しおいと名乗る少女は枯葉で遊んでいた。 そこに意味はないだろう。だが、彼女は寂しげで、退屈な今をやり過ごしているように思えた。 思わず俺は、彼女に声を掛けた。 彼女は少し驚いた様子で俺を見つめていた。
2017-10-30 10:01:17「なぁに?おにいさん」 彼女は警戒することなく、俺に言った。 よく見れば年の瀬の時期に似つかない服装で、思わず俺は着ていたコートを着せていた。 「そんな寒そうな格好で一人何していたの?」 「寒くなんてないよ、子供は風の子、でしょ?」
2017-10-30 10:05:24彼女はにこやかに笑った。おにいさん優しいんだね。と、太陽のような笑顔で俺に言った。 彼女は友達を待っていた。その友達は同じ部屋で暮らしている子で、何をするにも一緒、もう一人の自分のような子だと言っていた気がする。 俺はその時から「この子のことを知りたい」と、心のどこかで思っていた
2017-10-30 10:11:06「その友達はいつ来るんだい?寒いからあったかいところで待っていようよ」 「え?おにいさんいいの?」 「いいさ、風邪を引いたら友達も心配すると思うし、お昼も近いからお腹も空くだろう」
2017-10-30 10:14:55しおいとその友達は、13時に先ほどの並木道で待ち合わせをしていたそうだ。カフェへの道すがら、しおいのことを聞いた。しおいは、近くの海軍基地の子だそうだ。何をしているかは機密情報なので教えられないとのことだった。友達も同じで、年も近いからすぐ仲良くなった少し興奮気味に話していた。
2017-10-30 10:20:57すぐ近くのカフェで、俺はしおいと早めの昼食を取ることにした。 ホットミルクを飲むしおいは、まるで娘のような愛くるしさがあった。 「いいの?サンドイッチまでおごってもらっちゃって」 「いいよ、他に金使うこともないし」 「えへへ、やったぁ」
2017-10-30 10:24:52周りから見ればせいぜい従兄妹の談話くらいにしか見えないだろう。誰もさっき知り合ったとは思うまい。 「ねぇ、おにいさん」 そんな心配をよそに彼女は声を掛けてきた。
2017-10-30 10:28:26「ん?どうした?マスタードが辛かったか?」 「ちがうよー、さっきなんで声かけてきたのかなって思ってさ」 むう、この子はなかなか答えづらいことを聞いてくるな。 「なんでだろうな…たまたま通りかかったらあんな格好で寒そうだったから…かな?」
2017-10-30 10:31:13俺自身、なぜしおいに声を掛けたのかは分からない。だが何か魅力があると感じたのは事実だ。 「ふ〜ん」 彼女はあまり納得していないようだが。 気がつくとサンドイッチが一切れしかない。よっぽど気に入ったのか、話している間ずっと食べていたようだ。
2017-10-30 10:33:41「なぁ、もっとしおいのこと聞かせてくれよ。」 「え〜、あまり話すことないよ〜」 彼女少し困った表情をしてしまった。俺は少し切り口を変えてみることにした。 「そういえばしおいはいくつなんだ?」
2017-10-30 10:37:31思えば、しおいのような容姿で20を越えているとは考えにくい。そして軍属、気になることはとても多い。 「えっと…私は…じゅう…いくつだっけ?」 思わず俺は頬杖から滑り落ちてしまった。 「おいおい…10代で健忘症か…」 「私もよく覚えてないんだよねー、なんで今の職場にいるのか」
2017-10-30 10:40:4410代だとおもうよ。と、なんともあやふやな回答だったが、彼女自身覚えていないのでは仕方ない。 「物心ついた時から今の職場にいてさ、わたしもよくわかんないんだ。親がいたかどうかもよくわかんないし」 しおいを少し困らせてしまったようだ。
2017-10-30 10:45:42親の顔も知らず、気がつけば軍属、ますます気になることが増えて来た。 「あっ、ホットミルクおかわりしていい?」 「ん?ああいいよ、他にも何か食べるかい?」 「えぇ!?いいの!?」 意外と遠慮がないなと、思わず笑ってしまった。俺もコーヒーをおかわりしよう。
2017-10-30 10:48:47コーヒーを取りに行った時に、ホットミルクは時間がかかると言われてしまった。しおいはしょうがないねと、出来るまで待つことにした。 「おにいさんのことも聞かせてよ、私ばかりずるいじゃん」 と、ドーナツを頬張りながら言ってきた。
2017-10-30 10:54:18「俺のこと?何が聞きたいのさ」 「ん〜〜〜…」 ドーナツを味わっているのか、考えているのか、よく分からない表情をしている。なんだか小動物のような表情だ。 「おにいさんっていくつ?」 「俺?26だよ」 さっき俺が聞いた質問をそのまま返してきた。やはり何も考えていないような感じだ。
2017-10-30 10:57:48「へぇ〜見た目より歳食ってるんだねぇ〜」 「よく言われるよ」 「なんだかうちの提督みたい」 提督、とはおそらく彼女の上司だろう。たしか、艦隊の指揮を執る人だったはず。 と言ったところで、ブザーが鳴った。しおいのホットミルクが出来たようだ。 「取ってくるよ」
2017-10-30 11:01:35カウンターは少し並んでいた。だが2、3分でホットミルクを受け取れた。 「お待たせ、お嬢さん」 「ありがとう!」 しおいは無邪気な笑顔でホットミルクを受け取った。 「ホットミルク、好きなんだな」 「うん!美味しいもん!」 言動一つ一つに幼さと、あどけなさを感じ、俺はコーヒーを飲んだ
2017-10-30 11:05:12「うわっ、甘っ」 さっきまでブラックだったコーヒーが甘くなっていた。 「えへへー、大成功ー」 ホットミルクを取りに言っている間にしおいがシュガーを入れていたようだ。 「どう?驚いた?」 「びっくりしたよ、さっきまでブラックだったのが突然甘くなったんだから」
2017-10-30 11:08:07「結構いたずら好きなんだな、しおいって」 「そうだねー、友達のまくらにブーブークッション仕掛けたり、スリッパ逆にしたりとかするよ」 意外と地味だった。彼女もいたずらの限度をわきまえてやっているようだ。
2017-10-30 11:10:40それから俺としおいは他愛ない会話を続けた。しおいの友達のこと、提督のこと、色々な話をした。 「そろそろ待ち合わせの時間だな」 他愛ない話の時間ももうすぐ終わる。少し寂しいと感じている俺がいた。 「もうそんな時間?おにいさんともっと話したかったなぁ」
2017-10-30 11:14:15会計を済ませ、俺としおいは待ち合わせの並木道へ戻ることにした。 「ねぇおにいさん」 突然しおいが問いかけてきた。 「来週のおやすみ、予定無いんだ。今度は二人でどこか行こうよ!」 いきなりのお誘いだった。 「ああ、いいよ。今度はしおいの好きなとこにでも行こうか」 「えへへ、やった」
2017-10-30 11:18:05そして待ち合わせの並木道、待ち合わせの子が来たようだ。 「あっ、来た!」 「しおいー!やっとみつけたー!」 友達の子はずっとしおいを探していたようだ。 「えへへー、ごめんでっちー、でも13時待ち合わせだから丁度でしょ?」 「まぁそうなんだけど…その人は?」
2017-10-30 11:20:59でっちと呼ばれた子は俺のことを聞いて来た。待ち合わせ場所で友達が親しげに話しているところを見られたら当然か。 「この人はねー、私の彼氏!」 「えっ」 「へ?」 俺と友達は驚いた声をあげた。 「な、な、な、なにーー!?」 でっちと呼ばれた子がすごい驚き方をした。
2017-10-30 11:23:47「し、しおい…」 「だっておにいさん優しいし、話も合うから、ね?」 しおいは俺の腕を掴んでくっついて来た。 「ごーやは認めないでち!しおいに彼氏なんて!ごーやも彼氏欲しいでち!」 ごーや、というのは友達の名前か、あだ名かは分からないが凄く興奮している。
2017-10-30 11:26:34「ほーら、でっち、いこ?」 「きー!しおい!みっちり話を聞かせるでち!嫌っていうほど問い詰めてやる!」 「じゃあね!おにいさん!来週忘れないでよ!」 「あ、あぁ…」 そう言って俺は彼女達と別れた。
2017-10-30 11:27:43