日向倶楽部世界旅行編第46話「満月の向こう側」

トラブルを切り抜けブルネイ泊地に辿り着いた日向達、ひとまずは腰を落ち着け、大会に向けてゆったりとするが…
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三隈グループ @Mikuma_company

そして 「…どう思う」 その表情のまま彼女は問う、最上は部屋の中を気にしつつ、辺りをはばかる声で言った。 「…多分、意識は無かったのかも」 「…私もそう思う、あの娘は経験も豊富で優秀な艦娘だ、戦闘で周りが見えなくなるなど、考えられん。」

2018-05-08 22:05:25
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0%が起きた、そういう事になる。そして0%は起きるはずがない、二人は互いの目を見て呟く。 「つまり…」 「…ああ」 初霜は嘘をついていた、これが二人の予想であり、結論であった。 「でも、何の為に…?」 「分からない…私達の予想に過ぎない故、聞き出すのは不可能だろう。」

2018-05-08 22:07:09
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そこまで言ってから、日向はもう一度切り出す 「…だが、初霜に何かが起きているのは間違いない。あの深海棲艦を弾き飛ばした光景…バヌアツで同じのを見ただろう?」 「…あっ」 バヌアツで最上と初霜を守った謎の現象、今日日向を殴った謎の存在、初霜に呼応して深海棲艦を弾き飛ばした謎の力

2018-05-08 22:09:33
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それら全てに共通するもの、点と点が、線で繋がった。 「じゃあ、まさか…!」 「…今日海で私を殴ったのも、バヌアツで蟹を吹っ飛ばしたのもおそらく…初霜だ」 信じ難い結論だが、状況証拠は完璧に揃っていた。否定出来るとすれば、そんな事はあり得ないというふわふわしたものだけだろう。

2018-05-08 22:11:02
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「言いたい事は分かる、私も信じ難い…。しかし深海棲艦、瑞雲の鼓動、晴嵐の波紋…それを思えば、今の世界で何が起こっても不思議じゃない」 自分の手を見て言う日向の言葉に、最上の反論はなかった。自分達の使う瑞雲の鼓動だって、言ってみればあり得ないものなのだから。

2018-05-08 22:12:22
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日向は、病室の方を見て言った 「…あれが何の力なのか…今は分からん、その正体も、善なのか否かも。だが正しくする事はきっと出来る…あの娘が間違いを起こさぬよう、初霜の様子には注意しておこう。」 「ええ…そのつもりです」 彼女の言葉に最上も深く頷き、了解した。

2018-05-08 22:13:48
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「…最上、これは私達の推論に過ぎん、確証が得られるまでは秘密だ」 「ええ…でも、扶桑さんには伝えた方が良いんじゃないですかね」 「ああ、晴嵐の波紋に詳しい彼女なら何か分かるかもしれん…今から焼肉だし、明日伝えよう。」 そして二人は会話を終え、何食わぬ顔で病室へ戻った。

2018-05-08 22:15:05
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病室へ戻ると、ちょうどシャワールームから水音が消えた。初霜がまだ出てきていない事に、二人は少しだが安心を覚えた。 やがて支度を整えた初霜が出てくると、一行は病室を後にした。 「日向さん何食べます?」 「んー、割と肉より冷麺食べたいんだよな、ピリッとした奴」

2018-05-08 22:16:24
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「ビビンバ美味しかったし冷麺も美味しいと思いますよ、ボクは肉食ってビール飲めれば良いかなぁ」 「最上さんまた飲むの?」 「えーそんなに飲んでないよ…」 と、色々お喋りしつつ、一行は焼肉へ向かった。それぞれ思うものは違ったが、今夜はただ、楽しく席を囲むだけである。 〜〜

2018-05-08 22:18:05
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〜〜 その日の夜更け、すっかり静まり返り、月と星とが輝き始めたブルネイ泊地。 ここは高台の、海の見える静かな公園、そこでは長学ランを着た女…武蔵がいつものように立っていた。 「月というのは、あれでいて片方の面しか見せていないらしいな…満月だろうと、全てを見せはしないのだ。」

2018-05-08 22:19:37
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輝く月を見つつ、詩う様に武蔵は続ける 「つまるところ、月というものに関して、この星からは半分しか分からないのだ…たった半分だよ。」 月が、満月が、武蔵のギラついた赤い目に映る 「…しかし、その半分しか分からない、半分しか見る事の出来ないものに、人間は親しみを覚える…」

2018-05-08 22:21:32
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そう言うと、やがて彼女は肩を震わせて笑い出す 「…ククッ、ククククッ…実に不思議だ、裏側に何があるか分からないのになァ、クハハハハッ!」 その笑い声に同調するかの様に、ザバァッ、ザバァッと、波の音が激しく響いた。

2018-05-08 22:23:06
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やがてその音が引くと武蔵は、眼鏡を外して振り返った。 「ククク…クククハハハ……汝の様に、お前の様に、そうだろ?」 満月を背に、赤い瞳がギラギラと光る。風が吹いた、臆病な潮風が、逃げるように吹き去った。

2018-05-08 22:24:31
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逃げ去る風に、二人の髪が揺れる。 真っ赤な武蔵の視線の先には、彼女と同じく赤い瞳をした、背の高い女が一人いた。 第46話 「満月の向こう側」 おしまい

2018-05-08 22:26:27
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【最上】 トラック泊地の航空巡洋艦娘。 温和で優しく表情豊か、人間的にも明るく、人に好かれやすい性格。 初霜とはルームメイトの関係で、よく行動を共にする。 しばしば振り回される事もあるが、彼女の事はとても大切に思っており、天涯孤独な身の上も含め常に気にかけている。 pic.twitter.com/Ew4ymEnO6N

2018-05-08 22:29:18
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