異世界小話~寒い時はエルフの村を焼くとあったまるよという話。~

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帽子男 @alkali_acid

「合成獣は、はじめは液状の、定まった形のない魔物でしたが、ほかの強い魔物の死骸などを取り込むと、その特徴を身につけ、次第に頭角をあらわしました。しばらく最深部で荒れ狂い、龍とも何度もぶつかりましたが、人間の冒険者の首を得てからは、落ち着きました」

2018-01-22 19:39:57
帽子男 @alkali_acid

「獣と龍が、最深部でにらみあいながら、迷宮の…そのセイタイケイ?生態系は保たれていたようでした。ところがその影で、私どもも気づかないうちに別の魔物が繁殖していたのです…"痩せた男"という」

2018-01-22 19:41:08
帽子男 @alkali_acid

「痩せた男は、迷宮下層に住む、人型をした魔物です。ご先祖様が迷宮を作るときに連れてきた訳ではありませんから、私どもも詳しくないのです。龍も合成獣もそうですが…とにかく痩せた男は、ひどく人間に似ていて悪賢い…おまけに…どうやら…魔法の力を帯びた迷宮の財宝を使いこなすのです」

2018-01-22 19:42:55
帽子男 @alkali_acid

「痩せた男は、どうやら龍の財宝を狙っていて、幾度か群で攻撃をしかけたことがありますが、たやすく撃退されていました。合成獣にも追い回され、最深部に居場所はなかったのですが、最近になっていきなり異変が起きたのです」

2018-01-22 19:44:11
帽子男 @alkali_acid

「まず合成獣が姿を消しました。すると合成獣に押さえつけられたいたほかの最深部の魔物が縄張り争いを始めました。その魔物もときどき、急にいなくなるのです。不審に思った私どもが隠れながら観察した結果、すべては痩せた男のしわざだと分かりました」

2018-01-22 19:46:02
帽子男 @alkali_acid

「痩せた男はどうやってか、迷宮のあちこちに眠る魔法の財宝、“呼び出しの大釜”を目覚めさせたようです。そこに強い魔物を誘い込み、どこかへ送ってしまうのです。合成獣も同じ手に引っかかったに違いありません」

2018-01-22 19:47:52
帽子男 @alkali_acid

「それだけではありません。強い魔物がいなくなった隙を狙って、痩せた男は、見たこともない新たな魔物を送り込んできました。いずれも痩せた男に形は似ていますが、とても大きく、私どもは炎巨人や氷巨人と呼んでいます」 「巨人…やっかいそうだね」

2018-01-22 19:49:24
帽子男 @alkali_acid

「古い魔物がいなくなり、新たな魔物があらわれたせいで、迷宮の最深部は大混乱に陥り、下層の魔物は中層へ、中層の魔物は上層へと逃げ出すはめに陥ったのです」 「ふうん…でもそれで世界が滅ぶの?」

2018-01-22 19:51:52
帽子男 @alkali_acid

「ええ。滅びが近づいた女神の時代によく似ています…問題は、魔物の移動だけではありません。痩せた男が、呼び出しの大釜を使い続けることで、迷宮そのものが不安定になっているのです…」 「龍は?あいつは迷宮の番人みたいなもんだろ」 嗅鼻氏が尋ねると、妖精の姫は剣を抱いて頭をそらした。

2018-01-22 19:54:50
帽子男 @alkali_acid

「龍はいらだっています…痩せた男の使う呼び出しの大釜を壊し、迷宮を荒らすものを見つけ次第、塩の柱にしていますが…龍が古き魔法の力を解き放ち、荒れ狂うこともまた、迷宮を痛めつけるのです」 「で。勇者とすればどうすればいいのかな」

2018-01-22 19:57:41
帽子男 @alkali_acid

ヒロが重ねて聞くと、乙女はあらためて剣を差し出した。 「龍を止めて下さい。不死身の魔物ですが、勇者様のお力をもってすれば、人間の何世代にもわたって、二度と飛び立てないほど傷つけることも、あるいは魔法の理(ことわり)を超えて滅ぼすことも可能でしょう」

2018-01-22 19:59:48
帽子男 @alkali_acid

「あのう…痩せた男さんの方は、どうするのでしょうか」 ヤマダサンが挙手して訊くと、炎の髪の乙女はそちらに向き直る。ふわりとした動きに合わせて光の粒がまた舞った。誰かが咳き込む。 「痩せた男については、ご先祖様の言いつけを破ってでも、私どもが取り除くつもりでしたが…」

2018-01-22 20:02:32
帽子男 @alkali_acid

「ヒロがお持ちになった魔法の王冠があれば、もっとたやすく済むかもしれません」 「というと?」 「痩せた男の群は、呼び出しの大釜からあちこちに出入りしているようなのですが、魔法の王冠はほかの財宝を掌握し、操れますから、うまくすれば」 「簡単に追跡して一網打尽にできる。なるほどね」

2018-01-22 20:05:06
帽子男 @alkali_acid

ヒロは腕組みをし、顎を指でつついてから、ヤマダサンに向き直った。 「山田さんの考えを聞かせてよ」 「え、私の考えは…佐藤さんにまか…いえ。はい。あの、痩せた男さん達の目的が、はっきりしないと思うんです」 勇者は相棒の意見に莞爾(かんじ)とする。 「うん。そうだね」

2018-01-22 20:07:42
帽子男 @alkali_acid

「今お聞きした話だと、痩せた男さん達は、とても、とても頭の良い魔物だと思います。人間や妖精と変わらない…しかもばらばらに動いていなくて、群で協力してる?そういう方々が闇雲に魔法の力がある財宝を使ったり、魔物を追いやったりするでしょうか」

2018-01-22 20:10:06
帽子男 @alkali_acid

「しないと思う」 「あ、でも、蟻とか蜂は…複雑なことを人間のように考えたりせずに、やるって言いますから…えっと、でも、やっぱり痩せた男さん達のやったことには意味があるようです…支離滅裂で、意味がないようで…ある」 「山田さんはどんな意味があると思う?」

2018-01-22 20:11:41
帽子男 @alkali_acid

「龍の財宝を欲しがっていた、というお話はそうなのだと思います…でもほかの…特に呼び出しの大釜?を使う話は脈絡がない感じで…しいて言うなら…あ、これ本当に思い付きなんですけど…」 「うん。言って」 「実験…でしょうか…練習?何か大がかりなことをするための準備、とか」

2018-01-22 20:13:51
帽子男 @alkali_acid

妖精達、冒険者達、そして犬達が、ヤマダサンを注視する。ヒロは誇らしげに胸を張った。 「だよね。痩せた男たちは絶対なんか企んでる」 「でも、それが何かってところが全然…」 やおらとがり耳の娘がひとり、魔法の王冠を捧げ持って進み出る。 「賢者様のおっしゃる通りですね…」 「は?」

2018-01-22 20:17:59
帽子男 @alkali_acid

「この、魔法の王冠はぁ、賢者様が装備されるのがふさわしと思うんです」 戸惑うヤマダサンの頭に、古めかしい輪をかぶせながら、うっとりささやきかけ、ふっくらした頬に素早く崇敬の接吻をする。 見とがめたヒロが叱咤する。 「ちょっと!なにしてんの」

2018-01-22 20:20:50
帽子男 @alkali_acid

「勇者ヒロ、賢者ヤマダサン。異世界からいらしたお二人の力があれば、龍も、痩せた男も恐るに足りませえん!」 「賢者ってな、なんですか?」 「今、私が考えた称号です💛」 「えっ」

2018-01-22 20:22:44
帽子男 @alkali_acid

冒険者達はたじたじとなる。 「なんか偉そうなこと言ってるけど、あんた達結構適当だよね…」 「そんなことないですよ!すっごい考えてます!ただ痩せた男については、賢者様に指摘されるまで、ちょっと魔物だからって見下ししすぎてたかなって…反省してるんですけどぉ」

2018-01-22 20:25:13
帽子男 @alkali_acid

妖精は粉を巻き上げながらさらによく回る舌をふるった 「あ。そうだ賢者様。魔法の王冠を使えば、痩せた男に負けず、こちらも呼び出しの大釜を操れますから、移動は楽ですよ♪願えばどれだけ遠くにあっても平気です。使った釜の履歴も残っていますから、そこからさかのぼってもいいですよ。是非💛」

2018-01-22 20:41:05
帽子男 @alkali_acid

「なんだか…ケータイみたいな…」 半ば呆れながらヤマダサンは目をつぶって両手の指を額輪にあてる。 「あ、はい…ありますね…数字みたいなものが…座標…でしょうか?」 「どれかに焦点を合わせれば、くわしい記録が分かります」 「はい…えっ、佐藤さんの部屋…」 「は?」 思わずヒロが反応。

2018-01-22 20:43:39
帽子男 @alkali_acid

「あわわ。すいません…のぞくつもりじゃ…ただ、履歴の一番新しいのを見たら…佐藤さんの部屋が」 「ああ、それは前回そこからこちらに釜を使って移動されたんじゃないですかあ?そちらに戻りたければ、釜にその座標を指定すれば」 「え?なに?どういうこと?」

2018-01-22 20:45:27
帽子男 @alkali_acid

「じゃあ…この王冠を使って…釜を操れば、帰れるってこと?もとの世界に?あたし達…来たときから帰る手段を持ってた?」 「というか、私達がこちらに来たのも、この王冠で知らずに釜を操ったせいなのでは…」 ヤマダサンが告げると、ヒロは考え込んでしまう。 「お兄ちゃん…」

2018-01-22 20:47:19