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「あたしはかまわないと思いますねえ」 「この…お前がそんなに幻想通貨を持っているはずがない!南方の海賊上がりふぜいが…お前が!」 「あらやだ。おほほ…そういえば南の市場からの手紙がそろそろ届くところですわ」
2018-01-12 00:11:47男娼の一人が手紙を持ってくる。赤胴は澄まして封を切り、中身を読む。そして凍り付く。 奥様がひったくるようにしてそれを奪う。 「ほほ!ほほほほほ!!値上がり!!値上がりだわ!!」
2018-01-12 00:12:48「どうして…」 「すごいわ!あなたこんなに持ってたのね?大儲けじゃないの!?この街をまるごと買えるぐらい儲けたのね!でも値上がり!」 赤胴ははじめて指であごをつつく。奥様は狂喜する。 「あなたが全部売った分をまるごと飲み込んで、そして値上がりしたのね!」
2018-01-12 00:14:07「やっぱり幻想通貨は世界の未来。宇宙の真理。どこまでも上がるんだわ!これを持つものが次の時代を生きる資格があるの!あなたはそれをすべて失った!つまらない復讐なんかのためにね!」 奥様は手紙をテーブルに叩きつける。赤胴は言葉もない。
2018-01-12 00:15:11「どうしたの?何か言ってごらんなさい?まあいいわ。あなたがお金持ちなのは事実。この決着はそのうちつけましょう」 赤胴は幻想通貨の紙をつかみ、口へ運ぶ。 「何をしているの」 「…これは…食べられるんですよ…いざとなったら」 うつろにつぶやきながら、丸々とした顎を開く。
2018-01-12 00:16:35「なにがあったの。ちょっと」 奥様は財布をあさる。すべての幻想通貨が泥に変わっている。 「うそ…なんで…どうして…だって…幻想通貨は…世界の未来…え?」 また男娼がやって来る。 「赤胴様…いえ顔役」 「顔役?どういうこと」
2018-01-12 00:18:19「前の顔役が死にました」 「死んだ…?」 「色町はあなたを次の顔役にとえらびました」 「何があったの」 「ここでは…」 赤胴はちらりと奥様を一瞥する。 「話して」
2018-01-12 00:19:11「魔物です」 「魔物って…迷宮に住むっていう?」 「はい…それが、前の顔役は魔物の死体でなにか実験を…詳しくは分かりませんが…その魔物がよみがえって、顔役を殺し、持っていた財宝を引き裂きました」
2018-01-12 00:20:03「財宝を…?」 「財宝は、食べ物を複製する力を持っていました…確か…“美食家の食布”とか」 「複製…?」 赤胴の脳裏を、かつて海岸で出会った男と、幻想通貨をめぐるやりとりがかすめる。
2018-01-12 00:21:28「やだ、あのおじさんたら…あたしに複製の幻想通貨を渡したのねえ…んもぉ、自分で計算が下手だからずるして…しかもあたしに言わないで…ひどいわねえ」 「何かお心当たりが?」 「いえ、なんでもないのよぉ…気にしないで。いいわ。顔役の仕事とやら、詳しくききましょ」
2018-01-12 00:23:11「あちらはよろしいので?」 「ん?ああ、あの奥様?そうねえ。正気に返る前に家畜堕ちさせといてちょうだいな。殺しちゃっていいから」 「承知いたしました」 「んもお。お金ってあるときすっとなくなるって、恐いわねえ。あたしは算数ができてよかったわあ…こういうのはなくならないもんねえ」
2018-01-12 00:24:37赤胴は食堂をあとにする。大股に歩きながら独りごちる。 「そういえば…あの幻想通貨ってけっきょくいっぺんも食べたことなかったわね…どんな味がするのかしら…あと…あのながーい計算は結局なんのためにやってたのかしら…まあどうでもいいわね…あたしったら算数はできるけど、学者じゃないもん」
2018-01-12 00:26:19