異世界小話~異世界に召喚されたらなにもしてないのに異世界がこわれた話・下編~

凍結されちゃうから…まとめなきゃ…はやく…まとめを作っておかなきゃ…
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帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 魔王は寺院のすぐそばの瓦礫に舞い降りた。すり鉢状の大穴の底で、密集した多数の呼び出しの大釜が、陽炎のごとき歪みを立ち昇らせているのを眺めおろす。あいだにはいびつな人型、痩せた男の群がもはや姿を隠すことなくうごめいていた。 「学者さん。そこにいるんでしょ」

2018-01-27 22:34:00
帽子男 @alkali_acid

昔、佐藤太一という少年のものだった首が優しく話しかける。 かつてその首の持主と妹をこの世界に召喚した人物に。 「ねえ。出てきて。お話しよう」 返事はない。合成獣は一定以上は近づかない。あまり距離を詰めると、また大釜の力でどこかへ転移させられてしまう。難攻不落の防御があるのだ。

2018-01-27 22:36:28
帽子男 @alkali_acid

「でも僕、入れない訳じゃないよ。知ってるでしょ?」 魔王は笑った。耳まで口が裂け、短剣のような牙がのぞく。獰猛な表情だが、なお美しかった。 「ねえ…入れてくれたら…痛くないように殺してあげるから…」

2018-01-27 22:38:02
帽子男 @alkali_acid

遠くから風に乗って空飛ぶ財宝の奏でる音と光が届く。 だが佐藤太一だったものは反応しない。痩せた男達も。興味がないのだ。 人間の所業などもはや。 ところが不意に何かが変わった。大釜のあいだでの動きがせわしくなる。 「…ああ…困ってるね」 何か魔物達の気に入らないことが起きたのだ。

2018-01-27 22:40:26
帽子男 @alkali_acid

「やっとあらわれたんだね。学者さんの計画をじゃまする子…それで…殺す気なんだ…その子を…」 すり鉢状の穴の上空が、ねじれゆがみ、深紅の巨大な人型があらわれる。 氷巨人。痩せた男が作り出した新種の魔物。 「いいの?龍と戦うために作ったのに、それ」 巨人はゆっくり歩きだす。

2018-01-27 22:42:55
帽子男 @alkali_acid

その方角に魔物達にとって最大の障害、絶対に抹殺すべき存在。妖精の女王として魔法の王冠を使いこなす異世界の娘がいることを、魔王は知る由もない。 だが詳しく知る必要はなかった。 「いちごのかき氷みたいな味がするかな?…ヒロが好きなんだ」

2018-01-27 22:46:06
帽子男 @alkali_acid

人面獣身。獅子の胴、蝙蝠の翼、蛇の尾、優しき少年の頭を持つ獰猛な異形、魔物を狩る魔物は雄たけびとともに襲い掛かった。 迷宮のある街の、廃墟と化した中心部で。見も知らぬ妹の親友を守るべく。

2018-01-27 22:48:12
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