8 月22 日,オランダ特命全権公使石射猪太郎の日記 「波蘭問題で事態愈切迫の所へ独蘇不可侵条約成立と昨夜伯林にて発表さる.リトビノフの外相被免の理由も之で漸くハッキリした.独逸が愈々出でて愈々強気なのも之でわかつた.ヒトラーの演説にも,独逸の新聞にも,蘇聨をコキおろさぬ所以が
2018-03-25 05:02:22うなづける.英蘇交渉の停滞も成程.英仏は本日各々閣議を開いて居るが好い対策が出るか.防共協定はどこ〔か〕に飛んでしまつた.男振の悪い日本.ヒトラーとスタリンはスゴイ」
2018-03-25 05:02:308 月23 日,独ソ不可侵条約締結が公表された. 日本郵船伯林駐在の有吉義弥 「獨ソ不可侵條約の發表があつた.ドイツ國民のこれに對する反應は,安堵の感情であつた.これで先ず戰爭はないという氣持で,街頭の人の顔もホツトしたように見えた.然し,チーヤガルテン街の日本大使館では,
2018-03-25 05:05:12全く違つた觀測の下に,戰爭必至の判斷を下し,婦女子は勿論,重要業務以外の邦人全部の引揚げを決定した.當時,大島大使の下に宇佐美珍彦參事官(現成蹊學園理事長),法華津孝太書記官(現太平洋海運副社長)が主となつて計畫していた」,「「まだ戦争は始まっていませんが」と恐る恐るいったら,
2018-03-25 05:05:33「始まるにきまっとる」と自信満々の返事だった.そんなに会社や世間の思惑が気になるなら,とりあえず,デンマークかノールウェーのどこか適当な港まで出して待たせて置く.ミュンヘンの時のように平和に落ちついたらハンブルグへ帰せ.みんなをクルーズにやったと思えばいいじゃないかと呑気なことを
2018-03-25 05:05:49いわれた.「その代り開戦になったら,そこからまっすぐに日本に向けろ.絶対にイギリスのそばに寄せちゃいかんぞ.必ずドイツの潜水艦にやられる.なるべく遠くアイスランドあたりまで迂航して,大西洋を南下せよ」という命令だった」
2018-03-25 05:05:56ワルシャワ滞在中の毎日新聞東欧移動特派員の前芝確三 「そのときのポーランドの,政府だけでなしにワルシャワ市民の受けたショックは大変なものでした.独ソが提携した以上は,ドイツはソ連を敵にまわすおそれがなくなり,よいよ,ポーランドに攻めこんでくるに違いないというわけで,ワルシャワは
2018-03-25 05:07:13全市が騒然たるものでした.私の仕事を手伝ってもらっていたポーランド語のたっしゃな梅田良忠君----この人は戦後関西学院大学の教授になっていたが,二,三年前に亡くなりました,その梅田君がポーランドの進歩的なインテリとも接触があったので,彼を通じて,いろいろ情報を聞いていたんだが,
2018-03-25 05:07:28進歩的インテリからほんとうの左翼にいたるまでのポーランド人の多くはソ連にすっかり幻滅を感じ,地だんだふんでくやしがっていたようです.いろいろな筋を通じて,この条約ができたことによるフランス共産党の動揺もたいへんなものだということをききました」
2018-03-25 05:07:44同盟通信社ワルシャワ支局長森元治郎 「二十三日に突如として「独ソ不可侵条約」調印の報を聞く.あろうことか,白と赤の握手,私は呆然として解説記事の書きようもなかった.この二,三日,アバス通信社はノモンハンにおける日本軍の大敗,日本師団全滅,死傷者何千を出していると報じている.
2018-03-25 05:08:36内地から送って来る新聞には,日ソ両軍の衝突が繰り返され ている旨の報道はあるが,こんな大戦争に発展している趣きを示唆するものはない.日本と防共の盟邦であるはずのドイツがこのソ連と手を組むとはどういうことか,ドイツの裏切りじゃないかと私は怒りにふるえた」
2018-03-25 05:08:45同盟通信社ベルリン支局長江尻進は「この時のカウパス情報は,間もなく「この協定の背後には,ポーランド分割に関する,独ソ間の秘密協定が存在する」との重大な機密を伝えてきた.確認の方法はない.しかし,日本には伝えねばならぬ重大情報である.ベテランの安達前支局長の知恵を借りる必要がある.
2018-03-25 05:09:48多分来客の接待で,銀座通りの一流キャバレー辺りで飲んでいるに違いない.安達君の自動車番号は分かっているので,妻に頼んで,大通りを隅から隅まで探索して,彼の自動車を捜し回ってもらった.どこにも見当たらない,との電話が支局にあった.夜半に近い十一時過ぎである.
2018-03-25 05:10:12思案の末「消息筋の情報によれば」との前書きを付けて,「ポーランド分割の秘密協定説」を打電した」 讀賣新聞パリ特派員松尾邦之助は「海岸のホテルに一泊してパリに帰る途すがら,ノルマンディの一角,道脇にあったビストロで,カルヴァドスを飲んでいると,この酒場のオヤジが,
2018-03-25 05:11:14「ダンナ,いまラジオで,独・ソ不可侵条約を締結したといってましたが,何のことですか?わっしらには,意味が分らん」といった.わたしは,ギクリと驚いた.酒を飲み干したわたしは,オヤジにいった.「そうなると思っていた.いよいよ戦争だ.ドイツは肚を決めたんだよ」わたしは,
2018-03-25 05:11:25凄いスピードで車をぶっとばし,パリに戻った」 ドイツの諸新聞をフォローしていた駐独大使館員の法眼晋作は,ドイツ新聞のポーランド攻撃の論陣が,ズデーデン問題を提起した時と類似していることに気付いた.「新聞係をも兼ねていた私は,右新聞の論調をズデーデン問題の際のものと対比した報告を
2018-03-25 05:12:53起草した.書記官,参事官はいずれも,これはよい電報だ,本省でも事情をはっきり知ることができる,などのコメントをしながらサインをしたが,大島大使のところへ持参すると,大使は一読の上,この電報を読む者はいずれも,ドイツがいよいよポーランドを攻略するがごとき印象をもつと思う,
2018-03-25 05:13:07したがって自分は発電に反対だ,としてサインしない.そこで私は,自分の担当する新聞情報は,ドイツ新聞の論ずるところや事実の報道を鏡にかけるがごとく本省に報告するのが使命でありますが,もし大使が新聞の報道ぶりに拘らず、ドイツはポーランドを攻めることなしと判断されるならば,
2018-03-25 05:13:26別途理由を示して,大使の観測として発電されてはいかがですか,私は担当官としてこれを発電しないと職務怠慢のそしりを受けることになります,現に参事官,書記官もサインをされています,と述べたのだが,それでも大使は発電を肯んじない.私は不満ながら退去したことがある.大島大使の観測は,
2018-03-25 05:13:43ドイツの武力は極めて強大で,英仏は敵すべくもないので,ポーランドはヒットラーの要求を受け入れざるを得ぬ,というにあったようだ」
2018-03-25 05:13:50英国大使館一等書記官の上村伸一は「ドイツのダンチヒ攻撃が迫り英独関係が緊張すると,ベルリンの日本大使館からは,ロンドン大使館に頻々と電話がかかって来た.私も度々電話に出たが,ベルリン大使館はダンチヒ攻撃ぐらいでイギリスが起つはずはない,と信じていたようだ.
2018-03-25 05:14:44私は「イギリスがあれほど繰り返し警告しているのだから必ず起つ.イギリス国民もその覚悟をしている」と強調したが,ベルリン大使館は最後までそれを信じなかったようである.もっともそれは電話に出た者だけの意見だったのかも知れないが,それが,ドイツ政府の意見であったことは確かのようであった
2018-03-25 05:15:02私はその時イギリスとドイツとの信義に対する感覚の相違を,はっきりと感じた.同時に私はドイツ人の自分の判断に対する自信過多にも呆れたのである」
2018-03-25 05:15:148 月24 日6 時過ぎ(現地時間),同盟通信社ベルリン支局長江尻進はドイツ外務省情報部日本課長フォン・ウーラッハ公爵から自宅に呼ばれ,ポーランド分割情報の出所に関する詰問を受けたが守秘した.
2018-03-25 05:17:22