異世界小話~異世界に召喚されたらなにもしてないのに異世界がこわれた話・下編~

凍結されちゃうから…まとめなきゃ…はやく…まとめを作っておかなきゃ…
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帽子男 @alkali_acid

最長老は頬をゆるめた。往年の色男ぶりを思い出させるような、きざな相好の崩しようだった。 「案じるな。赤胴殿はわきまえたお人だ。だからこそ僕は参事会に隠れて与えられるだけの全権をあの方にゆだねた」 「それで、あの、参事会をクビに…?」 「まあね…部下には迷惑をかけたが…よし、行こう」

2018-01-27 20:43:08
帽子男 @alkali_acid

車椅子が動き出す。早筆はあわてて後ろに乗る。 「どこへ」 「うむ。参事会堂の地下にも、色町と同じように財宝をためこんである。いざというときの切り札をね。使えるものを探す…手伝ってくれるね?」 「はい!」 「ありがとう。我が友」

2018-01-27 20:45:21
帽子男 @alkali_acid

だが老若の二人が、街の政(まつりごと)の中心だった建物の、大きく開いたあぎとのような玄関に消えた直後から、はるかかなたにある寺院の跡地では、黒い靄があらわれては空間をゆがめ、ねじらせ、よどませ始めていた。

2018-01-27 20:48:07
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 地獄の猟犬団は、いきなり水の上にあらわれた。街のすぐ外に広がる貯水湖の、いつになく波立つおもてに放り出されたのだ。 とっさにヒロが茜の剣を抜き、まっすぐ下に突き刺すと、たちまち氷が張って落ちてきた仲間を受け止める。 「なんだこりゃ!?」

2018-01-27 20:50:37
帽子男 @alkali_acid

鉤鼻がすべって転びそうになりながら、悪態をつく。 甲冑に入ったヤマダサンは重さでしっかり着地。地獄の猟犬達も余裕。草採は転びかけたが体の軽さで持ち直した。 「私達、迷宮の出入口に戻って来るはずじゃなかった?寺院の…」 「まって下さい…妖精さんたちに連絡がとれれば…」

2018-01-27 20:53:19
帽子男 @alkali_acid

ヤマダサンが目をつぶって念じる。 “聞こえますか…聞こえますか…” “あ、賢者様ぁ💛聞こえまーす…ちょっと遠くて、雑音入るけどぉ、迷宮の外にいる人と話しても、ご先祖様の禁忌を回避できるみたいでーす” “そうですか…ケータイみたいな…あの、予定したのと別の場所に出てしまったのですが”

2018-01-27 20:55:12
帽子男 @alkali_acid

“えーおかしいですね…確かに迷宮の出入口近くに…あれ…” “どうしました?” “はー…きっと敵の…魔物、痩せた男達の仕業です。あいつら呼び出しの大釜に何かして座標をかき乱してるんです” "座標をかき乱してる?" "はい、本来の座標にかぶせて別の座標を…こう"

2018-01-27 20:56:55
帽子男 @alkali_acid

「妖精達はなんて?」 面頬をあけてヒロが訪ねてくる。唇が触れなんばかりに近い。ヤマダサンは半ば恐慌に陥りながら返事をする。 「あの、呼び出しの大釜の、座標がかき乱してあるって。まるで別の座標を…うん…はい、座標を切り刻んで、別のものを付け加えて分かりにくくしてあるって…」

2018-01-27 20:58:44
帽子男 @alkali_acid

「それって…暗号化…みたいなこと?」 「そう!それです!暗号化!…だから予定した座標に帰還できなかったというか」 「そうなんだ…でもあいつら、どうやって迷宮の外にある釜にまで影響を与えてるんだろ」 「それが…ひょっとすると…はい…あの、え?いや違います…このドキドキはただ…」

2018-01-27 21:00:32
帽子男 @alkali_acid

頭の中で妖精と、声で目の前の勇者ヒロと会話しなくてはならない賢者ヤマダサンはなかなか忙しい。 「もしかしたら、痩せた男達は、街に出ちゃっているかもって…あと…大釜は街に…うわ…こんなに…すごい数があります…街中に点在してる…一か所すごく集まっているところが…っ…」

2018-01-27 21:02:19
帽子男 @alkali_acid

「どうしたの!?」 ヤマダサンが眉をひそめたのに、ヒロが心配そうに尋ねる。 「いえ…大釜のすごく集まってる場所に…意識を向けたら急に…頭が痛く」 「無理しないで…その魔法の王冠て、あんまり体にいい財宝だと思えない」 「へいきです…それで…あの」 「ん?」 「私達流されてません?」

2018-01-27 21:04:02
帽子男 @alkali_acid

一行の乗った氷のいかだは確かに貯水湖の端、街へ通じる閘門の方へ吸い寄せられていた。かなりの勢いで。 「おい、やばいぜヒロ…」 「た、滝!」 嗅鼻と草採がそろって手をゆくてに向ける。犬達がうなった。 水流の制御をつかさどる大がかりなしかけは壊れかけているようだった。

2018-01-27 21:06:51
帽子男 @alkali_acid

「ダ、ダムが決壊しかかってるんですね?」 「もー!ただ街に戻ろうとしただけだってのにどうしてこうなるの!」 「そ、それより佐藤さん。大変です。ここにある水が全部街へ流れ込んだら」 「うん。皆死ぬ」 「どうしましょう…えっとえっと…あの閘門が財宝なら私の王冠で…ああ…違うの…」

2018-01-27 21:08:43
帽子男 @alkali_acid

ヒロは嗅鼻を見つめた。 「泳げたっけ」 「まあまあな。草採はわかんねえ。ヤマダサンは鎧着てちゃ無理だ」 「じゃあ犬達にヤマダサンを岸まで運ばせて。草採君はあんたが守る」 「了解。お前は」 「あの門を、閉じてくる」 剣を引き抜き、斬撃を放つ。氷の道が水面に生まれる。

2018-01-27 21:11:05
帽子男 @alkali_acid

薄くもろい、氷の連なり。だが烏の女剣客の最後の直弟子には十分。 かりそめの踏み板が溶けるより沈むよりも早く駆け抜けていく。 「手間、かけさせないでよ、ねっ」 閘門に紅蓮刃を突き立てる。そこから氷が張って、広がってゆき、育ってゆき、氷塊と化して固まる。

2018-01-27 21:13:21
帽子男 @alkali_acid

「完全に閉じるのもまずいか」 ふたたび茜の剣をふるうと、氷塊の一角が断ち切れて、水の逃げ道を作る。 「とりあえずこれでよし、っと」 隣に黒い靄があらわれ、甲冑をまとったヤマダサンが到着する。 「佐藤さん…むちゃですよ」 「こんくらいはむちゃじゃないよ」

2018-01-27 21:15:32
帽子男 @alkali_acid

「え、ええ…」 「それよりさ。佐藤さんて…あの…あたしさ、ヒロって呼んでもらった方が実は楽」 「は?いや呼び捨ては…その…ヒロ、さん、とかなら…」 「あ、うん。じゃ、じゃあさ、あたしも山田さんのこと、花子さん…ハナちゃんて呼んでいい?」 「ほ、ほぁぁ!?それは…」 「だめ?」

2018-01-27 21:19:19
帽子男 @alkali_acid

「いい、です」 面頬を閉じ、耳まで朱に染まった容貌を隠しながら、ヤマダサンが応じると、ヒロはほっとしたように肩の力を抜く。犬達はあくびをしている。 「お、来た」 炎の鞭が閘門の石柱に巻き付き、氷のいかだを引き寄せてくる。 青年と少年、地獄の猟犬団の残り二人が合流した。

2018-01-27 21:21:40
帽子男 @alkali_acid

「濡れずに済んだね」 うなずき合うヒロと嗅鼻。 「なんとかな…それよりヒロ。お前生き返ってからまた強くなってねえか」 「そうかな?この剣のせいじゃない?」 「いや…なんつか…前から俺達の中じゃ頭一つ二つ抜けてたが…今はその…」 「女神様みたい…」 草採が補う。

2018-01-27 21:23:43
帽子男 @alkali_acid

「それより貯水湖の閘門が壊れかけるなんて何があったんだろ」 「分かりません…とても丈夫な設備のようですし…とりあえず街に行ってようすを見ないと…」 「うん。でもこいつどうしたもんかな」 氷塊をにらむ勇者に、賢者は不安げに問う。 「どうしたらって?」 「多分溶けるか砕けるかしちゃう」

2018-01-27 21:26:43
帽子男 @alkali_acid

「この剣で凍らせ続けてるあいだは大丈夫だけど、私達が離れたらだめだ」 「…じゃあ誰か街へ行って助けを呼んできて…」 「うーん…」 ヒロはちらりとあたりを見回し、見張り小屋があったと思しき一画を確認する。崩れて、流されてしまっている。ヤマダサンには言わない。 「離れ離れはまずい」

2018-01-27 21:28:54
帽子男 @alkali_acid

「ここで足止めもよくねえぞ」 「分かってる…なんとか氷だけを保てないかな」 勇者が顎を指でつついて考え込むのに、賢者はぴくりとしてから、また黙った。だが友達同士で細かな動きを見逃すはずもなかった。 「何か思いついたんでしょ。ハナちゃん」 「…えっとはい…佐藤さ…ヒロさん…」

2018-01-27 21:31:35
帽子男 @alkali_acid

「妖精さんに確かめたんですけど、茜の剣、紅蓮刃は、生きた鎧でも操れます…もちろん、ヒロさんがふるうほどの力はないですけど、氷を保つだけなら」 「つまり鎧と剣をここへ置いていけば解決。なんだ簡単じゃん」 「だめですよ!これ、勇者の剣ですよ!」 「武器はほかにもあるよ」

2018-01-27 21:33:10
帽子男 @alkali_acid

「そんな」 「冒険者の酒場までいけば、切れ味でいえば同じぐらいの剣もある」 「でも…でもでも…」 「地獄の猟犬団が離ればなれになるよりいいよ。ね?」 まとめ役が同意を求めると、ほかは次々賛成する。犬まで。 「ほら。ハナちゃんの考えでいこう」 「ずるいですよ…」

2018-01-27 21:35:09
帽子男 @alkali_acid

ヤマダサンが鎧を脱ぎ、閘門に突き刺さったヒロの剣を預ける。 「…はい、妖精さんのひとりに鎧を任せました…これで大丈夫かと」 「…ありがと。それじゃあ…大釜の方がどうなったかは分かる?」 「いま、調べていますが…やっぱり暗号化?してあるそうです…」

2018-01-27 21:38:00
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