異世界小話~異世界だと元主婦でも算数できるだけで大金持ちになれた話~

なりてえよ…億り人によぉ…
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帽子男 @alkali_acid

涙と洟と汗でどろどろになり、二つの穴から白濁をこぼしながら、何度も許しを請い、家畜をやめられるなら何でもする。全財産を差し出すと述べたがかなわなかった。 ひびの務めが終わると、すすり泣き続けたが、ただ、娼婦としてのふるまいを覚えるようそばにつけられた別の娼婦は優しくしてくれた。

2018-01-11 23:36:06
帽子男 @alkali_acid

黒いちぢれ髪に、黒い肌、黒い瞳の子供のように小さな女で、黒曜と呼ぶ。 「だいじょうぶよ。あか…牝豚ちゃん…だいじょうぶ…休んで…眠りなさい」 許される範囲でいたわり、なぐさめてくれた。赤胴は赤子のようにその膝に取りすがって泣いた。

2018-01-11 23:37:18
帽子男 @alkali_acid

約束の期間が過ぎたあと、顔役は代替わりしていた。 「どうだ?牝豚。ここから出たいか?それともずっとこのまま飼ってやってもいいぞ」 「ぶうぶう…それもいいけど、ひさしぶりに立ってご飯が食べたいのよぉ。あたしほらもう年でしょ。やあね」

2018-01-11 23:39:01
帽子男 @alkali_acid

赤胴が戻って来ると、男娼たちは心からの挨拶をした。 「おかえりなさい赤胴様」 「おかえりなさい」 「あらあらあら。やあね!んもぉ。かしこまっちゃって。何も出ないわよ!ほんとに!」

2018-01-11 23:40:24
帽子男 @alkali_acid

「あたしが留守のあいだ、劇場はどうだった?醸造所の奥様なんかもいらして?」 「順調です。赤胴様のお手下の方々も手伝ってくださいまして…醸造所の奥様も何度も足を運ばれました」 「んまあよかった!あたしの恥ずかしい話とかもしたの?」 「はい。緑踵がお気に入りでして。よく赤胴様の…」

2018-01-11 23:42:17
帽子男 @alkali_acid

「牝豚ぶりを?んもぉ。かわいそ!こんなブス女の話聞かされてかわいそうねえ…」 「いえ、緑踵は、赤胴様のご無事をまっさきに聞ければ何よりもうれしいと」 「やだもう何も出ないってば。あとで金貨一袋あげちゃう!」

2018-01-11 23:43:28
帽子男 @alkali_acid

醸造所の奥様が劇場の食堂で会おうと誘ってくれる。有頂天になる赤胴。 「まあでも…相場はどうかしら」 「どちらの?」 「幻想通貨のほうよぉ…」 「上々です」 「そうね…じゃあ日取りきめましょう」

2018-01-11 23:44:47
帽子男 @alkali_acid

奥様とようやく歓談がかない、男娼談義に花が咲く。 「あの腰のきゅっとくびれたところがたまらないのよねえ…あれで妖精の王子の役ってほんと」 「ええ。そうね」 相変わらず落ち着きはらった奥様。やや一方的にしゃべる赤胴。

2018-01-11 23:45:50
帽子男 @alkali_acid

「もうあたしばっかり話しちゃってごめんなさい奥様」 「いいのよ。今日はあなたへの感謝のために宴を開いたつもりだから…ここは私が持ちます」 奥様は気取ってひらりと幻想通貨を出す。 「んま!それ幻想通貨じゃありません?やだそんなのここのお食事代の五百倍以上よぉ」 「かまわないわ」

2018-01-11 23:47:24
帽子男 @alkali_acid

恐縮して受け取る赤胴 「あなたも幻想通貨をご存じなのね」 「そうなんですよ。あたしの元手はこの幻想通貨の取引で。金貨千枚ぐらいは稼がせてもらいましたっけ」 「あら。わたくしはこの十日で金貨二万枚分は得をしましたわ」 「あらあらあらまあ!そんなに?いまってそんなに?」

2018-01-11 23:49:24
帽子男 @alkali_acid

「ええ…あなたが…あれをされているあいだ…随分かわったの。わたくしは緑踵から勧められてはじめたのだけれど…ふふ、あの子にはあとで褒美をあげなくてはね」 「あらー。“うちの”緑踵がそんなことを」 かすかに沈黙がある。

2018-01-11 23:50:47
帽子男 @alkali_acid

「何もかもこの英三劇場が続いたおかげ。だから感謝しています。私の方が苦しいときに、あなたがこの劇場を支えてくれたこと…」 「いいんですよお。そんな。奥様が喜んでくだされば」 「だから買い取らせてちょうだいな。この劇場を」

2018-01-11 23:52:24
帽子男 @alkali_acid

「あらやだ!そんな奥様ったら、でも色町の連中が」 「おもてむきはあなたが切り回していいの。わたくしは影ながらここの主になるだけで十分」 「でも、奥様だったら自由にここを使っていただいて結構ですし」

2018-01-11 23:53:29
帽子男 @alkali_acid

「いいえ。ここにはやはりふさわしい主がいないと。幻想通貨で二百枚あるわ。十分でしょう?」 「そんなに?でも奥様、ずいぶん幻想通貨をお持ちですわあ」 「ええ。多少ね」 「お手持ちをすべて幻想通貨に変えられたのかしらあ?」

2018-01-11 23:54:23
帽子男 @alkali_acid

赤胴が尋ねると、醸造所の奥様は涼しい顔。 「幻想通貨は世界の未来。宇宙の真理。これを持つことは次の時代に生き残る、選ばれた人間になることなのよ」 「まあそういう考えもありますわね。奥様が売りに出された醸造所が、他人の手に渡り、剛零とかいうお酒を売って」 「…それがどうかして?」

2018-01-11 23:56:07
帽子男 @alkali_acid

「奥様の醸造所のお酒を駆逐されてしまったんですわねえ…ひどい話ですわ…すべての醸造所を手放されたと聞いて…心配していましたの…負債も随分かかえこまれて」 「あなた…何を言いたいの?」 「安心したんですよ。幻想通貨さえもっていらっしゃれば、これからばんたん憂いなしですものねえ」

2018-01-11 23:57:29
帽子男 @alkali_acid

「あら…ところで奥様。私も醸造所で働いていたことがあるんですよ。昔ねえ。南方につくられた…場所は岬の」 「それでしたらうちのですね。意外でもないけれど。あなたが昔うちの使用人だったとはね」 「そうなんですよ。あのころは馬車がよくここ、迷宮の町と南方を行ったり来たり。奥様も?」

2018-01-11 23:59:15
帽子男 @alkali_acid

「ええ、視察に参りましたわ」 「立派な四頭立てで…でも南方は慣れていらっしゃらなくて大変でしたでしょう」 「そうでもありません…何をおっしゃりたいの」 「ほら、市場の立つ朝は、馬車の出入りを禁じていたのに、うっかり乗り入れたり」 「ばかばかしい習わしがあるものですね」

2018-01-12 00:00:45
帽子男 @alkali_acid

「そうなんですよ。奥様。馬車が何度通っても、なかなかあのならわしはやまなくて。みんな学のない南方人ばかりですものねえ。特に子供は」 「…あなたも南方人だったわね」 「ええ。子供を二人、轢いたことを覚えておいでですか?」 「さあ…?」

2018-01-12 00:01:51
帽子男 @alkali_acid

「馬に踏み殺された子供が、道のそばに打ち捨てられたのですけど、誰も怖くて拾いにいけなかった。何度も何度も馬車が通りましてね」 「そんなことをいちいち気にして商売などやっていられないでしょう」 「ええ。そのあと、醸造所に男がひとり押し掛けたのは」

2018-01-12 00:03:26
帽子男 @alkali_acid

「知りません。何なのこれは?わたくしはこんな嫌な気分にさせられるために食事をしにきたのかしら」 「ごめんなさいね。すぐ終わりますから…男は荒っぽくて、すぐ女房をなぐるろくでなしだったんですけどねえ。子供にだけは甘かった。まあ飲んだくれでしたけど、あとで海から上がったんですよ」

2018-01-12 00:04:44
帽子男 @alkali_acid

「わたくしと関係がないでしょう?」 静かに怒り狂いながら、しかし醸造所の奥様は立ち上がれないでいた。向かいに座る、もうひとりの女に気おされていた。

2018-01-12 00:05:52
帽子男 @alkali_acid

「別の話にしましょうか。幻想通貨。こちらの南方のお金ですけれど。これ…算数で増やせるんですよ。面白いですわねえ。でもねえ。皆が増やそうとすればするほど計算が難しくなって、なかなか出てこなくなる。だから皆欲しがって値段が上がる」 「それが?」

2018-01-12 00:07:15
帽子男 @alkali_acid

「うわさだとねえ。幻想通貨の八割は、最初の簡単なうちに増やした連中がまだ抑えているというんです」 「それが?」 奥様の顔はひきついっていた。赤胴はほほえむ。元主婦ににつかわしくない上品な笑みだった。 「それが急に売りに出たらどうなります?」

2018-01-12 00:08:27
帽子男 @alkali_acid

「そんなことしないわ。価値がなくなってしまうもの。金持ちならそんな馬鹿なことはしない。ちゃんと値崩れをおさえて」 「どうですかしらねえ。手持ちをすべて幻想通貨に変えて、期限の迫った債務まで抱えるなんて、逆境に正気を失ってばかなことをする女でない限り…売りを浴びせるぐらいしても」

2018-01-12 00:10:39
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