異世界小話~現代の人間を異世界に召喚して無双させるようなアイテムはやばすぎるという話~

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帽子男 @alkali_acid

現代の人間を異世界に召喚して無双させるようなアイテムはやばすぎるという話

2018-01-08 23:48:38
帽子男 @alkali_acid

別の世界の英雄を呼び出し、この世界を救わせる。 よく考えるとそれ自体がとてつもない力だ。 英雄がもときた世界ではただの無力な子供だろうと、無職の若者だろうと関係ない。 「別の世界から来た人間」というだけでとにかく尋常ではない。

2018-01-08 23:51:47
帽子男 @alkali_acid

宗教上の預言者とか救世主とか、大帝国をつくった帝王とか、社会を変える発明をした天才科学者とか 歴史上の人物は沢山いるが、それが実は異世界から召喚あるいは転生してきた人間で、もとの世界ではぱっとしない凡俗だった。 そんな風に考えたことはあるだろうか。

2018-01-08 23:54:23
帽子男 @alkali_acid

もしそうだとすれば、文明や思想は、実はそれぞれの世界で自力で発展してきたのではなく、 転生と召喚によって広がって来たことになる。 そうだとすれば、もとの世界の凡俗が異世界では無双できるのも、ごく当たり前の、何度も繰り返されてきたできごとにすぎない。

2018-01-08 23:55:29
帽子男 @alkali_acid

しかし、では本当にとてつもないのは世界から世界への転生や召喚の仕組みを作った存在だ。 それこそがどんな英雄より偉大な真の力の持主なのだ。

2018-01-08 23:56:33
帽子男 @alkali_acid

転生や召喚の仕組みをつかさどるのが何ものなのか。ある世界では人格を備えた女神であり、ある世界ではただ理由も示されず働く見えざる力である。 英雄がたやすく掌握できるものであったり、触れたり考えたりすべきではない理(ことわり)だったり。

2018-01-08 23:58:12
帽子男 @alkali_acid

とある街ではそれは、大釜のかたちをしていた。 釜。お分かりだろうか。具材をたくさん入れて、火にかけて煮込む。あれだ。

2018-01-08 23:59:17
帽子男 @alkali_acid

表面にびっしり文字がきざんであり、材質は不明。おそらく金属ではない、一枚岩か何かをに削り出したものだ。 迷宮と呼ばれる謎の場所から見つかり、一時は僧院にあったがすでに行方不明。当時の学僧が克明な記録をとり、画家を招いて素描をさせ、粘土の複製をとったため、形状は分かっている。

2018-01-09 00:02:59
帽子男 @alkali_acid

「“呼び出しの釜”という名前。あとは使い方…どういう原理で、なぜ、誰がどんな目的で作ったのかはわからんと」 衛士の長は借りた眼鏡を外し、眉間のあたりをもんだ。ひどいやけどが残っているが、整った顔立ちだ。 「雲をつかむような話だ」 「お役に立てませんか」

2018-01-09 00:05:31
帽子男 @alkali_acid

僧院の若き院主が尋ねる。衛士長はうめきつつ顎を指でつついた。 「いや…当時、呼び出しの釜とやらを僧院に運んだ冒険者の記録があります…これでだいぶ助かります…ところで、見落としがあるかもしれないのですが、この釜は僧院にあるあいだ実際に使われたのですか」 「それが…混乱していまして」

2018-01-09 00:07:45
帽子男 @alkali_acid

「冒険者たちの説明によると、釜は迷宮の中で働き、中から三つぐらいの男の子が出てきたというのです」 「三つ?英雄を呼び出すにしてもいささか幼い。特別な子供でしたか?」 「いえ…当時の院主の日記によると、ごく平凡な子供でした。南方系の赤みがかった肌で、栗色の髪の」

2018-01-09 00:10:28
帽子男 @alkali_acid

「要するによくいるみなしごと変わらなかったと」 「そうなのです。異世界から来たならもっと特別な容姿をしているものでしょう?なので院主はあれを偽物と疑っていました。持ち込んだ冒険者も、いかにもその」 「ぱっとしない連中だった」 「長こそ鋼鉄紋章だったそうですが、ほかは青銅紋章が精々」

2018-01-09 00:13:45
帽子男 @alkali_acid

「金に困った冒険者が、僧院の学僧が興味を示すような財宝の作り話をしたと」 「それにしてはよくできた話でしたし、釜そのものは不可思議な作りだでしたから」 「なるほど…ありがとうございます。しばらく記録をお借りしても?」 「いえ、それはちょっと…」 「ではまたお邪魔することになるやも」

2018-01-09 00:16:16
帽子男 @alkali_acid

「ええ、僧院の扉はつねに開かれていますよ、同胞に」 衛士長は表情をこわばらせて挨拶し、書見室を出た。 還俗して随分になるが、やはり学僧には元学僧が見分けられるものらしい。 僧院の表には衛士の馬車が止めてある。 「収穫は?」 御者台から問う部下に、指で顎をつついて見せて乗り込む。

2018-01-09 00:19:32
帽子男 @alkali_acid

「例の死んだ学者の家にあった手記から、僧院を訪れ、呼び出しの釜とやらの情報を集めていたことが分かった」 「妙ですな。学者のやることは」 「呼び出しの釜、迷宮にある帰還の魔法陣、それと遠地に通じる例の転移の門。みな似たような文字が書いてあるらしい」 「ふうむ?どういうことです」

2018-01-09 00:22:13
帽子男 @alkali_acid

「さあな。だが学者はそれらを解読し、似て非なる何かを作ろうとしていた」 「というと?」 「平たく言えば、新しい力を持った財宝を、自分で作ろうとしたのさ。迷宮から掘ってくるのではなくな」 「そんなことができるんで?」 「すでにある財宝に手を加えてやるつもりだったらしい」

2018-01-09 00:23:58
帽子男 @alkali_acid

「素材は、“美食家の食布”という、食べ物を何でも複製する財宝だ。こいつも貴重だが、迷宮から複数見つかっている。らしい」 「初耳ですがね。そんなもんがありゃ、剛零…いや高い葡萄酒をいくらでも」 「ふ。お前が飲んでるのも案外もう複製かもしれんぞ」

2018-01-09 00:26:22
帽子男 @alkali_acid

「だが学者はその食布に手を加えて作った新たな財宝を自ら試し、失敗してひとつかみの灰になった」 「まちがいなしで?」 「学者の家にあった灰の中から本人の挿し歯が見つかってる。挿し歯職人が証言したよ。間違いなく学者の注文だとな」

2018-01-09 00:28:02
帽子男 @alkali_acid

「すると…つまりどういうことで」 「…参事会はその釜が欲しい。恐らく、どんどん迷宮から地上に出つづける魔物をおさえるのに、別の世界から英雄でも呼び出すつもりなんだろう」 「それでうまくいきますか?結局その釜も迷宮の品じゃないですか」 「この街の連中はほかに思いつかんのさ」

2018-01-09 00:30:16
帽子男 @alkali_acid

「隊長。冒険者の酒場につきます」 「ああ。お前達は今度もついてくるな。あそこはの連中は“おまわり”が嫌いだ」 「野良犬ども」 「むこうはこっちは飼い犬と呼んでる。いいな。一人でいく」

2018-01-09 00:31:47
帽子男 @alkali_acid

衛士長は、酒場というよりは会館と呼ぶのにふさわしい建物の頑丈な扉をくぐり、奥へ進む。 静かな空間。肌がひりつく。歓迎されていない空気を感じる。客は少ないが、皆ぞっとするほど目つきが鋭い。 白銀か、黄金紋章の連中だ。遠地の“塔”などに向かっていた高位の冒険者が戻ってきているのだ。

2018-01-09 00:33:36
帽子男 @alkali_acid

街の異変を聞いて。もっとも欲得ずくで動く冒険者が、まさか住民の危機を救うためではあるまいが。 「これはこれは“火傷”の隊長殿」 「おかしな仇名はよしてもらおう」 「失礼。こちらの流儀で」 「冒険者ではない」 「しかしここは冒険者の酒場だ」

2018-01-09 00:35:12
帽子男 @alkali_acid

やけにからむ奴等だった。街にあらわれる魔物退治に冒険者の手を借りねばならぬ状況で、衛士がどこまで突っ張れるのか試しているつもりだろうか。 「…お前たちの流儀など知ったことか。ここは迷宮じゃない。街だ」 「本当にそうかね…まだこの街が迷宮の一部になっていないと、そう信じてるかね?」

2018-01-09 00:36:55
帽子男 @alkali_acid

「はいはいそこまでにしてくれよ皆。この人ぁ俺の飲み友達だ。今日もここで剛零を飲(や)る約束だってんだよ」 中年の盗賊が手洗いから出てくる。衛士の長はひそかに舌打ちした。 「お前に用は」 「まーたまた約束したでしょ…で、何しにきたんで?」 耳元で剛零くさい息と一緒に囁く。

2018-01-09 00:38:23