異世界小話~異世界に召喚されたらなにもしてないのに異世界がこわれた話・下編~

凍結されちゃうから…まとめなきゃ…はやく…まとめを作っておかなきゃ…
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帽子男 @alkali_acid

吟詩がさらに弦を掻き鳴らそうとしたとき、ひとりだけ平然とした男が進み出て、車椅子を突き飛ばした。失った一方の足を義肢で補っている。 「よくやったぞ片脚」 「へへ。ざっとこんなもんですよ。このじじい!おかしな術を使いやがって!」 「ぐっ…ぬ…」

2018-01-27 19:52:04
帽子男 @alkali_acid

「俺は元冒険者なんだ!お前みたいな老い耄れのへっぽこ演奏にほだされるもんか!」 「やめなさい!」 早筆はたまらず駆け寄り、相手を突き飛ばそうとするが、逆に捕まった。下卑た中年だが、冒険者だというのは本当らしい身ごなしだった。 「こいつは…なかなか上玉じゃねえか」

2018-01-27 19:54:09
帽子男 @alkali_acid

義肢の元冒険者は短剣を抜くと、いきなり早筆の服の胸を裂き腕をつっこんで固い乳房を握りしめた。 「ひひひ…肌もすべすべしてらあ」 「いや!!」 「うるせえ!お前に目上のもんに逆らったらどうなるかを教えてやる!」

2018-01-27 19:55:35
帽子男 @alkali_acid

男の舌が早筆のうなじをなめる。 「ひひ…女を抱くのはいつぐらいかなあ…雅茶遊びであてた、色町の…黒曜って娼婦か…星一つだが悪くはなかった…その前はずっと剛零飲んで…草採のへたくそな腰ふりで我慢してたからよぉ…」 「えっ…?」 聞くはずのない名前を聞いた。

2018-01-27 19:57:45
帽子男 @alkali_acid

「いま、草採…って」 「知ってんのか?ガキャあどこで女なんぞたらしこんで…勝手に本なんぞもってきやがって…まったく育ての親をうやまう心ってもんがねえ…まあいいや…錬金術師さまぁ!こいつは皇帝陛下に差し上げる前に毒見をしやすぜ!」 「なにぃ?」 離れたところで見守る雇い主も憮然だ。

2018-01-27 20:00:06
帽子男 @alkali_acid

「それよりそのじじいが竪琴をとろうとしとるぞ。気をつけろ」 「おっとぉ」 車椅子からはい出そうとする吟詩を、義肢は蹴りつける。 「ぬう…」 「へへ、がんばるねえじいさん。一流の冒険者気取りってかい。どうせ青銅紋章にもなれなかった雑魚だろうが。気張るなよぉ」

2018-01-27 20:01:54
帽子男 @alkali_acid

「やめてください!最長老様はお体が…それより草採って…草採ってどういう」 「ああ?あのガキは俺が育ててやったんだ。いくら教えてもまともに迷宮もぐりひとつできねえグズだがな。勝手に本なんぞ持ち帰るから、売り飛ばしてやって、きっちり焼きを入れて…二度と余計な真似しねえように…」

2018-01-27 20:03:43
帽子男 @alkali_acid

「…うそ…そんな」 「どうでもいいことをしゃべりすぎちまったなあ…さ、大仕事前のゲン担ぎだ。楽しませてくれよおお嬢ちゃん」 「いや…やだ…草採君を…あんたなんかが…ふざけんな!」 すねをねらった早筆の蹴りはしかしあっさり義肢に弾かれる。 「じゃじゃ馬があ」

2018-01-27 20:05:49
帽子男 @alkali_acid

「あんたなんか…」 「ひひ。いいね。気の強い女を泣かすのが俺の好みだあ。あの黒曜って女も乙に澄ましといてあとから色町の作法だの説教くれるからさんざん泣かしてやっ…痛ぇえ!!!」

2018-01-27 20:07:14
帽子男 @alkali_acid

気付くと、いつのまにか車椅子から出た羽耳鼠が、義肢の元冒険者の無事な方の足にかみついていた。 「なにしやが…なんで魔物がここに!?いでででっで」 早筆を離して跳び回る義肢に、一同はあっけにとられる。 「ええい何をやっておる!さっさと二人を連れてこい」 錬金術師がいら立って叫ぶ。

2018-01-27 20:09:16
帽子男 @alkali_acid

だが言い終えるより先に、五色の光が頭上を照らし、喇叭が響き渡った。 「ご町内の皆々様、お待たせいたしました♪色町は英三劇場の赤胴一座、かねて瓦版にてご案内の通り、初の北方巡業を開催いたします」 唖然として空を仰ぐと、艶やかな薄衣をたなびかせた天女や、楽器を持った千童があまた舞う。

2018-01-27 20:11:54
帽子男 @alkali_acid

「なんだこれは…なんだこれは!色町だと?奴等は頭がおかしいのか?この状況で何を?あれは…なんだ?人間ではない…魔物か?いや違うな。財宝!そうだ財宝だな!つくりは華奢だが例の生きた鎧の仲間だな!空を飛ぶ財宝か!」 錬金術師は興奮して唾を飛ばし、腕を宙へ伸ばす。

2018-01-27 20:13:26
帽子男 @alkali_acid

「このたびは震災で不幸に遇われた皆さまのため、また日頃のご愛顧への謝恩といたしまして、赤胴一座の北方巡業にご同行いただける方には、雅茶五枚が無料で引き放題の特典をおつけいたします♪さらに、南方巡業も予定しており…」

2018-01-27 20:15:24
帽子男 @alkali_acid

「南方巡業の講演予定地には前もって天幕を設営し、剛零飲み放題の宴をご用意しております。南方にゆかれる場合も、北方にゆかれる場合も、雅茶無料、剛零飲み放題はどちらも楽しめます…さあここからです!この催し、お連れになる人数が多ければ多いほどお得」

2018-01-27 20:17:03
帽子男 @alkali_acid

「瓦礫の下にいらっしゃる皆様を救い出し、あるいは家族とはなればなれになっている皆様を連れていただければ、雅茶や剛零がどんどんついてくる仕組みとなっております…なお、この地区の皆様が通れる道については、羽衣天女と管絃童子がご案内いたします」 「阿呆(あほう)か…」

2018-01-27 20:20:13
帽子男 @alkali_acid

錬金術師がさすがに苦笑いをする。 「色町の赤胴ばばあめ。さすがにおかしくなったと見える。雅茶?剛零?町がこのありさまで、そんなもの欲しさに人助けをしたり、言う通りに避難所から出てくるものがいるとでも言うのか…いるとすればこの街の連中は本物の阿呆だ」

2018-01-27 20:21:44
帽子男 @alkali_acid

機械人がぞろぞろと空飛ぶ財宝に従って歩き始める。 「え?まじかきさまら?震災が起きたんじゃぞ?街が滅びかけてお…おい」 「錬金術師様…すいません…でも、雅茶と聞いちゃ…」 「剛零…剛零が飲み放題だと…剛零が…飲み放題」 「絶対引く、今度こそ五つ星のあの子を引く…」

2018-01-27 20:23:47
帽子男 @alkali_acid

さっきまで早筆をてごめにしようとしていた義肢までが無事な方の足から血をにじませたままついていく。 「雅茶…剛零…雅茶…剛零…」 笛の音に従って、男達、女達が去って行ったあと、錬金術師は咳ばらいをし、車椅子のそばにうずくまる老人と若い娘に向き直った。 「まあその…」

2018-01-27 20:25:59
帽子男 @alkali_acid

「この街の住民の…頭のおかしさを計算に入れなかったわしの負け…いや、あの赤胴とかいうばばあの狡さに負けたんじゃ…だが、わしの打つ手はこれだけではない…よいか!これだけではないのだぞ!覚えておけ!さらば!」 年に似合わぬ足の速さで駆け去っていくのを二人は無言で見送る。

2018-01-27 20:27:57
帽子男 @alkali_acid

「最長老様」 「吟詩と呼んでくれんか…あの義肢の男、意外と…弱っちかったな…骨にひびも入っておらん…」 「でも」 「それより、君の方だお嬢さん。ひどいめにあったな。僕に昔の力が…いや…すまなかった。こんな目に遭わせて」 「いいんです…私だって…冒険者みたいに強ければ…」

2018-01-27 20:30:11
帽子男 @alkali_acid

早筆は拳をにぎりしめる。 「あの男…八つ裂きにしてやったのに…」 「む…そうか…ああ、お手柄だったぞ羽髪。戻るがよい」 羽耳鼠が鼻をひくつかせて挨拶してから、車椅子の中に入る。娘は破れた服の前を掻き合わせて縛ると、乗り物を直して、翁が乗るのを助ける。竪琴も拾い上げる。

2018-01-27 20:32:35
帽子男 @alkali_acid

「はい、吟詩様」 「ありがとう…君は気丈な子だ…」 「いいえ。こんなの、草採君が味わった苦しみに比べたら…何百分の…何千分の一です…」 「草採…君の大切な人かな?」 「はい…わ、私の方が、一方的に、ですけど」 「そうか…恋はいいな…うむ」

2018-01-27 20:34:17
帽子男 @alkali_acid

「…でも…草採君はもう…」 「迷宮では恋をしたものから死んでいくというが…その言い伝えを打ち破る力が…君にはある気がするよ…」 「あ、あの、そうだ、さっきのあれは?空を飛んでた、きれいな」 あわてて話をそらす絵描きの見習いに、竪琴弾きはちょっと考え込んで答える。 「色町の財宝だ」

2018-01-27 20:36:30
帽子男 @alkali_acid

「財宝?人間みたいに…」 「だが財宝なのだ。空を自由に飛び、見えるもの聞こえるものを離れたところにいる持主に伝える。しかもあの羽衣の光や楽器の音は、僕の惑わしの竪琴と同じ、心を操る力がある」 「そんな…すごいものなんですか」 「だから利用を禁じた」

2018-01-27 20:38:19
帽子男 @alkali_acid

「じゃあどうして」 「色町の新しい顔役、赤胴殿はあらゆる秘密をほじくりだす。遠い昔に参事会が利用を禁じた財宝のことまであっというまに調べ出した…そして僕に許可を求めた」 「許可したんですか」 「黙認するとは伝えた…あれは使い方を違えば…恐ろしい武器だ」 「はい…」

2018-01-27 20:40:34
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