いつの時代も、今が一番サイコー! と言う話。

このまとめコメント欄で山本弘氏と塩田多弾砲氏が触れている「魔王との契約」という短篇がずっと気になってたんだけど、先日ようやく読むことができた。 togetter.com/li/1141487 via @togetter_jp
2017-10-10 17:57:18
マルコム・ジェイムスンの「魔王との契約」(1943年)は、現在(1940年代)の懐古主義者の老人が、悪魔との契約によって20世紀初頭にタイムトラベルするが、当時の不便で未発達な社会でさんざんな目に遭うという話。
2017-10-10 17:58:13
主人公のフェザースミス氏が黄金期だと記憶していた1900年代では、人々は一週間に一度しか入浴せず、ガス灯と共に周囲に悪臭を漂わせている。食事は脂っこくて健康に悪いものばかりで、手に入る果物はリンゴだけ。
2017-10-10 17:59:08
ホテルへ泊まればエレベーターは人力でのろのろとしか動かず、メイドは客の品物を平気で失敬する。女性たちは教養がなくて気の利いた会話ひとつできない。天然痘はまだありふれた病気である。
2017-10-10 17:59:34
――で、SF史的に興味深いのは、「魔王との契約」で過去の時代として描かれる1900年代より少し前に、マックス・アデラーという19世紀の作家が、「オールド・フォギー」(1881年)という似たような短篇を書いていることだ。
2017-10-10 18:00:04
「オールド・フォギー」では、「過去の時代はいかに素晴らしかったか」という昔話を孫娘に語っていた19世紀末の老人バタービー氏が、翌朝、孫娘に聞かせた当のその時代(19世紀前半)で目を覚ます。
2017-10-10 18:02:55
バタービー氏が顔を洗うとしても水道はなく、洗面器で凍りついた汲み置き水を、暖炉に薪をくべて溶かさなければならない。その暖炉の火も、マッチではなく火打ち石で、さんざん苦労した末に熾すのだ。
2017-10-10 18:03:43
便利な鉄のペン先の代わりに、いちいち羽根ペンを削らねばならない。新聞は一週間に一度だけ。郵便配達も一日おきで、郵便局でテレグラフ(電報)を頼もうとすると、「それはギリシャ語ですか?」と訊き返される。
2017-10-10 18:04:20
そして更に興味深いことに、この「オールド・フォギー」の主人公が飛ばされたのと同じ年代(19世紀前半)にも、やはりアンデルセンが「幸福の長靴」(1838年)という、これまた同じような内容の童話を書いている。
2017-10-10 18:04:50
「幸福の長靴」では、ハンス王の時代こそがデンマークの最良の時代であったと主張する19世紀前半の法律顧問官が、幸福の精霊から与えられた魔法の長靴によって、ハンス王の時代である16世紀初頭へ送り込まれる。
2017-10-10 18:05:54
顧問官が訪れた16世紀の世界では、舗装されてない道路はまるで泥沼のよう。街灯はひとつもなくて夜は真っ暗。川を渡るには橋の代わりに渡し船しかないという時代で、顧問官は命からがら元の時代へと逃げ帰る。
2017-10-10 18:06:35
面白いのは、これら三作品とも「現代こそが最良の時代なのだ」という結論で終わっているのだが、その彼らにとっての「最良の時代」は、半世紀後の未来からやってきた後の時代の作品の主人公たちにとっては、それこそ煉獄のような場所なのである。
2017-10-10 18:07:17