異世界小話~異世界が2度目の女子大生と1度目の女子大生の話~

なろうは異世界小説のサメとサメが喰い合うまるでアサイラム制作アルバトロス配給の映画みたいだぜ。ところで皆次のシャークはどんなのになると思う? それはそうとTwitterでやるお!
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帽子男 @alkali_acid

「なんか、外とようすが」 「たぶん…ここもさっきの街とは世界が違うんだと思う」 「世界が…?」 「うん。これも、あたしがいったん元の世界に戻って大学に通うようになって考えたんだけど…あの街は…うーなんていったらいいのかな…穴が…」 「穴があいてる?」

2017-12-30 00:49:59
帽子男 @alkali_acid

「うん…その穴のひとつが迷宮で…それで…ほかにも穴があいてて…だからあたしたちもこっちに来れたのかな…おっと話の途中だけど飛蜥蜴だ」 「飛蜥蜴?」 コウモリのような翼を持つ巨大なトカゲが目の前の竪穴から上昇気流に乗ってあらわれ、腹にためたガスを吐く。

2017-12-30 00:51:54
帽子男 @alkali_acid

そうしながら牙と牙を打ち鳴らすと、ガスは引火し、すさまじい火炎があたり一面を焼き焦がす。 「っとぉお!」 佐藤さんはすばやく山田さんのうしろに隠れる。 「ふえええ!!??」 甲冑が盾となって、その背は安全に守られる。 「ありがと!つぎ、ハンマーを想いっきり振って」 「は?はあ?」

2017-12-30 00:53:37
帽子男 @alkali_acid

山田さんが言われたとおりハンマーよ動けと念じると、体を包む甲冑が、勝手に慣れた動作で、重たい獲物をかまえて、振る。まるでゲームみたい。 だがその先端にはマントをまとった佐藤さんがつま先だって乗っていた。 そのまま孤を描く鈍器の加速を味方につけて、高くとびあがる。

2017-12-30 00:55:56
帽子男 @alkali_acid

「うっそおお!?」 「はっ!」 嗤いながら、佐藤さんは仕込み杖を抜きはらい、空中で居合斬りのような仕草をする。たちまち刃が青い日差しを反射させて閃き、一瞬あと、飛蜥蜴の首が斜めにずれて、ゆっくりと胴体と別々に竪穴に落下していく。 その頭を蹴りつけ、細身の剣士は元の足場へ飛び戻った。

2017-12-30 00:58:41
帽子男 @alkali_acid

「な?え?は?」 「山田さん冒険者の才能あるよ」 「え?なんでこんな?え?なにこれ?」 「飛蜥蜴は中層の魔物なんだけどね…どうして上層まで出て来ちゃったのかな…まあ先を急ごう」 茫然とする山田さんをせかして、佐藤さんはまた歩き始める。たった今魔物を退治したことなど何でもないように。

2017-12-30 01:00:28
帽子男 @alkali_acid

「さ、さささ佐藤さん…」 「なに?」 「ちょっと…わ、わたしこれ無理なんじゃないかって」 「え?さっきの?楽勝だったと思うけど?」 「いやもう…足ががくがくで…」 「甲冑が勝手に歩いてくれるから」 「いやそうではなく…はわわわ…」

2017-12-30 01:01:46
帽子男 @alkali_acid

その後も襲いくる敵を次々に片付けならがどんどん深くへ降りてゆく。大猿に似た樹の魔物とか、クモを二匹背中合わせに張り付けて空中を泳ぎ回るようにしたような魔物とか、透明なクラゲに似ているけどいきなり電撃をほとばしらせてくる魔物とかすべて鎧袖一触。

2017-12-30 01:03:37
帽子男 @alkali_acid

「変だなあ…ほんとに中層の魔物が多い…上層の魔物は…あっ」 また飛蜥蜴があらわれる。さっきより小ぶりだが、トンボの羽を持った犬ぐらいの大きさの魔物を宙でとらえてむさぼりくっている。 「…中層の魔物が…上層の魔物を食べてる…」 「どういうことでしょう?」 「分かんない」

2017-12-30 01:05:35
帽子男 @alkali_acid

「だけど、中層の魔物は上層の魔物よりぜんぜん強いしすばやいから、勝ち負けははっきりしてるね…これがずっと続いたら上層の魔物は全滅しちゃう…ほら…あの…環境学の講義でやった」 「外来種」 「そう。そんな感じだ…」

2017-12-30 01:07:18
帽子男 @alkali_acid

「どうしてこんなことが起きてるんだろ…!?」 話の途中で、佐藤さんが山田さんの鎧をつかんでひっぱる。 「隠れて。あそこの壁の穴でいい」 「は。はい?」 従う。佐藤さんは瓶を空けて輝く粉をふりまく。 「な?なんですか?」 「やばい…下層の魔物だ…」

2017-12-30 01:09:03
帽子男 @alkali_acid

一つ目のイカ。とでも呼ぶしかない軟体の何かが、恐ろしいはやさで回廊を滑ってゆく。二つの触腕が探るようにうごめき、八本の足がのたうったあとには床に焦げた跡がついてく。 「なんですかあれ」 「酸毒イカ…山田さんの生きた鎧だとちょっと分が悪い」 「ええ?」

2017-12-30 01:11:53
帽子男 @alkali_acid

初心者用のお助け装備めいたものを着せられて、その威力にわりと安心していたところだったので、山田さんはあらためてびびる。 「どうすれば」 「あたしたちがつくった避難所はすぐそこだから。がんばって行こう」 「はいぃ」 二人でまた歩き出すが、さすがにピクニック気分ではない。

2017-12-30 01:14:43
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは無口になり、常に先行してようすを確かめてから、待機している山田さんを手招きしてついてこさせるという繰り返しになる。移動速度は落ちるが安全を確保するためなのだろう。

2017-12-30 01:16:03
帽子男 @alkali_acid

「よし。もうちょっとだから…ちっ」 話の舌打ちした佐藤さんがまた仕込み杖を抜きはらう。 角からさっきの酸毒イカが、ひょこひょことぎこちない所作であらわれる。もう妖精の粉が切れているし、隠れ場所もない。 「さ、佐藤さん。わ、わたしもたたか」 「下がってて」

2017-12-30 01:18:11
帽子男 @alkali_acid

勇気をふりしぼった山田さんを、佐藤さんは穏やかにしりぞけると細身の武器にゆるやかな円を描かせた。青い日差しはもう届いていないが。刃がまた光を放ち、奇妙に低いうなりを響かせる。 「…しっ」 蛇が威嚇するような声が剣士の口から洩れる。 とたん、イカの体がはじける。

2017-12-30 01:20:01
帽子男 @alkali_acid

飛び散る粘液と肉片が壁や天井、床、周囲のあらゆるものを焦がし、嫌なにおいをさせる。だが佐藤さんは低く地面に伏せてやりすごすと、そのままわずかに体を起こして弾丸のように飛び出した。

2017-12-30 01:22:04
帽子男 @alkali_acid

破裂した酸毒イカのむこうから、いびつな人型があらわれる。まるでまたたく星のように、あらわれたり消えたりする、実体のはっきりしない何かで、枯木の枝のような腕を動かして、虚空をかきみだす。大気がかすかによどみ、ふるえ、重くなったかのよう。

2017-12-30 01:24:12
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんがまっすぐ帽子をなげつけると、そこを中心に、いきなり景色が渦をなして吸い込まれていく。まるでCG映像を見ているよう。 次の刹那、金属をすりあわせたような不快な音が響き渡る。それが魔物の断末魔の絶叫だとはあとで分かった。

2017-12-30 01:25:43
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんはいつのまにか、目の前にいるいびつな人型のちょうど胴の真ん中あたりに、仕込み杖を貫き通していた。相手がぼろぼろに崩れ落ちると、肩の力を抜き、ふわりと無傷であらわれた帽子をつかみとってかぶりなおす。

2017-12-30 01:27:32
帽子男 @alkali_acid

「もういいよ」 「い、いまのは」 「やせた男」 「やせた男?」 「そういう名前なんだ。下層の中でもかなり下の方にいるやつ…普通はうじゃうじゃまとめて出てくるけど…群からはぐれてたみたい」 「はうう…」

2017-12-30 01:29:18
帽子男 @alkali_acid

「いったい何がどうなってるんだろ…」 「あの、あのーもしかしたらなんですけど」 「なに?山田さんまた何か思いついたの?教えて」 「えっとえっと。根拠はないんですけど。もしかしたら、中層?の魔物が上層に出てきたのは…下層の魔物が、中層に出てきたからっていうか」

2017-12-30 01:30:38
帽子男 @alkali_acid

「どういうこと?」 「えっとつまり、下層の魔物が出てきたのがこわくて、中層の魔物は上層へ逃げてるのかなって」 「なるほど。ありえるそれ!そういうことか…」 「だとすると…あの…下層の魔物も…」 「?」 「なにかもっと、怖いものにおびえて逃げてきた、のかも」 「…なるほど…」

2017-12-30 01:32:13