新婚の若妻が年の離れた義父といけない関係を重ねるうちに雌に堕とされちゃう話

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帽子男 @alkali_acid

体を拭いているときに理由の一端は分かった。 義父は去勢してあった。新妻がさらに調べると、舌を切って、腕も弓などが引けぬよう筋を傷つけてあった。 「これは…」 間違っても逃げ出したり、ほかに仔をなしたりせぬように「息子」である雪焔は手を打っておいたのだ。

2018-04-01 22:40:27
帽子男 @alkali_acid

埃払は身震いをしたが、しかし騒ぎ立てはしなかった。何の意味もない。 外では注意深い監視役である白面布が、常に二人一組で狼や鷹を伴って天幕を見守っていた。いささかの気のゆるみもないようだった。

2018-04-01 22:41:52
帽子男 @alkali_acid

肉や塩や薪などはきちんと届いた。 雪焔は「父」である鈍矢を死なせるつもりはなく、ただ成年を迎えるまで何事も起きぬよう生かしておく考えらしかった。

2018-04-01 22:44:57
帽子男 @alkali_acid

埃払は、生ける屍のような少年に食べものをやり、時折身を清めさせ、健やかさが失われぬよう、白面布の目の届く範囲で体を動かさせればよい。 退屈だが、楽なつとめではあった。 しかしさびしかった。白面布は決して話相手になろうとしないし、狼や鷹もまったくなつかない。

2018-04-01 22:47:20
帽子男 @alkali_acid

唯一「義父」はおとなしく話を聞いてくれるが、まるで人形遊びをしているようなものだった。 「ふう…なんだか百も歳をとったよう」 女が告げると、少年は玻璃のような双眸を向けて、黙って首を傾げるだけだった。

2018-04-01 22:49:14
帽子男 @alkali_acid

やがて季節が変わると、天幕は畳まれ、遊牧の民は動き始める。 この草原の監獄もしかり。白面布がてきぱきと働き、荷をまとめると、埃払と鈍矢は同じ駄馬に乗って、狼の先導に従い進む。 泥の大河をわたり、塩の原を抜け、飛蛇の潜む深い運河跡をまたいで、どこまでもどこまでも進んでいく。

2018-04-01 22:52:40
帽子男 @alkali_acid

広大な版図になお残る敵が不意を討ったのか、幾度か烽火がかなたに見えたこともあったが、雪焔が繰り広げる戦は「義父」のもとには近づかなかった。 白面布たちは、遠くに争いの兆しを認めると、加われぬ悔しさを示してうなり、吠えたが、しかし決して持ち場を離れようとはしない。

2018-04-01 22:55:12
帽子男 @alkali_acid

人妻の仕事は、天幕の掃除に食事の支度。馬に揺られ尻の痛くなる日々の繰り返し。いつ果てるともない旅のなかで、夜のひととき、おとなしい義父に故郷の物語を聞かせるのだけが楽しみになっていた。

2018-04-01 22:57:49
帽子男 @alkali_acid

はじめは味気のない人形遊びに思えていたが、次第になじんでくるにつれ、少年の無表情に見える顔つきにも、時々ほのかな変化があるのが分かってきたのだ。 「そうして雪焔が降った日に外に出ていた兄二人は命を落としたのですが、閉じ込められていた弟だけは助かったのです」 悲しい話には曇り

2018-04-01 22:59:20
帽子男 @alkali_acid

「天の馬が燃える息を吐きかけると、せむしの姫はしゃんと体を伸ばして立つことができました」 楽しい話には明るむ

2018-04-01 23:00:24
帽子男 @alkali_acid

ついにはもっと聞かせてほしいと、鈍矢の方から埃払にねだるようになった。といっても、眠りにつこうとする義理の娘の袖をそっと引くだけだが。 「お義父(とう)様に喜んでいただけて嬉しいです。わたし、太守様の御屋敷で古文書院の掃除係をしていましたとき、よくなまけては立ち読みをして」

2018-04-01 23:02:12
帽子男 @alkali_acid

「封のかかっていた貴重な巻物までみんな切って読んでしまったのです。今思うと露見する前に嫁いでこられて幸いでした」 だいぶくつろいであれこれを打ち明けられるようになってきた。 「私の母方の実家は、史書の記録を司る家で、父はそこに婿に入ったのですが…」

2018-04-01 23:04:24
帽子男 @alkali_acid

「兄は書物に興味を示さず、ひたすら兵馬の道にいそしんで、私ばかり本を読みたがり、しかも物語だとか詩歌だとかを好むので、ふたおやともがっかりしていました…もっとも長城をこえて戦が及んだときに皆亡くなったのですけれど」

2018-04-01 23:06:05
帽子男 @alkali_acid

しゃべっていると、少年は何か問いたげにみじろぎする。 「お聞きになりたいことがあるのですか?どこでしょう。私の親のこと?違いますね。兄?でもなく…本ですか?本とは何か?それは文字を記したもので…文字も分からない…?ええと」 女は、幼い義父の反応を見ながら答えを当てる。

2018-04-01 23:08:28
帽子男 @alkali_acid

小さな掌(てのひら)をとって指でなぞる。 「こうやって線を重ねて、言葉を伝えるものです。今書いたのは“馬”を示す文字です…そうですね。文字が分かればお話ができるかも」

2018-04-01 23:09:42
帽子男 @alkali_acid

人妻が義父に文字を教えると相手はみるみる吸収していく。 「あなたの、おはなしは、とても、おもしろい」 「ありがとうございます」 「もっと、きかせてほしい、ゆきほむらや、てんのうまや、みずをたたえたうみや、はなのさきほこるみやこのことを」 「すごい…お上手ですお義父様」

2018-04-01 23:11:14
帽子男 @alkali_acid

けれど穏やかな日々はずっとは続かない。 遊牧の民が北の氷原の縁をかすめたとき、恐ろしい雪嵐が襲ってきた。 馬に乗ったまま四方の視界を閉ざされ、立ち往生するうちに、護衛の白面布ともはぐれ、二人は道に迷った。

2018-04-01 23:13:17
帽子男 @alkali_acid

乗っていた葦毛の老駒がついに雪に足をとられて転ぶと、女と少年はどうにか下敷きにならないで済んだが、立ち上がってあたりを見回したところで、異様なものを目にした。 きらめく雪。空には陽射しがないのに、自ら燃えるように明るく輝く雪が、旋風となって近づいて来る。

2018-04-01 23:16:19
帽子男 @alkali_acid

それは倒れた馬を包み込むと、湯気を立てて暴れる体躯のまわりで渦を巻き始めた。 「…雪焔(ゆきほむら)…あのお方の名前のもとになった…」 「にげよう、とても、ふきつだ」 ぼうぜんとつぶやく人妻の掌に、義父は指で字を描いて伝える。 「はい。そうですね」

2018-04-01 23:19:00
帽子男 @alkali_acid

二人が懸命に雪をかきわけて遠ざかろうとするうち、背後で馬が立ちあがり、まばゆい光を放った。 「はやく」 「分かっています…でも…これは…うまくいかなくて」 「ゆきほむらを、みたものは、しぬという」 遅々として進まぬ行程だが、嵐が視界を遮ったためか、雪焔は追いかけてこない。

2018-04-01 23:22:06
帽子男 @alkali_acid

「あれが雪焔。本当に…名前の通り、あのお方と似ているかもしれない…」 「いそごう。いそごう」 埃払は、これだけ必死な鈍矢を見るのは初めてだった。およそ生に執着などないかに見えた遊牧の民の子供が、かくも激しく怯え、また助かろうともがくとは。

2018-04-01 23:24:01
帽子男 @alkali_acid

やがて息が切れて足が動かせなくなり、雪を掘って風よけを作ると、二人は少し休む。 「おどろきました。お義父様はいつも落ち着いているから」 「あなたのおはなしを、まだすべて、きいていないのに、しにたくない」 「そ、そうですか」 「まえは、いつしんでも、いいとおもっていた」

2018-04-01 23:27:12
帽子男 @alkali_acid

「でもいまは、ずっとおはなしを、きいていたい。だからしにたくない」 「分かりました。無事に宿営にたどりつけたら、とっておきのお話を」 遠くから狼の吠え声がする 「あ、あれは白面布の飼っている狼です。助かりましたね」 「よかった」

2018-04-01 23:29:20
帽子男 @alkali_acid

人妻と義父が雪穴から出て、腕を振ると、薄闇の中からはじめ狼、次いで騎馬の戦士があらわれる。鹿毛と青毛にそれぞれまたがり、一方は鷹を入れる行李を鞍の後ろに置いている。 「よかった。ご無事ですね」 埃払があいさつすると、白面布はうなずき、おもむろに弓を取って矢をつがえた。

2018-04-01 23:32:37
帽子男 @alkali_acid

「あ、そうです。雪焔(ゆきほむら)…といって私の夫君ではなく、怪異の方の雪焔が…えっ」 鏃はなぜか鈍矢の方を向いた。 「何をなさいます」 人妻はとっさに義父をかばう。 「どけ。万が一災いにあって味方と合流できず、逃がすよりは、命をとれと言いつかっている」

2018-04-01 23:35:18
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