ。」 ファルトの背中がぴくりと反応する。 振り向く半面には、金色の右眼が、過去が、ノブツナを見つめていた。 「少し時間をくれないか。夜は長い。特に今夜は。」

2018-06-06 21:42:54
gori@創作 @gorryyyyyy

煉瓦の燃え盛る街を、彼は走り抜ける。 赤布の口当てを深く被り、まだ手に馴染まぬ太刀を握り締めた。 急げ。この身がどうなろうと。 ———初めての遠征とはいえ、俺が彼奴を刺激してしまったのだから。

2018-06-06 21:44:55
gori@創作 @gorryyyyyy

「居たぞ!」 路地の先頭を行く騎士が叫ぶと、広場へと布陣を展開する。 目にしたものは、真っ白な少女が黒狼鳥の嘴に砕かれる光景だった。 ぎりり、と歯を喰いしばる。 叫び声は拒絶に近かった。後悔と怒りに燃えた瞳を見開き、一直線に黒狼鳥へ駆ける。

2018-06-06 21:47:17
gori@創作 @gorryyyyyy

彼奴に眼前までに迫ったその時、大きく広げられた翼が空を打ち、その凄まじい風圧に足を止められるノブツナ。 黒狼鳥の尻尾が唸り、少年の顔面を捉える姿を、ノブツナの目が見届けた。

2018-06-06 21:50:01
gori@創作 @gorryyyyyy

「———あれから、俺も彼奴を追っていた。そして、お前達に会ったんだ。」 燻る煙草を踏み、今一度深く息を吐いた。 残る月の光だけが、二人の影を色濃く浮かび上がらせる。

2018-06-06 21:51:54
gori@創作 @gorryyyyyy

「……お前の人生がメチャクチャになったのも、アイツを狩らなきゃいけなくなったのも、全て俺の所為なんだ。……今更謝った所で許されるものでもない。だからこそ、全てを俺の手で断ち切らなきゃいけないんだ。」

2018-06-06 21:52:50
gori@創作 @gorryyyyyy

ノブツナの眼は真っ直ぐにファルトの眼を見つめていた。 視線を返しながら、ファルトは思う。 コイツが言っている事は、「獲物を横取りする」だとか、そんなちゃちなモノじゃない。 あの日巻き込んだ全ての人間を、背負って生きなければならないと思っているんだ。

2018-06-06 21:54:06
gori@創作 @gorryyyyyy

これ以上自分が犯した間違いで、人を死なせたくない。だから、ノブツナ自身で決着をつける。 あの男が言っている事は、きっとそういう事なのだろう。

2018-06-06 21:57:20
gori@創作 @gorryyyyyy

———ふと、昔に読んだ御伽噺の少年を思い出した。 身体と影がうっかり切り離され、その影を取り返しに行く、間の抜けた少年の噺だ。 オレの影は、あの日、あの怪物に繋がれたままなんだ。 ……だから、取り戻して、繋ぎ止めなきゃいけないんだ。 終わらせるんだ。この覚めない夢を。

2018-06-06 21:58:13
gori@創作 @gorryyyyyy

「だから…」 「もういいよ」 続くノブツナの言葉を遮り、歩を進める。 「もういい」 寄りかかった木がぎしりと揺れる。あの男も、口あてを鼻まで上げ、此方へと向かった。

2018-06-06 21:59:00
gori@創作 @gorryyyyyy

「オレが、あの事件を引き起こした張本人をここで見逃す程、お人好しに見えるか?」 流れるは沈黙。両者の距離が、間合いへと身を沈めた。 「オレ達がここで殺り合う理由は、それで充分だ。」 もう互いに言葉は必要無いように思えた。 何かを言うでもなく、二人の右手は得物へと掛けられていた。

2018-06-06 22:01:39
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