- emyuteitoku
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「ウオオオ!ヤッカコラー!テメッ、あう…ッコラー!んがー!どうして俺一人でガネーシャ=サンの相手しなきゃならないんだ!」スクトゥムは作戦通り、本隊から恐るべき魔技の使い手を引き離すことに成功した。ライオンハートはきっと上手くやるだろう、だが、今ここにいるのは自分一人。1
2017-09-13 21:20:44(ナンデ!イッキウチ!)スクトゥムはチェルノボグの次にディープオーダーに参入した最古参、自軍の戦力を彼女は知っている。だからこそ――(チェルが負けた相手に!俺一人!?ザッケンナ!)タンソウホウサーカスに負けるわけにはいかない。しかし、ガネーシャに勝てる気がしない。2
2017-09-13 21:22:30スクトゥムの狼狽に、ガネーシャは優しく笑いかける。「何を迷う。勝てるからこそ一騎打ちを選んだのだろう?」「あん!?まま、ま、負けるつもりなんてねえし!これは、その…ああ!チクショウ!」勝機はない、ブリーフィングの時点でわかりきっていた。勝てない、敵わない、なのにどうして――3
2017-09-13 21:24:53「何故私との戦いを選んだ、思い出せスクトゥム=サン」「思い出す?」一体何を?すでに諦めはついている。――いや、そういえば、どうして俺は断らなかったんだ?それは、自分の役目、ディープオーダーの勝利のために必要な物が、見えていたからではないのか?「そうだな…俺は、盾だからな!」4
2017-09-13 21:26:14「イヤーッ!」スクトゥムはムテキアティチュードをとった。彼女の最も得意とする守りの構え。しかし、今回はいつもとはわけが違う。もしも、ここでくずおれるならば、全てが意味を無くす、全てが破壊の塔を前に消え行くだろう。防がねばならない、止めなければならない、友達のために!5
2017-09-13 21:27:38「通せねえな…ここは絶対通せねえ!俺が信じる王様が勝つまで!俺と遊んでもらうぜ、ガネーシャ=サン!」スクトゥムは五臓六腑に、己の信じるカラテの全てが満ちるのを感じた。(ガネーシャ=サンのカラテは守りに寄る。貫通力が低い!…と思う。ひとまず警戒すべき武器はジャマダハル!)6
2017-09-13 21:29:01「来な!」激しく啖呵を切り、スクトゥムは冷静にガネーシャの武装に目を配る。注意すべきは貫通力を持つ武装。(さあ、何を選んだ?)スクトゥムが知るカラテパヤットの中で最も貫通力が高い武器は、厚手の刃を拳の延長として握るジャマダハルだ。彼女はガネーシャの四つの手を注視する。7
2017-09-13 21:31:09右前腕にジャマダハル、貫通力のある注意すべき武装、右後腕にジャマダハル、貫通力のある注意すべき武装、左前腕にジャマダハル、貫通力のある注意すべき武装、左後腕にジャマダハル、貫通力のある注意すべき武装。全部ジャマダハルだった!「あ、違う武器使う必要ないもんな」8
2017-09-13 21:32:32スクトゥムの構えは護り一点の構え、ガネーシャがそれに対応する貫通一点の武器を構えるのは必然であった。ガネーシャは状況に合わせ武器を変える、無論一種に偏重することも可能。その当たり前に事実に、スクトゥムはテンパりすぎて気付いていなかった!「ちょっと待って」「待てんな」9
2017-09-13 21:33:25ガネーシャは四つのジャマダハルの切っ先を合わせ、体を捻る。90度――180度――270度!まだ捻る!(捻りは溜め、捻るほどに次に放つカラテの威力は増す。当たり前のことだが…やりすぎだろおい!)恐るべき柔軟性、すでにガネーシャの体は一回転している、しかしまだ溜める!10
2017-09-13 21:35:43体を捻り続けているのならば、隙だらけではないのか?読者諸兄の中には、そう思った方もいらっしゃるだろう。そう考え、もし身じろぎの一つでも見せたのならば、ガネーシャは捻りを解き竜巻となり襲いくる。故に待つしかない、それが最善、向かい合った時点でそうするしかなかったのだ。11
2017-09-13 21:37:56二回転目の捻りが始まると共に、ガネーシャの足元で海面がじゅうじゅうと音を立て蒸発する。絞り上げられあふれ出したカラテが、ジゴク・ファーナスめいた熱気を生み、海を焼く。スクトゥムは、カラテ熱波を冷や汗一つなく受ける。何と雄々しき姿か!(帰りてえー)いや、ビビっていた!12
2017-09-13 21:39:40「あー、どうすっかなこれ…」スクトゥムは思わず愚痴る。攻めれば迅速の刃に切り伏せられる、守り続けても溜めが終われば神速の刃に貫かれる。目的は時間稼ぎ、まだ十分ではない、まだ引き留めなければならない。(足りねえ!時間も、カラテも!俺は、何もできないのか?!)13
2017-09-13 21:41:05スクトゥムが打開策を見つける前に、「――時間だ」ガネーシャは構えを終えた。加えた捻りは二回転、720度!見たことも想像したこともない魔技カラテパヤットの真髄が、煮え立ち泡を立てる海に立っている。「まさか…いきなりな…」なんで、こんな奴の相手を請け負っちまったのか…14
2017-09-13 21:43:19――それは、いざとなった時の“脱出法”を持っているから、だから了承した。「まさかよ、しょっぱなから使わされるとは、思わなかったぜ」スクトゥムは初めて、右手の傍らに配備していたボタンに手を伸ばす。その気配を察知したガネーシャは、ついに溜めに溜めたカラテを解き放つ。15
2017-09-13 21:45:34それは一瞬――否、刹那の中でガネーシャの肉体は稲妻となり海を走った。放電路に隣接した海水は全て蒸発。気化した水分は膨大に体積が上昇、水蒸気爆発を引き起こし、一帯を白く染め上げた。カラテパヤットに巻き上げられた蒸気は雷雲となり、ガネーシャの周囲をバチバチと青白く照らし上げる。17
2017-09-13 21:46:57沸騰が収まり蒸気が薄れた海にガネーシャは立っていた。ヒサツワザの構えを解いた彼女の後方には、腹に赤く溶けた穴が空いたスクトゥムの姿があった。ディープオーダーの盾は貫かれ、ガラガラと音を立てて崩れていく。その様に振り向くことなく、ガネーシャはジャマダハルの切っ先を見る。18
2017-09-13 21:48:27それはガネーシャらしからぬ姿であった。彼女は相手が何であっても死を憂い、手向けを忘れない。白磁の大戦艦ナバルが破壊の塔の前に消滅した時にも、彼女は気を向け祈りを込めた。その慈母神が一瞥もくれないのは何故か?それは、直撃の手ごたえはあっても、命を奪った感触がないから。19
2017-09-13 21:50:40「ふむ…そういうことか」「いてっ」ガネーシャの後ろで何かが着水した。「くっそ、いきなり切り札使っちまった」蒸気はすでに晴れているが、降りてきた者の形は、直後に落ちてきた落下傘の布に隠される。「だああ!邪魔邪魔!イヤーッ!」落下傘がチョップに切り裂かれる。20
2017-09-13 21:51:28布の中から現れたのは、使い古して所々がほつれた、油汚れだらけの手袋と作業ツナギを身に着けた雑にまとめられたツーテールの変な女。彼女は砕けて沈んでいく己の“艤装“を見下ろした。「あばよ、愛機。長い付き合いだったが、サヨナラだ」「それが本当の姿か、スクトゥム=サン」21
2017-09-13 21:52:43そう、ガネーシャの言葉が真実。ジュージュツの使い手にして、搭乗式大型サイバネ機構を操るテクノカラテのタツジン。機械油で汚れた作業員姿がスクトゥムの本来の姿だった。彼女はコクピット暮らしで固まっていた体を柔軟体操でほぐしながら問いに応える。「そうさ、これが俺だ」22
2017-09-13 21:53:49「他人に顔を見られたのは初めてだ。…いや、身内でもライオンハートとチェルしか知らねえけど。まあ、生身でやり合うのは久しぶりなもんでな、できれば手加減頼むぜ」「加減?はて何の冗談か。加減などすれば、狩られるのは私の方だ」ガネーシャは四振りのジャマダハルを、元の肩部装甲に戻す。23
2017-09-13 21:55:53「お、おう?そうか?」スクトゥムは思わず首を傾げた。本来はったりをかますべき状況、しかし目的は足止め、相手はガネーシャ、とにかく本気を出して欲しくない。だが彼女の願い虚しく、ガネーシャはやる気満々であった。「機械を通しての指示であの反応、生身となった今、どれほどの反射速度か」24
2017-09-13 21:57:04「いやだから、その、生身でね?戦うのが、ほら、久しぶりだから手加減してって話で…」「できんな」「待て待て待て!何かほら、不公平じゃないか?」何が不公平なんだよ!スクトゥムは自分にツッコミを入れる。時間を稼ごうと思い、その結果飛び出したのはなんだかよくわからない理屈だった。25
2017-09-13 21:58:01