創作荘東京オフ会小説『絡めた指、唐草模様』その43、その44(完結)

長きに渡る誇張と捏造にもまさに終止符が。衝撃の真相があなたを襲います。
0
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

#創作荘 東京オフ会小説 絡めた指、唐草模様 43   「あっ……」  廊下でばったり出くわしたのは、一人の女性だった。短く刈った髪に黒いチョッキとワインレッドの上着が良く似合っていた。スカートじゃなくて青いジーパンで、これがまた身軽な印象だった。

2017-10-21 18:09:22
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「今日は。或布です」  声までカッコいい。 「今日は。藍斗です」  我ながら少し上ずった。 「会場はそこの部屋ですか?」 「はい。私は、お湯が沸いたみたいですから給湯室に行きます」 「じゃあご一緒しましょう」 「いいんですか?」  実は、心の中で喜んでいた。こうやってご本人を

2017-10-21 18:10:53
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

前にするとなにかスターと並んでいる気がする。 「ええ。ところで給湯室はどちらですか?」  あ。私もまだ知らなかった。廊下の壁際に見取図のパネルがあったので、ささっと目でなぞった。 「あー……こっちです」  合ってますように。幸い、ヤカンの音は途切れないまま、段々大きくなってきた。

2017-10-21 18:11:16
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「藍斗さん、歩き方が綺麗ですね」  いきなり言われてつんのめりそうになった。 「う、うーん…ううう……」  頓珍漢に呻く私。 「まるで、何千年も旅をしてきたみたいです」 「ええと……間違って……」  給湯室と記されたプレートが戸口の上から突き出されたドアの前で、私達は足を止めた。

2017-10-21 18:12:20
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

思っていたより簡単にこられた。給湯室の真向かいにはとても大きな世界地図のジオラマがあった。観光地なんかに良くある、手前にあるパネルの地名スイッチを押したらそれに当たるランプが光ったり案内アナウンスが流れたりするものだ。『オズボーン一族の軌跡』とジオラマの上に題が上げてあった。

2017-10-21 18:13:26
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

そして、パネルの前にはリオさんが。 「藍斗さん! あれ? 或布さんですか?」 「今日は、或布です」  礼儀正しく或布さんは挨拶した。 「今日は。リオです」  少しおどけて、はにかみながらぺこっとリオさんはお辞儀した。 「リオさん、お湯が沸いていますよ」

2017-10-21 18:14:53
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「そうでした! 或布さん、お願いします!」  慌てて給湯室に行くリオさんの背中に、私は首をひねった。なにをお願いするんだろう。そう思っていると、或布さんはパネルのスイッチを一つ押した。 続く

2017-10-21 18:15:18
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

#創作荘 東京オフ会小説 絡めた指、唐草模様 44  「オズボーン一族の起源は古代ローマ時代に遡ります。当時のイギリスからポンペイに移ったフェリシア・オズボーンが……」 「或布さん、これオズさんの声じゃないですか!」 「その通り! 私だ!」  ユーラシア大陸を両手で支えながら

2017-10-22 12:03:20
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

突然オズさんがジオラマの中から現れた。和服なだけに余計にひど……凄い。 「きゃああああああ! どこから出てきたんですか!」  両手で頬を挟む私に対し、或布さんは落ち着き払っている。 「勿論、ジオラマからだよ! 裏方もやってみたら楽しいなあ!」 「う、うら……裏……」

2017-10-22 12:04:15
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「どうです、或布さん。今回の出来映えは」 「そうですね。まあ悪くないです」 「まーまー、お茶も準備できましたし、会場に行きましょう」  湯気を出すヤカンを左手に、湯飲みを並べたお盆を右手にしてリオさんはもちかけた。 「分かりました。どっちか持ちましょうか?」

2017-10-22 12:05:02
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「いえ、慣れてますから。会場のドアをお願いしてもいいですか?」 「はい」 オズさん、リオさんが加わり、私と或布さんで合計四人が会場に入った。待っていた皆は拍手して迎えてくれた。 「今、お茶を入れまーす! お茶せんべいと栗せんべいは行き渡りましたかー?」  リオさんは張り切った。

2017-10-22 12:06:06
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「はーい!」  私も含めた全員が答えた。お茶を入れた湯飲みが配られ、オズさんが自分のを軽く掲げた。

2017-10-22 12:07:16
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「では、乾杯の前に説明しましょう。実は今回、オズボーン商会が或布さんを制作顧問に迎えて作ったVRゲーム『オズボーン一族の顛末』をテストプレイするのがオフ会の裏の目的だったのです。藍斗さんには黙っていて申し訳ありませんでした」 「え? えええ?」  開いた口が塞がらない。

2017-10-22 12:09:22
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「給湯室前のジオラマがテストしていた機械です。オフ会参加者の皆さんも快くゲスト参加して下さいました。まあ、最初はオズボーンランドのアトラクションとして実践されるでしょう」 「じゃ、じゃあ、皆……皆……」 「えへへへへへ」  リオさんがにこにこしている。悪魔みたいな天使ですこと。

2017-10-22 12:09:56
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

「もうっ! もうっ! もうーっ! 私、牛になっちゃいます! 酷い!」  そう言いつつ私も笑ってしまった。笑って笑って、仕舞いには何故か涙が出てきた。 「さー、それじゃ、オフ会メンバーとテストプレイ無事終了を祝って!」  オズさんが音頭を取って、私達は乾杯した。

2017-10-22 12:10:33
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

熱いお茶なので一息に飲み干せなかった。 「おせんべいはお茶に浸してから食べるといいですよー!」  リオさんが勧める声に、ようやく私は現実に戻れた。名実共に。それからは、期待以上に楽しい席になった。記念撮影も何枚も撮った。  帰宅から数日たった今、軽い風邪を引いている。

2017-10-22 12:11:18
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

なにをする気にもなれないまま、暗い路上を窓越しに眺め、スマホを開いた。オフ会のお開きに、皆で指を絡ませ合って輪になった写真を最後に撮った。背景には、歴代のオズボーン総帥の肖像画がある。それぞれの肖像画は、控え目ながらも確かな技法でこしらえた唐草模様で飾られ、

2017-10-22 12:12:59
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

肖像画と肖像画の間にも橋を繋げるように唐草模様が結んであった。私達もまた、絡めた指が唐草模様になっている。  そこで気づいた。最後の写真には全員が写っている。私もいる。それなら、誰が撮影したんだろう。セルフ撮影機能は誰も使っていないし、明らかにまとまった距離をとっている。

2017-10-22 12:13:44
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

少し目が疲れた。スマホから顔を離し、また路上を見やると、電信柱の根本に、会場の中庭にいた小鬼の像がたっていた。小鬼は私に顔を合わせ、にやっと笑うと姿を消した。  終わり

2017-10-22 12:13:58