日向倶楽部世界旅行編第20話「伊勢と小石と深海棲士」

いろいろあったシドニーとも別れの時が来た、日向達は次なる目的地を目指しヒューガリアンに乗り込む。 だがその裏で、彼らを付け狙う者たちが動き出す…
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三隈グループ @Mikuma_company

【前回までの日向倶楽部】 扶桑です。 最上さんが初霜さんが誘拐されたと勘違いし、何やら一悶着あったそうです。 ちなみに私がそれを知ったのはその日の夜、それまで何をしていたかって?噴水でぼんやり広場を眺めていましたよ、広場の人々は見ていて飽きませんから。 でも水族館に行

2017-10-24 21:30:08
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【前回までの日向倶楽部その2】 初霜が誘拐された! …というのは最上の勘違い、橋の上で大事故を起こした彼女は病院へ担ぎ込まれ、そこでシドニーの行方不明事件を追うワッツ刑事と出会う。 奇怪な事件の話を聞いた最上は彼と連絡先を交換、何か分かったら知らせると約束したのだった。

2017-10-24 21:31:05
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第20話「伊勢と小石と深海棲士」

2017-10-24 21:31:35
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〜〜 ここはシドニーの小さなバー、金髪の男が一人で酒を呷っていた。 「クソッ…!」 男はカクテルを乱暴に飲み干し悪態を吐く。 彼の名はザイアン、ある組織に属し、それなりの実力を備え、組織の命令を順調にこなし、その地位を少しずつ上げている、アウトローな男であった。

2017-10-24 21:32:13
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そんな彼はある夜、ある人物を抹殺せよとの密命を受けてシドニーの街へ降り立った、ターゲットは「鋼の鈴谷」業界では名の知れた凄腕の艦娘だ。 勝算は大いにあった、相手は地上の艦娘だし、こちらは数や地の利で勝る、これまで通り任務を遂行し、また一つ地位を上げる、そのはずだった。

2017-10-24 21:33:06
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しかしアクシデントが彼を襲う、鈴谷に仲間がいたのだ。 それも一般人ではない、艦載機を行使し、徒手空拳や射撃に優れ、不思議な力まで行使する戦い慣れした仲間である。 それに見事返り討ちに遭った彼は負傷、間一髪仲間に助けられ、失敗の報告をし、惨めな思いをしながら今に至っている。

2017-10-24 21:34:05
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(このままじゃあオレはズルズルいっちまう…女神連中が先を越そうもんならそれこそ…!) ザイアンはグラスが割れん勢いで手に力を込める、屈辱に燃える身体には酔いも回らない。 (連中がシドニーを出る前に始末出来れば…しかし命令がなくては支援も受けられん…)

2017-10-24 21:35:05
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彼はチームプレーを嫌う自信家であったが、鈴谷と日向のコンビに敗北してからはすっかり弱気となっていた。 ちっぽけなプライドはチームプレーを拒み、取り柄の自信も消失、今の彼はまさに牙のない一匹狼、針の無い働きバチ、群れから追い出された雄ライオン、クズ、そういったものであった。

2017-10-24 21:36:05
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「新たな秘跡について掛け合ってみるか…?」 無意識に独り言を口にする、するとそれに反応するように、何者かが彼の肩を叩いた。 「…ッ!」 すぐさま振り返り懐の拳銃に手をかける、だがそこには誰もいない。 そして彼はゾッとした、背後から声が聞こえたのだ。

2017-10-24 21:37:11
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「やっほ」 それはすっとぼけたような女の声、ザイアンが振り返った先で、その声の主はバーのカウンターについていた。 「お、お前は…」 「にひひ、私の事知ってるんだ?」 茶色いポニーテールの女は髪を揺らして笑い、飲みかけのカクテルを飲み干す。

2017-10-24 21:38:09
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「あっまーい!こういうの好きなんだ?」 「言っとけ…」 おどける女にウンザリした後、ザイアンはもう一度彼女の方を見て言った。 「…ムツならともかく、女神のあんたがオレに何の用だ。」 「にひひ…ムッちゃんの方が好き?オッパイ大きいもんね。」 「何を…」

2017-10-24 21:39:05
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言いたいことはあったがそれ以上を言わない、目の前の女は自分より遥かに強いのだ、堪えて口を噤まなければ命が危うい。 そんな彼に女は歩み寄って耳打ちする。 「…こんなところじゃなんだから、ちょっと場所を移さない?」 「何だと?」 ザイアンは訝しむ、しかし拒否は出来ない。

2017-10-24 21:40:06
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「だいじょうぶ、食べちゃおうなんて考えてないよ。」 女は肩を掴んでそう囁く、茶色いポニーテールが彼の首筋を撫で、鳥肌を立てる、最早口先でどうにかなる状況ではなかった。 いざとなった時自分は戦えるのか、逃げられるのか、そんな心配と共に彼は女に着いて行った。 〜〜

2017-10-24 21:41:10
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〜〜 ザイアンが連れて行かれたのはテナントの入っていないビルの一室、そこは昼間だというのに薄暗く寂しい場所だった。 「…伊勢、まさかオレを殺そうってのか?」 彼は背中を向けて立ち止まる女に尋ねる、こういう事を自分もしてきたからこそ、そんな気配には敏感だった。

2017-10-24 21:42:06
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息を呑んで待つ彼に、女は、伊勢は背を向けたまま答えた。 「…だったらどうする?」 「…ッ!」 答えと同時、ザイアンはすぐに身構え、腰に不思議な形をしたベルトを巻きつける 「深化!」 彼がそう叫ぶと、みるみるうちに身体が白いマスクと黒いスーツに覆われた。

2017-10-24 21:43:09
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すぐさまザイアンは右手の腕砲を撃つ、だが伊勢は背を向けたままそれを避ける。 「んふふ…気が早いなぁ…」 ニタニタしながら振り返った彼女にザイアンは攻撃を続ける 「いくら女神とはいえ、分があるのは深化したオレだ!」 「へぇ、でもその状態で日向に負けたんでしょ?」

2017-10-24 21:44:09
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「日向…?鈴谷と一緒にいた奴か!」 ザイアンは攻撃を続ける、しかし伊勢は飄々と避け、おしゃべりをする 「あの娘は強いよ〜、前の日向よりもっと強い。」 「何が言いたい!?」 「ん〜?それはね〜」 腹立たしく叫ぶ彼に、伊勢はくねくねとした動きで一気に間合いを詰めた。

2017-10-24 21:45:07
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「今のあなたじゃ、勝てない。」 伊勢は耳元でそう囁き、恐怖するザイアンの腹部を殴りつけた。 「って事なんだよねー」 「ぐ、グホッ…き、貴様…!」 殴られたザイアンは咳込んで膝をつく、そして死を覚悟する。そんな彼に伊勢はゆっくりと近付き、黒い肩に手を置いた。

2017-10-24 21:46:07
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「別に貴方を殺しに来たわけじゃあ無いんだよ〜、やるとしたらあの夜にムッちゃんがやってるからね。」 「何だと…?」 困惑するザイアンに、伊勢はニタニタ笑いながら続ける 「私ね、貴方はもっと強くなれると思うの。」 「オレが?」 「そう、貴方。」

2017-10-24 21:47:06
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予想外の台詞にザイアンが戸惑うと、そんな彼の肩を伊勢の手が抱きしめる 「貴方はキッカケが掴めてないだけ、それさえ掴めば…貴方はもっと強く、たくましくなれる。」 「…」 どんな裏があるかも分からない囁き、だが彼はその言葉の全てを疑いはしなかった、彼自身そう思っていたからだ。

2017-10-24 21:48:16
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彼女の台詞に、彼は決意と共に尋ねる 「…オレにどうしろと言うのだ。」 目の前の女は自分より遥かに強い、手玉に取られてもおかしくは無い。 しかしチャンスでもあった、強くなり、駆け上がる好機、リスクを冒す価値は十二分にある。 これは賭け、裏社会に生きる凡庸な男の、博打。

2017-10-24 21:49:06
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答えを聞いた伊勢はにっこり微笑む 「これを使ってね、私の弟になって欲しいの。」 伊勢はそう言うと、不思議なベルトとウズラの卵程の大きさをした赤い石を見せた、その二つにザイアンは目を見開く。 「この秘跡は…」 「結構大きいでしょ?」 「ああ…燻んでいるが、大きい…」

2017-10-24 21:50:08
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土産物屋に行けばありそうな小さな石ころ、だがそれは彼にとってとても大きなものであった。 「こんなもの…どこで手に入れた?」 彼は興味津々で尋ねる、だが伊勢は 「それはヒミツ、もっとお互い親しくなったらね。」 とだけ答える、ザイアンもそれ以上は聞かなかった。

2017-10-24 21:51:06
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やがて伊勢は石とベルトを見つめるザイアンの手を取って言った 「私ね、日向が死んじゃってすっごく寂しいの。」 「あ…?」 「鈴谷に殺されちゃって私とっても悔しい、だから倒したいけど、私一人じゃできないんだ。」 悲しそうに彼女は語る、ザイアンは静かにそれを聞いていた。

2017-10-24 21:52:06