異世界小話～異世界にあるエルフの村は優しい美女ばかりの無料キャバクラだった話～

帽子男 @alkali_acid

「嗅鼻さんいい飲みっぷり！すごーい」 「かっこいい！あ、おかわりいれちゃいまーす」 嗅鼻はまた注がれる酒を呷りながら尋ねる。 「まあいいんだけどよ…ここ本当に代金払わなくていいのか」 「もちろんですよ。勇者様とその仲間にお代なんて」 「いらないですよ！」 「勇者？なんだそれ」

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乙女等はめまぜをしてから、急に黄色い声を上げる。 「あ、ほらそれより…いらっしゃいましたよ。きゃーかわいい！！」 「すごーい！やっぱり豪奢…私もおっきい方だけど」 むこうから赤面したまま、妖精に手を引かれてくる人間の娘がひとり。 ヤマダサンだ。でも服装が違う。

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背と肩のむきだしになったえりぐりの深い純白の衣をまとい、下は腰のつけねまで切れ目の入った裳裾。つまりほかの妖精の着るものと同じ。 だがいかにも慣れたようすの姫達とは異なる初々しさがある。 「ド、ドウモ」 「ど、どうも」 嗅鼻氏とは二人して妙にぎこちなく挨拶する。

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虚空に靄があらわれ、仔犬が二匹飛び出すと、たわわな乳房に飛びつこうとする。 「わわ」 今の恰好だと流石にまずい。色々危険なことになる。飼い主としてすばやく手を伸ばして首根っこをとらえた。 「あぶねえ…」

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左右に座った姫等はほっとしたようすだ。 「いたずらわんちゃん…あ、もうひとりも来ました！あっちも似合う」 「似合う似合う！」 草採も同じような格好をし、左右を巨犬にはさまれて登場する。 何となくおちつかない風。 「ごめんなさい。この村、男の子用の服がなくて」 妖精の乙女のひとりが謝る。

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だが何となく姫達はあまり悪いと思っておらず、楽しそうなようすだ。 嗅鼻氏はちぢこまる草採の髪をくしゃくしゃにしてやりたい衝動をおさえて、ヤマダサンに視線を戻して尋ねる。 「体は、どうだ？」 「モウ、ダイジョブ、デス」 「そうか…」

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妖精族の癒しの術は大したものだった。僧院の施療所など比べものにならない。なんでも、妖精は魔法とかいうものを使うのだそうだが。 「よし…じゃあ地獄の猟犬団は全員そろ…いや…肝心のやつがいなかったな…こっちから行くか」 「ハイ」 「はい」

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嗅鼻氏が立って歩き出すと、ヤマダサン、草採、妖精の乙女等がぞろぞろついていく。ひらひらした衣装のせいで人間ふたりはすそがめくれないよう四苦八苦しているが、あとは皆余裕だ。

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村の奥の祭殿のような場所にたどりつくと、妖精のひとりが先に立って案内役になる。服と同じような生地の布で仕切った一画をくぐって入ると、いきなり目の前に甲冑があらわれる。生きた鎧。冒険者の武具。その腕に半ば塩の柱となった女を抱いている。

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「サトウサン！」 ヤマダサンが駆けだし、ずっこけて盛大に転ぶ。何かが見えた気がしたが、すばやく姫達がそばに近寄り、視界を遮って助け起こす。草採はといえば、立ち尽くしたまま、息を呑んでじっと鋼の鎧と塩の女を見つめている。 「さてと」 嗅鼻氏はつとめて平静を保ちつつ口を開いた。

帽子男 @alkali_acid

「あんたら妖精が、俺達の大将、このヒロを生き返らせられるってのは、まじな話？」

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妖精の姫等は肌もあらわな衣装のまま身を寄せ合い、楽しげに笑いさざめく。 「まじまじ💛」 「まじでーす💛」 「ふふ💛」 「勇者さまはちゃーんと蘇らせますとも♪」

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嗅鼻氏はほっとしつつ、せっかくの化粧をどろどろにして泣いているヤマダサンを一瞥し、それからひらひらした格好のまま犬に押しつぶされそうになって苦しげな草採を見やり、独り言ちる。 「つか…勇者ってなに？」

帽子男 @alkali_acid

とりあえずおしまい。