日向倶楽部世界旅行編第41話「黒薔薇の騎士」

料理大会で料理の心を目の当たりにした日向達。一方その裏で、那珂の下を離れた野分は、長門と共に旅を始めていた…
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三隈グループ @Mikuma_company

長門さんとローズハルトさんは余力たっぷりといった様子で明日の事を話す、その後ろで私は、未熟者のように息を上げていた。 「ハァ…ハァ…こんなに、疲れるなんて…」 目的が怪物の討伐となれば、当然武器がいる。だから私は手持ちの連装砲や他の武器を持っていったが、それは重く、負担になった。

2018-04-03 22:04:39
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「ノワキ、大丈夫かい?先に休んでて良いぜ」 「す、すみません…失礼します…」 二人の好意に甘え、私は一足早く休む事にした。長門さんもローズハルトさんも、私と同じ距離を歩き、私と同じかそれ以上に重い武具を持っていた、それでもこれ程に力の差がある、体力も気力もだ。

2018-04-03 22:05:44
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正直、ここまでとは思わなかった、トラック泊地では誰よりも訓練したし、走り込みも、筋トレもした、それでもこうなのだ。 所詮自分は、那珂さんの下、艦隊という生簀で育った養殖艦娘、そんな風に言われた気がした。 「くう…」 私は無念を背中に背負いながら、一人宿泊先へと向かった。 〜〜

2018-04-03 22:06:35
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〜〜 その日の夜、早く眠りについてしまっていた私は、夜中の半端な時間に目を覚ました。 「ん…んう…」 眠い目をこする、感触で分かるのだが、しばらくは寝付けなさそうだった。 私は部屋を出て、気晴らしに居間へ向かった、この宿泊施設はいわゆる民泊で、内装は小さな民家そのものだ。

2018-04-03 22:08:33
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薄暗い廊下を歩き、居間へ向かう、すると大柄な人影があった。 「あ…」 「…よう、寝れないかい?」 そこに居たのは少し太った大柄な男性 「えっと…」 「ん?ああ、俺だよ、ローズハルト」 「あっ、どうも…こんばんは…」 私は慌てから妙な事を言い、彼の座って居たテーブルの隣に座る。

2018-04-03 22:09:29
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「なんか飲むかい?っても、歯磨いたなら水くらいだけど」 「あっ、じゃあそれで…」 ローズハルトさんはペットボトルの水を開け、木製のコップに注ぐ、私はそれを受け取り、ゴクゴクと飲んだ。 「ふぅ…」 水を飲み、一息つく、昼間あちこちに行ったせいか、水が染み渡るように美味しい。

2018-04-03 22:10:40
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隣のローズハルトさんはというと、水を飲みながらぼんやりとしている、彼も眠れないのだろうか…そんな事を考えていると、その彼がこちらを向いて言った。 「ノワキ、なんで旅してるんだい?」 「えっ…?」 「どっちかっていうと優等生って感じだろ?ワタリ艦娘やってるのは意外に思ってさ。」

2018-04-03 22:11:41
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にこやかに彼は言った、優等生…少なくとも今の私には当てはまらない言葉だった。 「…実は私、ワタリ艦娘じゃないんです」 「そうなのかい?」 「元々トラック泊地にいたんですけど…訳あって仕事をお休みして、旅に出たんです。」 「へぇ…そんな事があったのか…」

2018-04-03 22:12:44
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私の言葉から何かを察したのか、ローズハルトさんは旅に出た理由を聞き直す事はしなかった。 また夜のひと時が流れる、するとふと、私も聞きたい事が浮かんだ。 「あの…」 「ん?」 「ローズハルトさんは…どうしてその、騎士の格好をしてるんですか?」

2018-04-03 22:13:34
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聞き辛い質問ではあった、彼の格好は一見すると仮装に見えてしまうほど、奇抜なものであったからだ。 ローズハルトさんもそれは承知だったのか、質問を聞くと肩を震わせて笑った。 「ああ…やっぱ気になるかい?」 「は、はい…」 「ハハハッ、じゃあこのローズハルトの昔話をしてやるぜ」

2018-04-03 22:14:39
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彼はゆっくりと話し始めた。 「そうだな…俺は昔から太っててな、よく周りから虐められてたんだ。」 「なんと…」 「太っちょで本が好きで、まあ根暗な奴だった。そんなある時、俺の親父が当時発売されたビデオゲームを買ってきたんだ、今見たら笑うが、あの頃は最新鋭で、魔法だったぜ。」

2018-04-03 22:16:39
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ローズハルトさんはコントローラーをカチャカチャするようなジェスチャーをしてみせる 「友達もそんなにいなかった俺はゲームにハマったよ、学校が終わったらいつもゲームをしてた、ニッポンで言うオタクって人種に近いかもな」 「なるほど…」 「で、ある日俺は新しいゲームを買ったんだ。」

2018-04-03 22:17:37
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彼曰くお小遣いを貯めたりして買ったらしい 「そのゲームはファンタジー・ゲームでな、騎士がドラゴンを退治して、お姫様を助ける奴だった。」 「騎士…」 「ああ。それで、そこに出てくる騎士は、俺と同じ太っちょだったんだ。…でもカッコよかった、黒い鎧を着て、斧を振り回して戦うのさ」

2018-04-03 22:18:44
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彼は感慨深く言った 「俺は憧れた、太った身体に関係なくドラゴンを倒すその騎士みたいになりたくなった。」 彼は拳を握る 「…俺は身体を鍛えて強い太っちょを目指し、本や稽古で騎士道を学んだ、とにかく強い騎士に、あのゲームみたいな騎士になろうとしたんだ。」 「おお…」

2018-04-03 22:20:27
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「それはハイスクールに行っても変わらなかった…周りの奴が経済や工学を学ぶ隣で、俺はひたすら騎士を目指したのさ。」 ここまで話し終えると、ローズハルトさんは閉じていた目を開き、笑った。 「…で、その果てが今の俺ってわけだ、なかなか面白いだろ?親には勘当されちまったが…」

2018-04-03 22:21:37
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彼は苦笑いし、水を飲んだ。 私はその姿を見ながら、黙ったまま考え込んだ、彼の話は、まるで自分の事のようだったからだ。 「…何か、気になるかい?」 そんな私の様子を察し、彼はまた声をかけてきた。 …私は意を決して、自分の事を話し始めた。

2018-04-03 22:22:57
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「…私、すごく憧れてた人がいたんです」 「ほほう」 「強くて、優雅で、立派で…初めて見たときから、絶対この人のとこへ行くぞ…って考えて、中学を出ると同時に家も飛び出して、艦娘になったんです。」 「おお…ノワキは結構大胆なんだな」 びっくりするローズハルトさんに私は続ける。

2018-04-03 22:25:04
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「それで…艦娘になって、頑張って、その人の側に行けたんです」 「おお、良いサクセスストーリーだ」 「ありがとうございます…。でもある日、それがよく分からなくなって、このままで良いのかなってふと思って…その人の下を、離れたんです…」 私はありのままを話し、ひと息ついた。

2018-04-03 22:26:01
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そして、訊ねた 「…ローズハルトさん、憧れってなんなんでしょう、自分が何に憧れたか、なりたかったか、分かりますか…?」 「……」 「私、全然分からない…」 先細る声を出し、私はそのまま下を向いた、本当にちっとも分からないのだ。

2018-04-03 22:27:10
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しばらく時間が経った、すると下を向いていた私に、ローズハルトさんは言った 「…俺はゲームの騎士に憧れて、それみたいになりたいと思って色々やった。最初は我武者羅というか、ただ単に模倣してるだけだったぜ、身体鍛えたり、長い棒振り回したりな。」 彼は水をトクトク注ぎ、一息つく。

2018-04-03 22:28:29
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「…本当に漠然としてた、最初は。でも身体を鍛えて、騎士道を学んで、そうやってるうち…自分がどうあれば良いのか、なんとなく分かって来た、後は自分の心のままに進んだ。」 「すごい…」 「ありがとな。それはノワキもきっと出来るぜ、必ず出来る」 彼はグッと拳を握り、励ますように言った。

2018-04-03 22:29:33
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そして眉をハの字にした 「…質問には答えられてないか、ごめんな。」 「い、いえ、そんな事ありません…参考になりました。」 「そうかい?なら良かったぜ」 私が礼を言うと、困った顔もしていた彼は安心して言った。答えは分からないままだったが、私はなんだかスッキリした。

2018-04-03 22:30:38
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と、ふとローズハルトさんが気付いて言った 「…そうだノワキ、こんな感じの質問、他の人にはした事あるかい?」 ほとんどない、トラックにいた頃は考えもしなかった事だから、私は首を横に振る 「そうか、なら色んな奴に話を聞いてみるといいぜ、今の話は、あくまで俺の答えだからさ。」

2018-04-03 22:31:37
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「色んな人に…?」 「ああ、俺の答えがノワキに正しいかは分からない。一人の意見じゃない、沢山の話を聞いて、悩んだりしながら自分の答えを出すんだ、その方が自分を見続けられる。」 その言葉を考える、思えば私は、今まで那珂さんだけを見て、トラック泊地という世界に閉じこもり、居た。

2018-04-03 22:32:31
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そんな人間が今、知らない世界…導もないまま、広い海に飛び出していった、溺れ迷いそうな私だが、少なくとも今やるべき事は、分かった。 「…ありがとうございます、なんとなく…落ち着きました。」 「おう、なら良かったぜ。」 ローズハルトさんは、優しく微笑んで言った。

2018-04-03 22:33:33