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異世界小話~異世界に召喚されたらなにもしてないのに異世界がこわれた話・下編~

凍結されちゃうから…まとめなきゃ…はやく…まとめを作っておかなきゃ…
異世界小話 帽子男
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ツイートまとめ 異世界小話~異世界に召喚されたらなにもしてないのに異世界がこわれた話・中編~ なんかアカウント凍結されそうだし一応まとめとくかー… 2147 pv 9 1 user
帽子男 @alkali_acid
◆◆◆◆ 地震が起きたとき、絵描き見習いの娘、早筆は画房にいた。見上げるように一枚絵、女神が魔物の群と戦うようすを描く、制作中の大作を前にしていた。 そばでは、依頼主と画房の頭(かしら)である師匠が口で争っているさなかだった。絵描きが金を出す方を怒鳴りつける珍しいかたちで。
帽子男 @alkali_acid
「のめませんね!」 「しかしのう…」 「もう予定の変えるのにはうんざりだ。これで三度目じゃないか。最初は女神の力強さをおもてに、街の人々に希望を与える絵にしろと言った。次は魔物の恐ろしさをおもてに、迷宮の危険を訴える絵にしろと…そして」 「わしはただ…」 「制作中止ですって?冗談を」
帽子男 @alkali_acid
師匠の剣幕は、いかにも元冒険者といった風情だった。 依頼主である白髪の最長老は、車輪のついた不思議な椅子、車椅子の上で縮こまるばかりだ。あんな年をとった人にそこまできつく言わなくてもと、早筆は気がとがめたが、交渉ごとにあれこれ口を挟む立場ではない。
帽子男 @alkali_acid
「制作中止ではない…南方の、その保養所でのびのびとまたいちから描き直してほしいのじゃ…この工芸町の職人で同じ誘いを受けたものは多く…」 「魔物が街にあふれそうだからってんでしょう?そういう誘いにのる馬鹿もいるかもしれんが、俺は元冒険者で魔物描きが専門だ。むしろ異変は歓迎だ」
帽子男 @alkali_acid
白髪の最長老はうつむいた。早筆は同情した。だが師匠は何を言っても画房を離れないだろう。手がけた作品を完成させるまではかじりついてでも留まるはずだ。 特に今回のものを気に入っていた。早筆が素描を担った魔物、合成獣を中心に据えた構図は、元冒険者である絵描きの心をしっかりとらえたのだ。
帽子男 @alkali_acid
「この絵を…そちらの注文したのがそもそもの過ちであった…」 「最長老様。やけに弱気じゃねえか。どうしたんだい。やっぱり例のうわさ、あんたが街の政(まつりごと)をつかさどる参事会でほかのじじばばから引退を迫られたってのは本当か?金なら多少遅れても俺は」 「いや、それとこれとは…」
帽子男 @alkali_acid
世界が覆ったのはその瞬間だった。 初めに天井から細かな欠片が落ち、やがてひびが縦横に走った。 「外へ出ろ!」 叫んだのは誰だったのか。とてもよく通る声だった。まるで芝居の役者か、吟遊詩人のような。 次いで車椅子がまるで駿馬のような速さで走ってきて、早筆にぶつかりそうになった。
帽子男 @alkali_acid
一瞬、最長老と目があった。雪のように白い眉毛の下からのぞく灰色の双眸は驚くほど生気に満ちていた。恐怖にも。 よけようとしたが老いさばらえた腕が逆に娘の腰をとらえて、そのままひっさらって建物を飛び出した。 そこらじゅうがめちゃくちゃに揺れ、そうして崩れた。 師匠は何をしていたのか。
帽子男 @alkali_acid
倒れようとする絵を支えようとしていたのではないかと思う。 けれど作品だけでなく、画房そのものが潰えた。 あとはよく覚えていない。車椅子から身をもぎはなし、瓦礫をどかそうとして、職場があった場所に駆け寄り、必死に建材にとりついた気がする。
帽子男 @alkali_acid
最長老はとっさに逃げるのに全力を使い切ったのか、惚けたように一瞬で壊れてしまった街をながめて座っていた。 あちこちで煙と火の手が上がり、消し止めようとする男達が走っていった。やがて一人が早筆のしていることを止め、まかせろと申し出た。かわりに年寄りを連れて避難しろと。
帽子男 @alkali_acid
工芸町のある一帯は商工組合の本拠に近く、武器工房などの被害はひどいようで、死者も沢山出た。だが力持ちの男も多く、起重器なども沢山あったから、茫然とする時間が過ぎるとすぐに働き出した。火を消し止める衛士隊の火防衆が来ないと分かると、地力で建物を崩していく。
帽子男 @alkali_acid
早筆は避難所で、怪我人の手当てをした。画房に弟子入りするまで薬種屋で働いていたと素性を説明すると、すぐ看護役の割り当てを受けた。 僧院の施療所が潰れてしまい、薬も包帯もろくにないのに、傷を負った人は続々やってきた。馬車でよそへ運びたかったが、道は崩れ、馬も死に、車も壊れていた。
帽子男 @alkali_acid
「おまわりは、衛士隊は、それに参事会は何やってるんだ」 「商工組合の上の連中だってそうだ。みんな南の保養所にいっちまった。きっとこんなことが起きるのを知ってたんだ。瓦版で読んだろ…くそ。俺達だってその気になっときゃ…」 「ああ。だが仕事があったんだしょうがねえ」
帽子男 @alkali_acid
元気に文句がわめける怪我人はまだ良い方で、親を亡くした子供、子供を亡くした親、連れ合いを亡くした夫婦ものなどは黙りこくって手当を受けて傷が痛んでもうめきすらもらさないことがあった。かえって哀れだった。 まだ瓦礫の下に生き埋めになっている家族がいると訴えるものもいた。
帽子男 @alkali_acid
師匠もそうかもしれないと早筆は気が重くなった。ほかの弟子達がどうなっているか、ほとんど実家と同じような薬種屋の奥方や手代が無事かも気が気でなかった。 ふっと幼い少年の面影が脳裏をよぎる。まるで少女のように愛らしい、でもどこか魔物のように不思議なまなざしの。 「草採君…」
帽子男 @alkali_acid
つい名前を口にしてから、意識から振り払う。 薬種屋に出入りしていた子供の冒険者。きっと大丈夫だろう。どんなところでも生きていけるような、命の強さを持っていた。 「もう、関係ないしね」 「お嬢さん…」 弱々しい呼びかけがある。省みると最長老だった。やっと心がうつつに戻ってきたようだ。
帽子男 @alkali_acid
「すまんが…用足しに…いかせてくれんか」 「はい」 車椅子の身では、排便を済ませるのも一苦労だ。避難所の縁まで連れていき、体を支えるのを手伝ってやると、出すものを出す。普段人を使い慣れているのか、恥ずかしがりもしない。 「ありがたい…」 「どういたしまして」
帽子男 @alkali_acid
「もうひとつ頼みがある…わしの車椅子の下を見てくれんか」 早筆がかがんでのぞきこむと、何かと目があった。小さな鼻がひくひくと動いている。鼠だ。羽毛の生えた長い耳が、たてがみのよう。 「魔物…?」 「うむ…だがおとなしいやつでな…名前は羽髪という」 すっかり魅入る。絵に描きたい。
帽子男 @alkali_acid
「羽髪の用足しを頼む…外に出してそのへんを歩かせればよい。あと水替えをしてほしい…ついでに…車椅子の横に餌袋がつるしてあって、種が入っておるが…十粒ほどくれてやってくれ…」
帽子男 @alkali_acid
震えるのどで、しかし結構あつかましい願いを訴える翁(おきな)だったが、早筆はこらえてすべてをこなした。怒ったりするゆとりもなかった。 「最長老様…私はこれで…おひとりで避難所まで戻れますか」 「うむ…皆のようすはどうかな…?薬は足りておるか…瓦礫は…多少は片付いたか」 「…あまり」
帽子男 @alkali_acid
「あの禍が起きて、まだあまり時間が経っていないのに、商工組合のものどもは動きがはやいの…特に建物を崩して火を消したのは見事じゃった…」 「参事会や、衛士隊に頼れませんから…」 「手厳しいの…だがここは孤立しておる…はやく…街のほかの部分とつなぎをとりあうべきであろう…」
帽子男 @alkali_acid
早筆はちょっと驚いて最長老を見つめた。 「はい、あの…でも、みんな忙しいし、道はめちゃくちゃで…馬車も通れないし…」 「うむ…できれば色町の赤胴(あかどう)という女人(にょにん)に窮状を訴えるのが吉だが…ここからなら参事会の会堂が近いの…あそこまでなら?」
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