亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（８）「一年」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

亜里沙は、目をぱちぱちと瞬かせて、私の顔を――やっぱり照れが隠せないでいる顔を覗き込んで、そしてにぱっと笑った。 「大正解だよ！」 私の頬を両手で挟み込んで、顔を寄せて―― 唇を重ね合わせた。

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私のアイドルとしての適性が亜里沙より劣ることはきっと事実で、この差を埋め合わせることは簡単じゃないし、すべきではない。私がしたいことは、そうじゃない。亜里沙に並び立つのは他の誰かにもできるけど、最高の亜里沙を引き立たせるのは他の誰にもできない。できるもんか。やらせるもんか！

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もっと先へ、もっと強く亜里沙が輝いてくれるなら、私がその力になれるなら、私こそが、私だけにそれができるのであれば。もう迷う必要なんてない。とんでもない発想かもしれないけど――プロの目もファンの目も仮に全部亜里沙に向いたとしても、その亜里沙が私を見てくれるなら、それで十分だ。

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「そんなわけで……気分転換もかねて、明日は一日デート！　どう？」 「やった！　雪穂大好きっ」 「私も大好きだよ、亜里沙」 「んんっ！　今日はずいぶんスムーズに言えたね！　嬉しいよ！」 「……まあ、恥ずかしいのは恥ずかしいんだけど。私も……もっと全力で愛するって誓ったばかりだもん」

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「じゃあね雪穂！　今日はうちに泊まっていかない？　そのまま明日デートするの」 「え？　……泊りって、亜里沙の部屋にってことでいい……のかな？」 「もちろん！　ね？　――いっぱい愛してくれるんだよね？」 後半は声のトーンをいつもより落として、いたずらっぽく笑いながら私を見上げて。

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亜里沙がこんな声で、こんな顔で誘惑してくるなんて、ほんの半年ほど前までは想像もできなかった。もう、本当にずるい。純粋な天使にしか見えなかった昔も、すっかり私の弄び方を知った小悪魔な今も、どっちも魅力的すぎて――結局のところ、いつまで経ってもきっと亜里沙にはかないっこないんだろう。

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「でも、急だけど家族の人は大丈夫なの？」 「うちは大丈夫。雪穂もよくわかってるでしょー」 「まあね。じゃ、うちのほうか。準備も必要だし、いったん帰って説得してみるよ」 「うんうん。きっと大丈夫だよ！　穂乃果さんも味方してくれるよ！」 「お姉ちゃんの力はあんまりアテにならないなあ」

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「じゃ、またあとでねー！」 「うん。またあとで。――楽しみにしてるよ」 「きゃっ雪穂が積極的っ！」 「誘ってきたのは亜里沙のほうなんだから、覚悟しててよ」 「覚悟は、いつだってできてるよ」 「……う」 亜里沙の言葉に最後は完全にニヤけてしまった。はいはい。負けだ負け。幸せだなあ。

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思えば、ラブライブに向けてこのところ練習ばかりだった。もちろんまったく遊ばなかったわけじゃないけど、いつでも大会のこと、ユニットのことを考えていた。 このデートは、いったん全部忘れて二人で楽しくひたすらに遊ぶ。そう約束して臨んだ。それこそが、今の私たちに必要なことだから。

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いろんなところを歩いて、いろんなお店に立ち寄って、久しぶりにカロリーを気にせず美味しいものを食べた。 まだ寒い季節だけど、亜里沙と手を繋いでいればいつでも温かい気持ちで過ごせた。なんて言ったら「ほんとに雪穂も照れずに言えるようになったね！」と笑われた。

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「春休み、向こうに帰ったり……する？」 落ち着いたところで、おそるおそる、気になっていたことを切り出した。今まで、スクールアイドル活動の忙しさを理由に、亜里沙はずっとロシアに帰っていない。帰るとしたら、この春休みが一番のタイミングだと思う。 「帰ってこいって言われてる……けど」

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控えめな声の亜里沙の返事。まあ、そうだよね、とは思う。 「今しかないし、帰ったほうがいいと思うよ」 そりゃ、せっかくの休み。亜里沙と一緒に過ごせる時間を手放すのはもったいないとは思う、けど、向こうの両親にはずいぶんと我慢してもらったわけで―― 「雪穂も一緒に行こ？」 「……ん？」

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「前にも言ったよね。今度は雪穂もそろそろ『ご挨拶』しないと！」 「ごあいさつ」 完全に不意打ちだった。呆気にとられてしまったが、でも、少し考えてみれば、突飛な発想というわけでもない。亜里沙は遠くから日本に来て、何回も私のうちに来て、お菓子を作ったり店番をやってみたりしてるわけで。

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それなら、逆に私がロシアに、亜里沙の両親に挨拶――いやいや、そんな大げさな話じゃなくて、亜里沙の案内で遊びに行くくらいは別に変なことではない、と、思う。一度そう考えると、急にその気になってきた。私も、亜里沙が育ってきた世界を見たい。

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まさか亜里沙みたいな美少女がいっぱい歩いてるわけじゃない、とは思うけど。絵里さんも相当だし、もしかしてロシアは基本レベルが高いのかもしれない。どうしよう。私のほうが逆に目立ちそう。いやでも、意外に金髪は少ないって話も聞いたことがある。

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「どうかな？」 「うん……亜里沙と一緒なら、行ってみたいかな。ただ、気軽に行けるものじゃないからなあ、許しが出るかどうか」 「そうだね。お金もいっぱいかかるから……うん、ダメだったら仕方ないけど、とりあえず聞いてみよう！　一緒に！」 今すぐ！　と言わんばかりに立ち上がる亜里沙。

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「うーん……今年は穂乃果も卒業旅行だって海外行っちゃうし、今年はちょっと我慢してくれるかしら。雪穂も、卒業のときまで、待ってくれる？　ごめんね、亜里沙ちゃん」 まあ、そりゃそうか……という返事をもらった。さすがの亜里沙も、ここはそこまで押さずに素直に引き下がった。

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「仕方ないか」 「うん。まあ……卒業したら、スクールアイドルも卒業だし、そのときが一番いいかもね」 私の部屋で、ため息をつきながら、先のことをお話する。 「わかった。じゃあ雪穂、しばらく一人になっちゃうけどお姉ちゃんと浮気しないでね！」 「しないよ！？　なんで絵里さん！？」

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「私に会えなくて、手も繋げなくて、キスもできなくて、我慢できない雪穂は、私の匂いを求めて私の部屋に――見かねたお姉ちゃんが雪穂を優しく抱きしめて甘えさせているうちに、お姉ちゃんの中に私の面影を見た雪穂は『今だけは私の亜里沙になってください』と――」 「日本語うまくなったね！！」

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「そりゃもちろん寂しいけど、我慢はできるよ。亜里沙の代わりなんていないんだし……そういう亜里沙は大丈夫なの？　向こうで毎日泣いてるなんて、やだよ」 「私はママに雪穂の自慢話ずっと聞かせてくるよ！　泣いてるなんてもったいないよ。まあ、泣いちゃったら、そのときは電話しちゃうかも」

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――なんて話をしたあとなので少し躊躇したものの、その日の夜、一人になってから私は絵里さんにメッセージを送った。 「ロシア語を少し教えてください」 『私に？　亜里沙にじゃなくて？』 「亜里沙には内緒に作りたいメッセージがあって」 『へえ』 『ふーん』 『なるほどー？』

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絵里さんが少しずつ間を開けて送ってきた。表情の変化がなんか想像できる。 『ただ私あんまりロシア語詳しくないの。ほんとに簡単なやりとりくらいならいいんだけど』 「すみません。たぶんそんなに難しい文章じゃないから、大丈夫だと思います。お願いできますか？」

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『OK！　亜里沙には内緒ね、ふふ』 ううん。亜里沙があんなこと言うからなんかイケナイことをしてるみたいな気分になっちゃう。 『でも、あっちの準備のほうは大丈夫？　新曲準備してるんでしょ？』 「あれ？　知ってるんですか？　亜里沙から？」 絵里さんになら秘密にする必要はないんだけど。

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『うん。春休みが始まる前までだから、あまり遊んでばかりもいられないでしょ』 『大会じゃないから楽しくやればいいと思うけどね』 「はい。大丈夫です。おかげで私もすっかり立ち直りましたから」 『うん。よかった』 こうやって細かくフォローしてくれるの、本当に絵里さん優しいなあ。

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ラブライブの大会が終わったら、三年生たちの卒業式があって、大学の合格発表がきて、春休みが始まる。春休みが始まったら、お姉ちゃんたちは旅行に行くし、亜里沙も実家に帰る。それまでに、ぜひやっておきたいことがあった。 私たちの道を作ってくれたお姉ちゃんたちに、言葉を、歌を、届けたい。