濱野IB評

@hamano_satoshiのイングロリアス・バスターズ評
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濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

イングロリアス・バスターズを見てきたなう。場所は新宿バルト9。アーキテクチャ派なので(笑)普段はコンテンツのことはあまり書かないようにしているのですが、ちょっとまとめておきたいこともあって勢いでつぶやいてみます。完全にネタバレですが、嫌な人はスルーしてください。すみません・・

2009-11-26 03:25:51
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

と書いてみて思ったけど、Twitterのアーキテクチャだと「ネタバレを見ずにスルーする」ことはできない(続きを読む記法、とか、テキスト色いじり、とかはできない)。またしてもアーキテクチャ派なのにアーキテクチャの特性を無視しているといわれそうだ・・。でも書く。

2009-11-26 03:29:59
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

この映画の(特に終盤の)構造をひとことでいえば、「3つの映画のスクリーン上の戦い」である。その1:ナチの宣伝相ゲッペルズが統括する戦争プロパガンダとしての映画。その2:ナチに家族を虐殺された生き残りの女性にとっての復讐劇としての映画。その3:この映画自体。

2009-11-26 03:34:16
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

その決着はこうだ。まず第一の映画(ナチ・プロパガンダ)は、第二の映画に負ける。彼女の復讐は成功する。あまり細かく書かないけど、彼女は映画を「(切り裂き)ジャック」さならがらに「ハック」してしまうのだ。

2009-11-26 03:36:01
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

プロパガンダ映画のジャックに成功したスクリーン上の彼女は、「ナチは全員死ね!」と言い放つ。彼女の勝利はモンタージュの勝利というわけだ。

2009-11-26 03:36:57
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

と同時に、スクリーンは高らかに炎上し、観客を襲う。これがまた実に皮肉で、比喩的にいえば映画史の物質的データベースそのもの(!)がナチを襲うことになる。

2009-11-26 03:37:21
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

燃え盛る噴煙は、焼け散るスクリーンの代補となり、そこには彼女の高らかな勝利の笑みが投影される(のをスクリーンで見る観客の私達、という構図)。まあ要するにこの映画は、ナチスをガス室ではなく映画館で虐殺する映画、というわけだ。

2009-11-26 03:38:55
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

ラカン派風にいえば、第一の映画(ナチ・プロパガンダ)は「想像界」そのものだ。映画館のナチ関係者たちは、スクリーン上のナチの英雄青年将校の華麗な戦いに感嘆を上げ、素朴に感情移入している。しかし、そこに突如として「現実界」としての第二の映画が、スクリーンの向こう側から現われる。

2009-11-26 03:39:15
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

ここで終っていれば、本作は実に歴史的に巨大な因縁のあるテーマを、荒唐無稽かつ痛快にも悲劇的に描いた、はちゃめちゃな大団円でした・・で終わりなのだが、まだ映画は終わらない。第三の映画、つまりこの映画そのものが残っている。

2009-11-26 03:39:32
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

最後に印象的なのが、イングロリアス・バスターズ(ナチ抹殺任務を遂行する連合国側の秘密部隊)のボスを演じる、ブラピの振る舞いだ。彼はこの映画の中で「歴史=物語=目的」から自由な存在として描かれる。

2009-11-26 03:40:48
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

この映画の中で、ボスのブラピは、当然ながらナチのように全体主義のイデオロギーに貫かれているわけでもない。ユダヤの彼女のように復讐の念に駆られているわけでもない。一方、部下のイングロリアスバスターズたちは、ユダヤ系のアメリカ人という設定で、彼らには強烈なまでの復讐の動機付けがある。

2009-11-26 03:41:18
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

しかし、ブラピにはそうした物語はない。彼はただ「ナチをぶっ殺す」というゲーム的感覚しか持たない。それを特徴づけるのが、「ナチの頭の皮を剥ぎとる」「いつでもナチ=敵だと分かるように額にハーケンクロイツをナイフで切りつける」というブラピの行動だ。彼は映画の中で終始それしか関心がない。

2009-11-26 03:41:35
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

そのブラピの姿はさながら、モンスターハンターで皮を剥ぎ取り、FPSで照準を敵に向けるゲームプレイヤーの姿そのものだ。彼にとって、世界大戦の行方などささいなことでしかない。ただはっきりとした「敵=的(テキ/マト)」がいて、目的がある。それだけなのだ。

2009-11-26 03:42:29
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

だからごく普通に、何の空気も読まずに、大変興ざめでつまらないことをいえば、この映画は大変に不謹慎きわまりない、けしからん映画だ。20世紀最大の暴力、人類最大の悪、そんなナチに対して、この映画は「ゲーム的暴力」をぶつけてみせるというのだから。

2009-11-26 03:42:56
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

いってみれば、「アウシュビッツ以後、詩を書くのは野蛮である」という有名な哲学者の言葉があるが、さながらこの映画は「アウシュビッツ的暴力に、ゲーム的野蛮をぶつけてみせよう」というわけだ。

2009-11-26 03:43:25
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

しかし、僕にはこの映画を不謹慎だという資格なんて全くない。第二次大戦という歴史は、いまやゲームの舞台としてもっともポピュラーなものの一つだからだ。ゲームを日々プレイする(といっても最近ヒマがなくて全然できてないけど)自分は、黙々とナチを殺すブラピの姿にこそ感情移入してしまう。

2009-11-26 03:45:52
濱野智史 | Satoshi Hamano @hamano_satoshi

・・といったところが感想で、このへんを入り口に歴史の問題(というよりもMAD的/キャラクター的想像力と歴史の問題)、つまりは思想地図Vol.4の主要なトピックもある「偽史」の問題に立ち入っていきたいところだけど、さすがに今日は疲れたのでこれで終り。

2009-11-26 03:48:35