異世界小話~現代の人間を異世界に召喚して無双させるようなアイテムはやばすぎるという話~

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帽子男 @alkali_acid

「俺の紋章をくれてやってよ。迷宮に送ったのよ。薬草でもなんでも、金目になりそうなもんをとってこいとな。そしたら生きて帰ってくるじゃねえか。てえしたもんだ。疫病神が福の神になったって訳よ。まあ俺が冒険者を続けてたら稼げた金の万分の一にもならねえが」 衛士と盗賊は顔を見合わせた。

2018-01-09 01:21:25
帽子男 @alkali_acid

「だいぶうたったなあ。ところで剛零はいつくるんだい?甕でたのまあ!あのガキがまだ戻ってこなくて、金を切らしてんだ。迷宮に何かあったんじゃねえのかい?なあ、調べてくれよおまわりさん。へへ…」 「…だいたいわかった」 「そのようで」

2018-01-09 01:22:52
帽子男 @alkali_acid

衛士の拳が思い切り片足を殴り飛ばし、壁にたたきつけた。 「なにをぉ」 起き上がろうとしたかたわの男をいつのまにか罠が捕らえ、しりもちをつかせる。 「痛ぇ!?」

2018-01-09 01:24:00
帽子男 @alkali_acid

「おい女将。今後この阿呆に酒を出すのを禁じる。風紀紊乱だ」 衛士の長がほかの客に聞こえるところで店の主に呼ばう。 「あんた何を、ここは冒険者だって来る…」 「分かったな?逆らうなら明日にもうちの部下をやってあれこれ調べさせるぞ」 「…逆らわない方がいいぜ。こっちは火傷の隊長さんだ」

2018-01-09 01:26:17
帽子男 @alkali_acid

女将は衛士の長の顔の半分に広がる魔物との闘いの痕をとくと眺めてからうなずいた。 「おまわりさんのおっしゃる通りにいたしますよ」 「ほかの店にも触れ回っておけ。この阿呆に酒を出す店には衛士隊を差し向ける。いいな」 「伝えておきます」

2018-01-09 01:27:47
帽子男 @alkali_acid

速足に店を出た火傷の隊長のあとを、盗賊が追いかける。 「ありゃきつい。飲んだくれには牢屋にぶちこまれるよりきついしおきだ。生き地獄ですぜ」 「知ったことか」 「調べ物が途中のようですが」 「釜が本物なのは分かった。どうせ僧院からどこへ消えたかあいつが分かるはずもない」

2018-01-09 01:29:21
帽子男 @alkali_acid

「ずいぶんおつむにきたみてえで。またおきれいな顔が台無しですぜ」 「気色の悪い」 「おまわりさんの笑った顔も見てえもんだ」 「帰れ酔っ払い」 「そいつはひでえな。こんなに使い走らせといて」 「牢屋になら連れていってやるぞ」 「横暴だあ」

2018-01-09 01:30:27
帽子男 @alkali_acid

「しかし、そのご気性じゃ衛士隊でもずいぶん肩身が狭うござんしょ」 「ふん。弩と剣が扱えればいまどき贅沢は言えん。この街の衛士はどんどん数が減ってるんでな」 「まったく…魔物騒ぎはいつ終わるんだか」

2018-01-09 01:31:56
帽子男 @alkali_acid

ふと見上げると空に二つの月が昇っている。幻月という。この街で見上げる空は、ほかとは違う。星の並びまでが違うのだ。 その一角を切り取るように、黒い影が尖塔の上にわだかまっていた。 「ありゃ」 「合成獣」

2018-01-09 01:33:22
帽子男 @alkali_acid

衛士の長が火傷の痕を手袋をはめた指でなぜる。街に突如あらわれ暴れまわり、おのれに消えない怪我を負わせた元凶だ。首を落とされて死んだはずだが、新たな首を得て蘇った。 迷宮最深部の魔物は得体が知れない。

2018-01-09 01:34:29
帽子男 @alkali_acid

男とも女ともしれない、あどけなささえ感じさせる美貌が、じっと地上の人間を見下ろしている。その口には仕留めたばかりの獲物、どこからかあらわれた“痩せた男”という危険きわまる人型の魔物を咥えている。 「あいつまた、魔物を…」 「魔物が魔物を狩るか…」

2018-01-09 01:35:49
帽子男 @alkali_acid

先ほど冒険者の酒場でのやりとりが思い出させる。 「確かに、いよいよこの街も、迷宮じみてきたな」 「へ、冗談じゃねえ」 合成獣はそのまま蝙蝠に似た翼をはばたかせて飛び去る。手持ちの武器ではとても倒せようもない。放っておくしかない。

2018-01-09 01:36:53
帽子男 @alkali_acid

「釜のことはどうなさるんで」 「さてな。分かったことは報告し、上の判断を仰ぐしかあるまい。我々にはほかにやるべき仕事も山積みなのでな」 「なるほどねえ。じゃ、もう一杯だけ」 「まともに聞いていたのか?」 「ほらほら、怒っちゃきれいなお顔が台無しですぜ」 「しつこいぞ」

2018-01-09 01:38:21
帽子男 @alkali_acid

別の世界の人間を召喚する不思議な力を持つ財宝。呼び出しの釜。 確かにそれ自体がとてつもない、空恐ろしい代物だ。 だがどれほどすさまじいものでも、人々にはもっとほかにかかずりあうべき問題が多々ある。

2018-01-09 01:40:05
帽子男 @alkali_acid

ありとあらゆる問題が噴出する日々においては、社会を文明を、人間そのものをさえ変えてしまう力さえも 数ある考えるべきことの一つにすぎなくなってしまうのかもしれない。

2018-01-09 01:41:04
帽子男 @alkali_acid

衛士の長は自分の吐く息に、柑橘系の甘ったるい薫りがまじっているのを嗅いで指であごをつつく。 「一杯だけだぞ」 「そうこなくっちゃね」 釜のことは、まあしばらく忘れておくとしよう。少なくとも今は。

2018-01-09 01:42:16