異世界小話~現代の人間を異世界に召喚して無双させるようなアイテムはやばすぎるという話~

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帽子男 @alkali_acid

昼から剛零かとうんざりしながら、衛士の長は耳打ちを返す。 「賢い狐団にいた冒険者が今どこにいるか知りたい。調べられるか」 「はは。絶対に無理ですぜ。冒険者の酒場は出入りする客のことをよそへ漏らしたりしません。衛士なんかには特にね」 「なんだと。これは参事会の要件だぞ」 「いやあ」

2018-01-09 00:39:49
帽子男 @alkali_acid

「冒険者の酒場は、衛士隊だけじゃなく参事会も商工組合も、色町もまとめでゴミだと思ってますんでね…気にするのは冒険者のことだけでさぁ」 「…」 「だが幸いと、ここに冒険者がひとりいましてね。しかも昔の話にもちょいと詳しい」 「…」 「飲みながらなら、話してもいいんですが?」

2018-01-09 00:41:40
帽子男 @alkali_acid

「職務中だ」 「またまたそんな硬いことを。きれいな顔をむっつりさせちゃ台無しですぜ」 「うっとうしい絡み方をするな。火傷だらけの顔のどこがきれいだ」 「瞳とか」 「気色の悪い…」

2018-01-09 00:43:06
帽子男 @alkali_acid

とりあえず部下を帰し、また酒場に戻る。例の柑橘の味のする安酒、剛零を注文する。酒場の給仕は無表情ながら露骨に軽蔑の目つきをしたが、構ってはいられない。 「それで?」 「賢い狐団でしたね。ぱっとしない三下どもでした」

2018-01-09 00:44:45
帽子男 @alkali_acid

「奴等が中層の、とうに掘り尽されたと思ってた区画から財宝を見つけたときは驚きましたよ。もっとも最初はみんなそいつが財宝だと分からなかったんですがね」 「釜」 「ええ。釜でさあ。釜がガキを産んだって、大騒ぎして運んできて、どこかの学僧が多い僧院に売りつけた」 「それは知っている」

2018-01-09 00:46:02
帽子男 @alkali_acid

「そのあとですかい?釜を僧院に売り払った代金の分け前でもめましてねえ。腕のよかった盗賊と射手、ちなみにどちらも鋼鉄紋章でしたが、やめまして、結局残りは青銅紋章かそれ以下ばかり。へまをやって半分壊滅みたいになって解散したと思います」 「…生き残りは」

2018-01-09 00:48:22
帽子男 @alkali_acid

「盗賊は死んだが、射手は白銀まであがって…多分、塔の方にいったんじゃねえかな。まだこの街にはいねえと思いますぜ」 「青銅紋章の雑魚どもは…うーん…ああ、ひとりいましたね。俺と同じ剛零びたりになってるのが。元戦士で、こいつは足を魔物にかじりとられて引退しました」

2018-01-09 00:50:08
帽子男 @alkali_acid

「当時でさえ割と年がいってましたがね…今はどうやって暮らしてるのやら…最近、色町の雅茶遊びをやったと吹聴して回ったんで、ひんしゅくを買って、俺もちょうど思い出しました」 「雅茶遊び?そいつ金回りはいいのか?」 「いえ…貯えもなく引退した冒険者なんぞ乞食と変わらんはずですが…」

2018-01-09 00:51:34
帽子男 @alkali_acid

雅茶遊びというのは、色町で最近流行している催しだ。まず娼婦や男娼が最上級のものからずらりとお目見えし、妓楼に上がって銀貨五枚を払って茶を飲むと、椀の底から札が出る。 札の名前の相手が敵娼(あいかた)になるというもので、運が良ければ目の玉が飛び出るような美人や美形を抱ける。

2018-01-09 00:53:12
帽子男 @alkali_acid

しかも茶は追加の銀貨を払えば何杯でも頼めるので、目当ての娼婦や男娼が出るまで、とめどもなく支払いを続けて身代を潰すものまで出ている。 衛士隊でも問題になっているが、色町の力は強く、雅茶の人気も高いためとうてい手が出せない。

2018-01-09 00:54:45
帽子男 @alkali_acid

「しかし貧乏人には最初の銀貨五枚だって手こずる額だ」 「おっしゃる通りで、雅茶遊びいっかいで剛零が何杯やれるかってね」 「やつは誰か稼ぎのある女と所帯でも持っていたのか」 「御冗談を。あのねじけた性格で女房なんかもてるもんですか…」

2018-01-09 00:56:51
帽子男 @alkali_acid

「ふむ。カミソリエイは羽音を聞くより翼を見ろってね。ひとつ奴が顔を出しそうな酒場をあたりましょう」 「…酒場をはしごしたいだけじゃないのか」 「へへ…あたり」 盗賊が肩に腕をまわしてくるのをうっとうしく払いのけながら、衛士長は冒険者の酒場を出る。

2018-01-09 00:57:57
帽子男 @alkali_acid

正直ほっとした。いくら剛零がきつくても、とても酔える雰囲気ではない。 「ま、冒険者をあまり嫌わんでくださいよ」 酔っ払いの盗賊がまたからむ。 「喧嘩腰はむこうだろう」

2018-01-09 01:00:09
帽子男 @alkali_acid

「どうも迷宮の調子がおかしいんでね。皆不安になってるんでさ…俺達も昔みたいに、烏の女剣客や、紅蓮刃みたいな、頼みにできる白金紋章もいねえ」 「…戻ってきたって噂だが。地獄の猟犬団の…例の娘が」 「まさか。あの娘は色町ともめて死んだんですよ。それに衛士の方々が広めたうわさでしょ」

2018-01-09 01:01:24
帽子男 @alkali_acid

「ああ。迷宮の入り口を守る衛士が見たと。地獄の猟犬団の、死んだはずの頭目を。でかい甲冑の戦士を連れて迷宮に入っていたと」 「ばかな話だ。それが本当なら俺は剛零断ちをしたっていい」 「できるか?お前に」 「はは。やりますよお…さ、ここで一杯」

2018-01-09 01:04:49
帽子男 @alkali_acid

たどりついたのは薄汚い酒場だったが、連れの盗賊には住み慣れた水というやつか、元気いっぱいの魚のように身をくねらせながら込み合った店内を抜け入っていく。 「どんぴしゃだ。いましたぜ。まったく俺が飲み友達でよかった。ほかだったら十軒まわってもこうはいかねえ」 「やかましい」

2018-01-09 01:06:34
帽子男 @alkali_acid

片足をかじりとられたという元冒険者が、すみの席でちびちびと木の椀に入った剛零をなめている。その一杯が惜しくてたまらないというようだ。 とうてい雅茶遊びができるほど金回りがよさそうには見えない。

2018-01-09 01:07:35
帽子男 @alkali_acid

「よお同胞。いっぱい奢らせてくれよ…と、こっちのおかたがね」 すぐに片足の男はおびえた顔を見せる。 「なんでえ…あんたら…お、おまわりか?俺ぁおまわりに用なんか」 火傷の隊長はうんざりと顎を指でつついて隣に座った。 「こっちにはある」

2018-01-09 01:09:09
帽子男 @alkali_acid

「なあ同胞。あ、お兄さん剛零みっつね…そうそう。落ち着いてくれよ。あんたの酒をとりゃしない…聞きたいことがあるんだ」 「なんにも話すことは」 「ここでしゃべるか、牢屋でしゃべるかだ」 衛士の長はむっつりと口を挟む。 「こわがらせないでくだせえよ。へへ、いじわるな冗談を言うおひとさ」

2018-01-09 01:10:58
帽子男 @alkali_acid

「あんた賢い狐団にいたよなあ?」 「い、いたさ…それがどうした…俺はまっとうな冒険者だ」 「そんとき、釜を見つけただろ?財宝さ。僧院に売った」 「ああ、ああ。ああ!あの話か。そうだ。俺達であの釜を掘り起こしたんだ。ほかの奴等は財宝と気づきもしねえでよ!黄金だの白銀だの抜けた奴等だ」

2018-01-09 01:12:31
帽子男 @alkali_acid

片足は、昔話になると急に饒舌になる男だった。 「みんなして下層だの最深部だのめがけて降りていきやがる。冴えた頭と良い目で探せば、中層にだってちゃーんとまだお宝は残ってんだ…俺達があいつを街に運んだときの、奴等のほえづらったらなかったぜ。茜の剣だって」 「ごほん。まあそりゃいい」

2018-01-09 01:14:10
帽子男 @alkali_acid

「あんたは釜が実際に働くのを見たのか?どんな風だった」 「ああ。ありゃあ黒い…石かなんかでできたもんでよ…表面にある字がぎらぎら光って…出てきやがったんだ…疫病神のガキが…」 「ガキ?」 「釜の中から!冗談じゃねえ。三つぐれえの。迷宮に魔物が出ても、ガキが出るなんざ聞いたことねえ」

2018-01-09 01:15:56
帽子男 @alkali_acid

「僧院のおえらい学僧どもはなかなか信じなかった。ガキを見せても普通の子供だとかぬかしやがる。奴等が養うと言ったがお断りよ。色町の方が高く買うかもしれねえしな…だけど…妙な雲行きになった、うちの頭目と右腕が取り分のことでがたついて…おまけにガキを誰が世話するかでもめた」

2018-01-09 01:17:20
帽子男 @alkali_acid

「取り合いか?」 「押し付け合いさ。みためはありふれてたが、不吉なガキだからな。女みてえなつらで、へ。まあそだちゃ妙に色っぽくなったから、色町にゃ高く売れただろうが…ほかに使い道もあった」 「使い道?」

2018-01-09 01:18:19
帽子男 @alkali_acid

「すばしっこくてよ。ものおぼえがいい。おまけに気性のおとなしい犬みてえに言うことをよく聞く。半分はあのガキのせいでうちの団は潰れたようなもんだ。俺は世話まで押し付けられて…しょうがねえ…せいぜいうまく使うしかねえだろ」 「どういうことだい」

2018-01-09 01:20:02