近現代日本の人身売買について

明治維新以降、近代化を目指す日本の中で立ち遅れた女性、子供、貧困層といった弱者たちはその身を売るしか生きるすべを持たなかった。 売春従事者に対して前借金で縛ることを禁じた売春防止法の成立は戦後も10年が過ぎた1955年であった。 なぜ日本で身売りを禁じる法律がなかなか成立しなかったのか。その経緯を追う。
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波島想太 @ele_cat_namy

山形市役所の職員が生活扶助の相談に来た戦争未亡人に「職がなかったらパンパン(街娼)になったらどうだ」など発言したことが発覚。衆議院から山形県へ調査官を派遣すると通告したところ、県側は「本件は神奈川県があまりに煽り立てたことであって、対策しようにも予算がない」と開き直る始末。

2017-08-16 11:59:45
波島想太 @ele_cat_namy

もうひとつが新潟事件であり、これも農業県であるがゆえの次男以降や女子の身売り事件である。詳細は割愛するが、この事件を機に「買った側」も逮捕するようになっていき、特殊飲食店が警戒する事態となる。

2017-08-16 13:21:14

人身売買の根源としての特殊飲食店

 特に人口集中する都会において性欲のはけ口である特殊飲食店の需要は大きく、あまりに利潤が大きいために手広くやりたい事業者と、それなりにまとまった前借金を得られる親との利害が一致してしまい、女子の身売りが激化する。

波島想太 @ele_cat_namy

かように特殊飲食店が身売りの温床になることを警察その他も認識していて重点的な警戒など行ってはいたが、特殊飲食店そのものの是非を問うまでには至らなかった。人身売買を「慣習」「伝統」としかとらえていないことのあらわれである。

2017-08-16 13:24:52
波島想太 @ele_cat_namy

1952年、第三次吉田政権下において、新潟事件についての証人喚問が行われた。ここで数多くの人身売買の実態と、警視庁などの危機感のない認識などが公式に明らかにされる。特殊飲食店業者は人身売買にならないようやっていると言いながら前借金を当然のように語り、事実上人身売買を自白している。

2017-08-16 13:33:12

要するに前借金を本人でなく親に渡してしまうこと、その借金を根拠に辞められないよう拘束することが人身売買であるという認識がないのである。

波島想太 @ele_cat_namy

(「前借金がある」という理屈で人身売買をも正当化してしまう。「理由があれば殴ってもいい(その理由の正当性、妥当性は問わない)」という現代にも連なる誤った正義感がここにも見える)

2017-08-16 13:35:36
波島想太 @ele_cat_namy

厚生事務次官は「国民の人権尊重意識が足りない」と責任転嫁し、文部事務次官は「女性の性道徳の欠陥に問題がある」などとのたまう。 これらの証言を受けて、買い主、売り主への処罰も厳重にすべきと結論付けている。ここに来てやっと人身売買への処罰法が主張されたのである。

2017-08-16 13:40:41
波島想太 @ele_cat_namy

しかし、しかしである、それでも「特殊飲食店」そのもの、つまり売春への取締りは否決されてしまう。さらに人身売買取締法について「近く国会に提出」としていた法務府が、いつの間にか「いずれ」に変わり、うやむやになってしまう。特殊飲食店における売春容認が国策だったためである。

2017-08-16 13:47:24
波島想太 @ele_cat_namy

婦人少年局の調べで、1952年7月~翌年6月の18才未満の人身売買被害者は1883名に及び、うち女性が1756名と93.3%を占め、その中で売春系は1243名にもなる。

2017-08-16 13:55:51
波島想太 @ele_cat_namy

農漁村の人身売買は社会批判にさらされ減少していくが、一方で売春目的の女性の売買が主流となっていく。農漁村に売られた子供は同情されるが、売春目的で売られた女性は「堕落した女性」の烙印を押される。特殊飲食店で働くのは「あくまで自由意思」と言い張ったことも影響しているだろう。

2017-08-16 13:59:26
波島想太 @ele_cat_namy

(特殊飲食店に通う男性にとっても、そこで働く女性が「自由意思でやっている」という幻想は心地よいものであっただろう。罪悪感など持たずに済むのだから。ある種の共犯関係がそこにある)

2017-08-16 14:07:25
波島想太 @ele_cat_namy

繰り返される冷害、凶作や、エネルギーシフトによる炭鉱の閉鎖で東北や北海道は深刻な貧窮にあえいでいた。一方で朝鮮戦争特需は都市部での雇用を生み、それによる集団就職は多少は人身売買を抑制する効果があった。しかし人口集中が特殊飲食店の需要を増し、人身売買もまた増えていく。

2017-08-16 14:16:34
波島想太 @ele_cat_namy

1953年国会の法相犬養毅の発言に「農村の空気というものが又我々の想像外のものがありまして、本人が都会に行っていい着物を着ることをなぜ邪魔するのだというような空気もあるのでございまして」とある。(著者は議員に批判的だが、そうした国民の選ぶ国会議員の限界というものもあるだろう)

2017-08-16 14:21:28

著者は一貫してなかなか立法に踏み切らない政府に対して怒りを抱いているが、当の国民自身が子の身売りによる利を得ており、またそれを当然とする風潮(あるいはそうでもしないと生きていけないという事情)が根強くあり、立法作業は一進一退を続ける。

波島想太 @ele_cat_namy

職安では「女給さん百名募集!」などという景気のよすぎる怪しい案件は断っていたが、そうすると怪しい業者が職安で順番待ちをしている女性に話しかけ、甘言で誘い出してしまうということもあったという。行商を装って農村をめぐる周旋屋もいた。

2017-08-16 14:32:06
波島想太 @ele_cat_namy

町に売られた「先輩」が着飾って帰郷し、他の女性を呼び寄せようとする事案もあった。差別から貧困に陥り、売られていく少女もいた。 売られる側の道徳心の欠如に責を求めるということを、政府だけでなく一部の報道も行っていた。これが変化するのは1956年の売春防止法を待たなければならない。

2017-08-16 14:48:44
波島想太 @ele_cat_namy

炭鉱閉鎖により北日本だけでなく筑豊地方でも身売りが増えた。人妻の身売りも多く、1955年には妻の売られた特殊飲食店に現れ、妻とダイナマイトで心中するという事件も起きている。食うに困った炭鉱労働者が周旋屋として人身売買に荷担する例もあった。

2017-08-16 14:55:39
波島想太 @ele_cat_namy

【自殺でみる人生】母がダイナマイトで自殺も実感なし - ZAKZAK zakzak.co.jp/entertainment/… これは岡山の話だが炭鉱街等でのダイナマイト心中は他にもあるらしい。

2017-08-16 15:32:06

ようやく成立する売春防止法

 基本的人権を謳う日本国憲法下においても、成立までに十年の月日を擁した。

波島想太 @ele_cat_namy

ここから売春防止法成立の過程を追う。 1948年にGHQの要請を受け、性病予防法案、風営法とともに売春等処罰法案が提出された。売春した者、買春した者、売春の管理者、経営者、周旋者、場所の提供者すべてを処罰するという内容だったが、前二者は成立したもののここでは流れてしまった。

2017-08-16 15:37:10
波島想太 @ele_cat_namy

その後は府県、市町村の条例で買売春を取り締まる動きが出た。特に米軍基地所在地やその周辺が多かった。ただしこれらの条例は街娼(いわゆる「立ちんぼ」)を対象にしており、特殊飲食店は黙認だった。

2017-08-16 15:40:02
波島想太 @ele_cat_namy

1952年にサンフランシスコ平和条約が発効し占領が終わると、国際社会への復帰のため国連加盟を目指す。国連ではすでに世界人権宣言を採択しており、人身売買を強く禁じていた。国連からの聞き取り調査に日本の外務省は「厳密な意味での人身売買は存在しない」と回答する。(悪い予感しかしない)

2017-08-16 15:44:17
波島想太 @ele_cat_namy

しかし児童や婦女にその意思に反して売淫させる行為などを「いわゆる人身売買」として「厳密な意味での人身売買」とは区別した上でこの存在を認めている。売春の原因として第一に経済的理由、第二に道徳的理由を挙げており、ここでも売られる側の責任を重視している。

2017-08-16 15:48:31
波島想太 @ele_cat_namy

公娼制度についても「存在しない」と言い切る。特殊飲食店に売春の資格を公的に認めているわけではないが、黙認しているという事実は「承認された売春宿」に該当するはずだが、日本政府はそれにも当たらないとしたのだ。

2017-08-16 15:51:08
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