深海棲艦に育てられた神通さん

深海さかな @dzurablk_kai

「・・・今ので、それ以上に元気がなくなってきました・・・」 「ル級てめえ！ 余計なことを！！」 皆の笑いに包まれる浜辺 日ごろ無口で無表情なヲ級でさえも、笑っていた #深海棲艦に育てられた艦娘

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今にしてみると、皆の笑顔を見たのはこれが最期だったかもしれない 翌日になって事態は急変したのだから #深海棲艦に育てられた艦娘

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「友軍が来たぞ」 あくる日の夕刻、物資を受領に来た艦隊を出迎えるため、私とタ級は島の少し沖合いに警泊していた 「ひいふう・・・よし、打ち合わせの通りだな」 双眼鏡を構えたまま呟くタ級 #深海棲艦に育てられた艦娘

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だがその声色は突然、普段のクールな立ち居振る舞いからは想像もつかないほど緊迫感が溢れるものに豹変した 「待てよ、なんだあれは・・・？ 後方に何かが・・・敵機！？」 それと時を同じくして、接近しつつある味方艦からの発光信号 #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

『我、敵ニ追尾サレツツアリ 乞ウ、支援』 余程慌てていると見え、所々順序のおかしくなったモールスが事の重大さを伝え来る 比較的平穏なはずだった任務に突如として訪れた敵の存在に、思わず脚がすくみ声が出せなくなる #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

上がる息、増大する胸痛、身体は全く動かせず四肢が僅かに震えるのみ そんなコントロールの効かなくなった身体を開放してくれたのは、タ級の力強い手だった 背中を叩かれ静止していた時が動き出したかのように息を吹き返す私の肺 #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

「生き返った？」 だが冗談めかした口調に反して、流石の戦艦と言えど彼女の表情も固かった 「アナタは早く島に戻って、物資を取ってきなさい」 「タ級さんはどうするんですか！？」 #深海棲艦に育てられた艦娘

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「私の遅い脚ではアナタの邪魔になるし、それになにより奴らを本拠地に行かせる訳にはいかないわ ここで、私と輸送部隊が敵を食い止める」 「そんな！！ 危険すぎま・・・」 「早く行けッッ！！！」 私の声は突然の怒号に遮られた #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

だがそれでも未だ逡巡する私に、タ級はニッと笑って見せた 「私は死にはしないわよ、アナタと違って胸の装甲も厚いしね？ アナタにはやるべきことがあるでしょう？」 その言葉でようやく私は、弾かれたように踵を返して島へ引き返すことができた #深海棲艦に育てられた艦娘

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「行きなさい・・・ アナタは、生きて・・・」 #深海棲艦に育てられた艦娘

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敵の航空隊はかなりの手練らしく、私とタ級が二手に分かれた後も統制を失うことなく戦力を分配し、私の背後にも迫ってきた 後方の頭上から響くエンジン音は急降下爆撃機だろうか 相対速度を殺すことで命中率を最大に引き出せる位置取りからしても、その練度は明らかだ #深海棲艦に育てられた艦娘

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だがそれとは別に左右方向のやや遠くから私を追い越すようにフライパスして行く機影の二群も見える こちらは攻撃機だろう、左右前方斜めから同時に放射状に魚雷を放って、私を投網よろしく雷跡に捕らえる腹積もりなのだ #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

背後からの爆撃をかわすためには左右に転舵しなければならないが、そうすると斜め前から襲い掛かる魚雷に側面をさらすこととなる なるほど、理想的な襲撃隊形と言えた これに対して私が持つのは砲身が30度しか持ち上がらない、とても対空用とは言えない単装砲のみ #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

背後にいた敵機のエンジンが一際高い唸りを上げる 回転数を上げてパワーダイブに移行した証左だ だがまだ回避運動には早い だんだんと近づいてくるレシプロ機の羽音に、やがてハエが飛ぶような重低音が混ざり始めた #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

敵機がダイブブレーキを展開したことを音から察すると同時に、一気に右へ回避 数秒後私のすぐ左隣には三つの水柱が立ち上っていた 初の実戦で試みた初の航空攻撃からの回避運動は予想外に上手くいったらしい チ級の訓練の賜物だ、いくら感謝してもしきれない #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

だがすぐ頭上を飛び去る敵機に、私は安堵しかけた気を引き締めなおす 私の両親を殺したのと同じ緑色の飛行機は、飛び去ったほかにも今まさに前方で水面を這うように近づきつつあったのだ 前方と左方から迫りつつある９機ずつの雷撃機 #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

即座に左へ転舵してもとの航路に戻ると同時に、既に最大船速だった船足を一杯まで引き上げる 魚雷が放たれる前になんとしても投網のキルゾーンから脱出しなくては 身を捩るかのような激しい振動と共に足の下でブラウンカーチスが甲高いエグゾーストを奏でる #深海棲艦に育てられた艦娘

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右の敵機が魚雷を投下した 急降下爆撃をかわすために転舵した影響で、右の敵機はかなり距離が近い 脳裏で敵の想定魚雷散布角と今の距離の誤差を計算して速力を少し落とすと同時に、未だ魚雷を抱えたままの左の敵機に向けて対空砲撃を開始 #深海棲艦に育てられた艦娘

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このまま行けば、船足を落とした影響で右の敵機からの魚雷は前方を通過していくはずだ あとは急加速して左からの魚雷を後方にかわせばよい 私との距離が詰まったことで慌てて右の連中が魚雷を投下したことから察するに、敵機にも焦ることはあるはずだ #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

魚雷投下と同時に散会した右の機とは異なり、未だ重たい魚雷を抱えて鈍重にしか飛べない雷撃機相手なら、14センチ砲でもそれなりにプレッシャーを与えることはできるはず そう結論付けてのべつまくなしに主砲を乱射する #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

だがここで私は、致命的なミスを見落としていたことに気付いた 接近しつつある敵機が肉眼で確認できる距離に迫った折に、見えてしまったのだ その機体の腹には既に、魚雷が吊るされていないことを #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

雷撃は放射状に魚雷を放つため距離が近いほど雷跡がまとまっており避けやすく、遠距離では逆に避け難い こちらに真っ直ぐ突っ込んできていた左の敵機は詰まるところ、より遠距離から魚雷を放っていたわけで、そのことに遅れて気付いた私にとってそれは致命的とも言えた #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

通常なら雷撃直後に回避に移るはずの敵機の思わぬ偽装工作に目を落とすと、功績の残らない敵魚雷はすぐそこまで迫っていた 今から主砲で弾幕を張っても間に合わない 避けきれない 被弾してしまう、沈んでしまう #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

そう私が諦めかけ主砲を下ろしたときだった #深海棲艦に育てられた艦娘

深海さかな @dzurablk_kai

突如視界の横合いから飛び込んできた黒い何かが私と魚雷の間の水面に飛び込むと同時に、轟音と水柱が立ち上った 何が起きたか理解できずに辺りを見回すとそこには、見慣れた銀髪と大きな帽子 「無事か」 「ヲ級さん・・・！？ なんで・・・」 #深海棲艦に育てられた艦娘