異世界小話~異世界に召喚されたらなにもしてないのに異世界がこわれた話・下編~

凍結されちゃうから…まとめなきゃ…はやく…まとめを作っておかなきゃ…
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帽子男 @alkali_acid

「王冠をかぶった私か、その私の操る生きた鎧が直接大釜まで近づけば…強いて元通りにできる、みたいですが…」 「そっか…機械の再起動みたいだね」 「さいきどう。多分それです」 「…厄介だな…痩せた男。思った以上の難敵かも」 「ですね…」 一行は街へ向かう。閘門からはさほど遠くない。

2018-01-27 21:40:17
帽子男 @alkali_acid

「どうしてこんな街の近くにダム…貯水湖を」 「さあな。昔のお偉いさんのやったことだ。迷宮の財宝の力を使ってよ。そのころは財宝の利用を制限する法なんてなかったろうし…だだ、今でもお偉いさんたちはあそこで船遊びとかやってるぜ」 嗅鼻が説明する。横で草採が真剣に耳を傾けている。

2018-01-27 21:42:25
帽子男 @alkali_acid

「なんか、迷宮だけでなく、皆さんの住んでる街も、すごく進んで…あつっ…」 ヤマダサンが額にはめた輪、王冠をおさえてうつむく。 「今度はどうしたの?ねえ?その王冠外した方がいいよ…」 「いえ…妖精さん達が、暗号化?に怒ってて…自分達で解いてみせるって…何か…」 「あいつら…」

2018-01-27 21:46:06
帽子男 @alkali_acid

「だいじょうぶ!だいじょうぶですから…私、戦えないから…せめてこのケータイみたいなものを…」 「だめだってハナちゃん。絶対それ体に…」 ヤマダサンががくんと膝をついてから、かけよるヒロを手で制する。 「いけた…みたいです…大釜のひとつ…暗号化を解除…一番最寄りの…」

2018-01-27 21:48:29
帽子男 @alkali_acid

次の瞬間、地獄の猟犬団は街へ転移した。 「やりました…歩く時間をだいぶ…省け…」 鼻から血が一筋流れる。 「ハナちゃん!」 ヒロが蒼白になって抱きしめる。 「もうそれやらないで!ねえ!すぐ外して。ほんとやだよ!ハナちゃんがそんな風になるの」 「大丈夫ですってば…」

2018-01-27 21:50:23
帽子男 @alkali_acid

「大丈夫じゃない!」 「ええ…でも私より…妖精の皆さんが…お疲れみたいです…やっぱり暗号化の解除より…再起動…の方が…」 「ハナちゃん…」 ヒロが額をさするのを、ヤマダサンはおとなしく甘える。 嗅鼻は二人をやれやれと見つめてから、しがみついてくる草採に気づいた。犬達がうなる。

2018-01-27 21:53:09
帽子男 @alkali_acid

「街が…めちゃくちゃになってやがる」 建物が崩れ、瓦礫が道をふさいでいる。かなたに望める川のあたりは氾濫で水びたしになっているようだった。 「冗談じゃねえぞおい…あんだけ苦労して戻ってみりゃ…」

2018-01-27 21:55:30
帽子男 @alkali_acid

いきなり五色の光が空をよぎり、音楽が響き渡った。 「ご町内の皆々様、お待たせいたしました♪色町は英三劇場の赤胴一座、かねて瓦版にてご案内の通り、初の北方巡業を開催いたします」 一行がぎょっとして見上げると、目にも綾な天女と仙童があえかに歌い踊る。 「なんだよ…なにがどうなって」

2018-01-27 21:57:40
帽子男 @alkali_acid

「このたびは震災で不幸に遇われた皆さまのため、また日頃のご愛顧への謝恩といたしまして、赤胴一座の北方巡業にご同行いただける方には、雅茶五枚が無料で引き放題の特典をおつけいたします♪さらに、南方巡業も」 「うるさい!」 ヒロが腰帯の刃を抜いて斬りかかろうとする。

2018-01-27 21:58:59
帽子男 @alkali_acid

「待って!」 またヤマダサンが遮る。 「これ、財宝です…操ってる人がいる…話をしてみます…突然失礼いたします。地獄の猟犬団の山田と申します。はい。いえ女神ではなく、冒険者集団の新入団員をしております…はい…こちらの財宝はどういった目的で…あの、えっと…あの」

2018-01-27 22:01:20
帽子男 @alkali_acid

おびえが文系女子大生のふくよかな顔に浮かぶのを、同学の友達がすばやく手を握ってはげます。 「はい。何か緊急のことがあるなら、私どもでお手伝いできないかと…ええ、街から皆さんを避難させたい…瓦礫の下に人が…?地震…分かりました…えっと…あの…お手伝い…できます」

2018-01-27 22:03:24
帽子男 @alkali_acid

「ヒロさん。この財宝を操ってるのは色町の赤胴一座という方々です。地震でめちゃくちゃになった街から住んでる人を避難させようとしてます」 「色町が人助け?聞いたことないよ…絶対裏がある」 「あるかもしれません…でも…街がめちゃくちゃになってるのは本当です…私…」 ヤマダサンは震えだす。

2018-01-27 22:05:06
帽子男 @alkali_acid

「今、見ました。見てます。この空飛ぶ財宝。羽衣天女と管弦童子の目を通して…沢山…沢山人が怪我して…死んでます…でも、建物が崩れて…道をふさいで…みんな混乱してて…助けられない…なんとかしないと」 「うん。分かった。ハナちゃん休んで。その王冠は私が使う」 「いいえ」

2018-01-27 22:07:03
帽子男 @alkali_acid

勇者の申し出を賢者は断った。 「私が…私がやります…もう私のほうがなれてますし…ヒロさんはいざというとき戦えなければいけません」 「だめだよハナちゃん。ハナちゃん顔色真っ青なんだよ!?」 「もうすぐ…魔物が来るんです…たくさんの…数えきれないほどの魔物が…」

2018-01-27 22:08:51
帽子男 @alkali_acid

地獄の猟犬団の面々が一斉に緊張する。 「最悪だぜ。迷宮から生きて帰ってきたと思ったら、街に魔物がせめてくるだと」 「…は、早筆さ…お父さんたちを助けなきゃ…」 「ああもう!龍退治の準備をしにきただけなのにまたこうなるの?!…じゃあ…分かった。ハナちゃんの考えに従う」

2018-01-27 22:10:50
帽子男 @alkali_acid

そうヒロは応じてから、ヤマダサンをまた抱きしめる。 「でもハナちゃんがこれ以上もたないってなったら、無理矢理にでも王冠外すから」 「…はい。信じてます」 勇者はなんとはなく真赤になって、賢者からそっぽをむいた。 「うん。なんか立場が逆になっちゃったね」

2018-01-27 22:13:41
帽子男 @alkali_acid

ヤマダサンはほほえんでから、冒険者達と、王冠でつながる妖精、それに色町に同時に話しかけた。 「今、思いついたことを言います。まず赤胴一座の空飛ぶ財宝を私が生きた鎧のように操作して街中の呼び出しの大釜を再起動します」

2018-01-27 22:15:43
帽子男 @alkali_acid

「そこから妖精の村で待機している生きた鎧を、街の各所に送ります。鎧はショベルカーとかクレーン車のかわりに、瓦礫の撤去をして、下にいるかもしれない街の人を探したり、道を開けます。再起動が終わったら、空飛ぶ財宝は色町の皆さんにお返しし、街の皆さんの誘導をします」

2018-01-27 22:17:40
帽子男 @alkali_acid

「生きた鎧の兜は、ケータイのように使えるので、これで街の各所と連絡がとれます…これが全部うまくいけば…多分、魔物が湧きだすのも止められます」 「呼び出しの大釜をすべて抑えちゃえば、出てこれないもんね」 「はい。そうできない場合でも、被害を最小限に抑える」

2018-01-27 22:19:46
帽子男 @alkali_acid

「つまり魔物が湧きだす恐れのある大釜の場所を絞り込んで、そこに…武装した生きた鎧や、できれば強い人を配置して防げます…ヒロさん、何か足りないところがあれば教え…あ…えっと」 「ないよ。賢者様のお考え通りでいこう」

2018-01-27 22:21:31
帽子男 @alkali_acid

羽衣天女と管弦童子がまた歌い踊り始める。 「えー皆様。嬉しいお知らせです。農業協同組合、船舶組合、商工組合の特別協賛でお送りする英三劇場、赤胴一座の北方巡業ですが、この度飛び入りで心強い味方、あの白金紋章の冒険者集団、地獄の猟犬団が参加していただくことになりました」

2018-01-27 22:23:26
帽子男 @alkali_acid

「龍を欺きし無双の英雄ヒロ、そして賢者にして妖精女王たるヤマダサンのお二人、さらに従者の方々のご参加をもって、ますます盛り上がってまいりました。それでは雅茶無料追加特典のご案内です。工芸町、武具町、家具町の瓦礫撤去が進み、新たに二十人の生存が確認されました。おめでとうございます」

2018-01-27 22:25:42
帽子男 @alkali_acid

「また、船着き場までの船荷通りでは、鉄球を振り回す頭のおかしな若い男により、瓦礫が粉砕され、馬車の通行が可能となっております。ええ続々とお集まりいただいている隊商宿ですが定員超過となっておりますため、船舶の利用をご検討ください。原因不明ですが増水は鎮静方向です」

2018-01-27 22:27:41
帽子男 @alkali_acid

音楽とともに五、六種類の言語で次々、男や女がすばらしい喉と巧みな発音で説明を繰り返す。 ヤマダサンは目を閉じてぶつぶつと通話を続ける。 ヒロは嗅鼻に尋ねる。 「雅茶とか剛零ってなに?」 「色町の遊びと酒だな。詳しくねえけど」 「みんなそんなことに夢中なの?命がかかってるのに?」

2018-01-27 22:29:49
帽子男 @alkali_acid

「この、くそったれな街らしいだろ」 「まあね」 落ち着き払う二人をよそに、草採だけはそわそわといたたまれぬげだった。 「早筆さん…お父さん…薬種屋のみんな…どうしよう…どうしたら」

2018-01-27 22:31:55
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