アントノフとルスラーンのややこしい話

ソ連とロシアとウクライナのすごくざっくりした話
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サキノハカ @sakino_haka

ルスラーンさん(An-124)の話していい!!? ルスラーンさんっていうかアントノフという航空機メーカーとそこの設計した飛行機と国際情勢についての話なんですけど!!!

2018-03-07 22:26:34
サキノハカ @sakino_haka

An-124(ルスラーン)はアントノフ設計局が作った大型輸送機で、現在は主に大型貨物の輸送に用いられています。日本だとセントレア空港によく飛来します(ボーイングの航空機の部品生産を行っている工場が近くにあるのでそこまで荷物を運んでいる)。 ja.wikipedia.org/wiki/An-124_(%… pic.twitter.com/XMgUpYuipT

2018-03-07 22:30:04
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サキノハカ @sakino_haka

愛称のルスラーンは昔話の騎士の名前で「獅子」に因む男性名。「アスラン」とか「アルスラーン」と同じ語源を持ちます。その勇壮な名前のわりに輸送機なので顔立ちはナガスクジラみたいにのほほんとしてるんですけどね。

2018-03-07 22:30:23
サキノハカ @sakino_haka

ルスラーンが誕生した経緯から説明します。 さて時は1970年台のソ連。ソ連のお上はめっちゃでかい輸送機(軍用)が欲しかったのです。というのもソ連に先駆けてアメリカではC-5ギャラクシーとかいう戦車だってミサイルだって運べるめっちゃでかい輸送機(軍用)が運用入りしていました。 pic.twitter.com/mlle82NZlT

2018-03-07 22:31:31
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サキノハカ @sakino_haka

まあ何しろライバル国だから、向こうがあんなすごいの使いだしたんだからうちもないとまずいやんってなったわけです。ということで重たかったりかさばったりする軍事物資をどかどか積んで飛べるでかい輸送機作ってよ! というのが要求仕様でした。実際現在もロシア空軍で運用されているようです。 pic.twitter.com/uNq74eHnpY

2018-03-07 22:32:33
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サキノハカ @sakino_haka

さてアントノフ「設計局」と言いましたが、会社とは違います。ソ連は社会主義国だったので航空メーカーも国の部局扱いでした。また航空機の生産の業態もかなり分業化されていました。

2018-03-07 22:34:11
サキノハカ @sakino_haka

たとえばある飛行機を作るとき、設計はA設計局、生産はB・C工場、部品生産がD・F…とかいう感じで、全体としてちゃんと出来上がる、みたいな感じでした。実際ルスラーンはすごくうまく出来上がりました。積める重量は当時のライバル機種だったC-5Aよりも25%多いんですよ。すごい!

2018-03-07 22:34:37
サキノハカ @sakino_haka

そんな感じですごくいい飛行機だったので民間の大型貨物輸送にも活用され、このまま生産が続くと思ってたんですが… 1991年ソ連崩壊、旧ソ圏は混迷の時代へ陥り、ちょっと航空機生産どころじゃなくなりました。

2018-03-07 22:35:34
サキノハカ @sakino_haka

そしてもうひとつ、ソ連国内でアントノフ設計局があった地域は現在のウクライナでした。ソ連崩壊に伴いウクライナが独立して、一つの共同体として動いてたものが別の国になったわけです。アントノフはウクライナの国営企業になりました。

2018-03-07 22:35:55
サキノハカ @sakino_haka

とはいえそれからしばらくは国同士そう仲が悪かったわけでもなかったので、ペースは落ちながらも生産自体は続きました。それまで通りロシアでパーツの生産を行いウクライナで組み立てをしたり、またアントノフとロシアメーカーが共同出資して大型貨物輸送を行う航空会社を立ち上げたりもしました。

2018-03-07 22:37:40
サキノハカ @sakino_haka

この航空会社が現在セントレア空港でよく見られる、白い機体に青いラインのルスラーンがおなじみ、ヴォルガ・ドニエプル航空です。アントノフ自体も自社でルスラーンを運用し大型貨物輸送を行ってるので、共同運行とかもしてたんですよ。

2018-03-07 22:38:10
サキノハカ @sakino_haka

作られた時代が時代なのでそのうちだんだんちょっと時代遅れになってはいきましたが、今現在でも使われてる通り、その貨物容量は貨物輸送分野において民間運用される機体ではなかなか並ぶもののいない相変わらずすごいものです。

2018-03-07 22:39:37
サキノハカ @sakino_haka

……そして時は流れ2014年、ウクライナ・クリミア危機が起こります。クリミア半島はウクライナからの独立を訴え、ロシア軍はクリミア半島に侵攻、ウクライナとロシアの関係はどん底まで落ち込みました。

2018-03-07 22:40:36
サキノハカ @sakino_haka

アントノフはロシア国内の工場で生産していた部品を輸入できなくなり、航空機生産全体に支障をきたす事態に。またロシア国内のルスラーンは軍用機含め、メーカーであるアントノフのサポートを受けられなくなり、ロシア国内の工場で間に合わせの改修を行うことになりました。

2018-03-07 22:41:19
サキノハカ @sakino_haka

ロシア国内からアントノフ社に発注されていた他飛行機もキャンセルに。また同じルスラーンを運用していたウクライナとロシアの貨物航空会社の共同運行もそこで終わりになりました。現在2社は競合関係にあります。

2018-03-07 22:41:39
サキノハカ @sakino_haka

そして現在、ロシアでは新造かつ改良版のルスラーンの製造が始まっています、メーカーだったはずのアントノフ社なしで。ソ連時代から作り方は知ってるんですからね、分業してた都合、作り方ならロシア国内企業ももうわかってるんです。この場合に生まれてくるルスラーンさんって誰の子なんでしょうね。

2018-03-07 22:42:42
サキノハカ @sakino_haka

ロシアでの新造1号機のルスラーンには、アントノフ設計局の創立者だった「オレグ・アントノフ」の名前がつけられ、命名式典では統一航空機製造(ロシアの航空機メーカーを統合している国有企業)曰く「我々はアントノフ氏によって築かれた伝統の後継者である」とのこと。

2018-03-07 22:43:15
サキノハカ @sakino_haka

…やましいところなんかないみたいですね。大した自信だ。 aviastar-sp.ru/press_center/c…

2018-03-07 22:43:39
サキノハカ @sakino_haka

一方ウクライナにの企業アントノフは国営企業傘下なんですが経営はあんまり思わしくないようです。それもそのはず、一人のヒトを構成してる身体から臓器を一つ切り離して、その臓器ひとつだけで生き物として生きていけるかみたいなことですよ、容易じゃありません。

2018-03-07 22:44:21
サキノハカ @sakino_haka

ソ連崩壊後はごたごたで航空機開発もだいぶ足踏みする羽目になり、その間に先に行ってしまった米・欧州メーカー勢に技術的に遅れをとってしまったので、今は新しい技術を取り入れるべく国際的に航空機生産のパートナー企業を探しているようです。 ukroboronprom.com.ua/uk/media/ukrob…

2018-03-07 22:44:48
サキノハカ @sakino_haka

アントノフ(企業)さんとルスラーンを始めとするアントノフで設計された飛行機の未来はいかに。

2018-03-07 22:45:52
サキノハカ @sakino_haka

…みたいなこと考えながらセントレア空港公式アカウントさんがよく上げてるルスラーンさんの写真見るとそわそわします。セントレアによく来るのはヴォルガ・ドニエプル航空、ロシアのルスラーンさんです。でもアントノフ航空、ウクライナのルスラーンさんもたまにやってきます。

2018-03-07 22:46:09