日向倶楽部世界旅行編第30話「もう一つの旅立ち」

兄を殺した、私の仇だ、現れた戦艦娘は那珂を指して叫んだ。それが嘘でも真でも、一つの疑念が野分を貫く…
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三隈グループ @Mikuma_company

「…私を、連れて行ってください!」 声量の大きな声に一瞬周囲の目が向く、だが長門が困惑したのはそんな事より言葉の意味だった。 「…あ?どういう意味だ?何の話をしている?」 「長門さんはワタリ艦娘さんですよね、だから私も、連れて行って欲しいんです!」

2018-01-16 22:18:26
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「…ほう。」 昨日の出来事を覚えていないのか、何か企んでいるのか、長門は訝しむように野分の顔を見る、悪い奴の顔というのはおおよそ見当がつく。 (…少なくとも嘘偽りを言っているわけでは無さそうだな、もう少し訊いてみるか) 彼女は眉をひそめ、答えを待つ野分に訊ねた。

2018-01-16 22:19:21
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「どういう風の吹き回しだ?私はお前の上司に銃口を向けたのだぞ。」 長門は指で鉄砲を作ってこめかみに当てる 「しかもお前は奴を心底持ち上げていたじゃあないか、スパイでもする気か?この私にそんな隙があると思っているならお前は後悔する事になる。」

2018-01-16 22:20:23
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気圧する様に問うと、野分の口が凸弧を描く、長門はそれを鼻で笑った。 「…フン、そんな事だろうと思った。大人しく私を迎撃する訓練でも重ねるんだな。」 用は済んだ、と言わんばかりに彼女は立ち去ろうとする、だが野分はその進路に立ち塞がった。 「違う、そうじゃないんです。」

2018-01-16 22:21:22
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「何がだ、お前結構しつこいな。」 ため息をつく長門、そんな彼女に野分は言った 「確かに、私は那珂さんを尊敬してます、貴女の話だってデタラメだと信じてます。でも、探したいんです!」 「何をだ?」 「憧れを!」 強い口調で言う彼女から、長門は強い信念を感じ取った。

2018-01-16 22:22:29
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野分は続ける 「那珂さんは憧れでした、初めて観艦式であの人を見て、映像を見て、話を見て…この人の近くに行きたい、そう思った。」 初めこそ疑念を持っていた長門だったが、段々と真剣に話を聞き始めていた。 「そしてここに来た、近くで見た那珂さんは、もっと凄い人だった。」

2018-01-16 22:23:25
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吹いていたそよ風が止んだ 「いつかこの人に、この人みたいに、那珂さんに、憧れはもっと強くなった…」 そこまで言って野分は下を向く 「でも…それじゃあダメなんです、よく分からないけれど、そんな漠然としたものじゃ、私は無知な子供のままだ…」

2018-01-16 22:24:36
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時報が鳴り響き、二人の会話を遮った、その間も野分は下を向いていた。 やがてその音が通り過ぎると、野分は顔を上げた 「だから知りたいんです、自分の憧れの正体を!漠然としたものじゃない、もっと何か、理解出来るものを!知りたい!」 そう言うと彼女は深く頭を下げた。

2018-01-16 22:25:24
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「だからお願いします!私を連れて行ってください!」 一人の少女の決意を聞き、長門は深く頷いた。 「…私に着いてくるという事は、お前にとっては残酷な真実を知る事にもなる、そうなればお前の憧れは粉々になる、それでも良いのか?覚悟はあるのか?」 「あります!」

2018-01-16 22:26:06
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一瞬の間も無く応える野分、長門は己が正義に従い、その心に応える事とした。 「…良いだろう、出発は明後日だ、それまでに用意を済ませるんだな。」 「ありがとうございます!」 野分はもう一度深く頭を下げ、支度をするべく走って行った。 〜〜

2018-01-16 22:26:53
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〜〜 二日後の朝、まだ太陽がほんの少ししか顔を出してない頃、トラック泊地の波止場に、長門は一人で立っていた。 また彼女はこの海を駆ける、正義を果たし、己を高め、あの悪魔を討ち果たす、次こそは仇討ちを成就させるのだ。 そして正義を貫くその旅に、今日からは一人の同行者が加わる。

2018-01-16 22:27:36
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「おはようございます。」 一人の少女が声をかけた、彼女がその同行者である事に間違いはないが、この前とは髪が違っていた。 「ああ…?お前、その髪はどうした?」 初めて見たとき、その同行者の髪は銀色で変わった形をしていた。だが今目の前にいるそれは、黒くシンプルなものだった。

2018-01-16 22:28:23
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「分かりにくくてすいません…でも、しばらくはこうしていたい…」 黒い髪を弄りながら、同行者である駆逐艦娘野分は答えた。 「…そうか、まあ良いだろう。その方が動きやすいだろうしな。」 彼女の真新しいジーンズとブーツを見ながら長門は頷く。

2018-01-16 22:29:08
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「では行くぞ、私に着いてこい。」 長門は促す様に首を振り、歩き始める、野分はその後ろを早足で歩いていった。 野分は神妙な面持ちで歩く、彼女の遥か後方には、昇り始めた太陽に照らされる執務棟があった。 今戻れば、またあの日常に帰る事が出来る、振り返りたい気持ちはあった。

2018-01-16 22:29:52
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しかし彼女は振り返らずに歩いた、探しに行くために、長門の後を歩き続けた。 やがて強い光が顔を照らした、執務棟とは反対側のそこへ、野分は目を向けた。 太陽が昇っていた、朝陽が眩しく、強く輝いていた。 第30話 「もう一つの旅立ち」 おしまい

2018-01-16 22:30:35
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【長門】 ワタリの戦艦娘、本名は永井敬子。 兄の仇である那珂を殺害すべくトラック泊地にやって来たが、圧倒的な力の差を見せつけられた事で再び修行の旅に出る。 正義感が強く、悪と断じたものは決して許さない、また那珂には遠く及ばなかったものの、艦娘としての実力は非常に高い。

2018-01-16 22:31:25
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【提督】 トラック泊地の提督。 戦士としても指導者としても優れた那珂とは対照的に、使い走りの似合う平々凡々な男、急死した義兄「東 海童」に代わって着任したという経歴を持つ。 那珂とは付き合いも長く親しく話す間柄、だがその親しさにはいくつもの偽りが重なっている。

2018-01-16 22:32:27
三隈グループ @Mikuma_company

【那珂】 トラック泊地の軽巡洋艦娘。 常に優しい微笑みを浮かべ、非道さなど微塵も感じさせない彼女だが、仇として糾弾する長門の言葉を否定する事は無かった。 人前で彼女は決して暗い表情を見せない、しかしそれは、悲しむ心を持たぬ残酷さから来ているのかもしれない。

2018-01-16 22:33:31
三隈グループ @Mikuma_company

【野分】 真面目で勤勉な駆逐艦娘。 那珂に憧れて艦娘になったが、長門の言葉とそれに対する那珂の態度から自身の漠然とした「憧れ」に疑問を抱き、それを探すためにトラック泊地を旅立った。 待ち受けるものが残酷な真実だとしても、彼女はそこへと突き進む。 彼女は今、太陽へと歩き始めたのだ。 pic.twitter.com/UNd7eyHIFE

2018-01-16 22:34:25
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