数学公式集のミス

自分で証明できない定理は使うなと言いますが、公式集を妄信する素人が死にます。
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Paul Painlevé @Paul_Painleve

『数学・物理通信』 phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/math… 2巻4号の中西襄さんの記事 phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/math… に「数学公式集のミス」というのが書かれていたので、ちょっと調べてみた。

2018-04-19 16:50:47
Paul Painlevé @Paul_Painleve

朝日新聞1988年3月23日の科学欄を見ると、阪大で物性物理を研究していた斎藤基彦さんが公式の間違いを見つけたらしい。この「公式」は岩波の数学公式や丸善の数学大公式集にも間違いのまま掲載されていたが、元は1867年のアムステルダムの公式集で、さらに1790年の本が大元だったようだ。 pic.twitter.com/a1IkOwINyf

2018-04-19 16:51:49
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Paul Painlevé @Paul_Painleve

確かに、岩波の数学公式Iのp.240を新旧の版で見比べると訂正されている。数学公式は1987年に今の新装版(カラーの表紙)になっているので、新装版がでてすぐ訂正されたのだろう。画像は数学公式1・1983年12月10日の19刷(白表紙時代)と1989年4月20日新装版4刷のともに同じp.240である。 pic.twitter.com/R5muzpzdRI

2018-04-19 16:53:07
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アムステルダムの公式集は岩波の参考文献にあがっている Bierens de Haan, Nouvelles tables d'intégrales définies, 1867 archive.org/stream/nouveta… p.57 Tabel 31 (2)式であり、引用として(IV, 85)があがっている。Haanはこの大公式集を出版するのにオランダ国王の援助を受けたそうだ。

2018-04-19 16:55:31
Paul Painlevé @Paul_Painleve

我々調査隊は、公式の元を探るべくさらに奥地へと飛んだ。 IVというのは同じ著者による公式集(1867に"Nouvelles"となっているのはそのため) Tables d'intégrales définies, 1858 archive.org/stream/tablesd… で、p.85 Table 43 (4)式を見ると「Mascheroni, Adn p.18」と出典がある。

2018-04-19 16:57:42
Paul Painlevé @Paul_Painleve

Mascheroniの積分の本というと Adnotationes ad calculum integrale Euleri archive.org/stream/adnotat… が有名で、確かに1790年に出版されており、朝日の記事どおりである。19頁に級数展開されてこの積分が0であると書かれており、我々はついに終点にたどり着いた。

2018-04-19 16:59:13
Paul Painlevé @Paul_Painleve

Mascheroniはこの本の中でEuler-Mascheroni定数0.5772...を32桁まで計算したが19桁目で間違えていた。この、1/log (-log x) を0から1まで積分した値が数値計算でなく何か意味のある表現ができるかどうか不明である。x=1/eで極を持つ主値積分なので、18世紀には難解だったはず。

2018-04-19 17:02:10
Paul Painlevé @Paul_Painleve

ちなみに、丸善の数学大公式集というと、あの大槻義彦教授の翻訳で知られる、Градштейн, И.М.Рыжик(Gradshteĭn, Ryzhik)の公式集である。p.574 4.336 (1)式がMascheroniの積分と同等な式である。 序文がなかなかプラズマなことでも有名な本です(たぶん、もう復刊は難しいのでしょう)。 pic.twitter.com/mgE1GCSr0I

2018-04-19 17:06:14
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Paul Painlevé @Paul_Painleve

もうひとつちなみに、MascheroniはEuler-Mascheroni定数γ(もしくはC)に名前を残しているか残してないか、微妙な状態である(笑) 有名な仕事は「コンパスと定規で作図できるならコンパスだけで作図できる」という定理である。作図問題には定規はいらないんですよね・・・

2018-04-19 17:08:34
Paul Painlevé @Paul_Painleve

かなり反応があったので追記。数学の問題としては、画像の主値積分を数値積分したものは正しいですが、別の表記で、πなりeなりγなりを用いて書けないか、というのは気になります。また、Mascheroniのミスが単純なものか、何か修正することで=0とできるのか、というのも問題になります。 pic.twitter.com/TnRcCFBhYA

2018-04-20 10:47:01
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Paul Painlevé @Paul_Painleve

また、対数積分 li (x)=∫ 1/log x dx もEuler 1768 eulerarchive.maa.org/pages/E393.html で考察されていたので、この時代には 1/log log x の積分も気にはなったのでしょうが、その後、本当に200年使う人がいなかったとも思えないのですが…

2018-04-20 10:47:02
Paul Painlevé @Paul_Painleve

公式集に関して補足。大槻教授が翻訳したGradshteyn-Ryzhikについては en.wikipedia.org/wiki/Gradshtey… に詳しい。ロシア語は1943 1948 1951 1962 1971と出て、邦訳はおそらく1971の5版でしょう。教授は苦労して原本を持ち帰ったが、1957年の独英版、1965年の英訳なら、日本の図書館にたくさんあった(続

2018-04-21 12:03:05
Paul Painlevé @Paul_Painleve

英訳は1965 1994と出た後、編者のJeffreyによって独自に進化、2000に6版、2007の7版(過去の経緯からナンバー「11」)は逆にロシア語に翻訳された。Jeffreyの死後はZwillingerが主編者になって、最新は2015の8版「12」 amazon.co.jp/dp/B00OUR06EO/ なお、Mascheroniの積分は7版では修正されている。

2018-04-21 12:03:05