突発現パロSS、第二話

球磨ちゃんの会社説明会
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

社内を歩き、部屋を見せて回る。それだけで午前が終わり、昼休憩の時間になった。 大井の席に戻ってくると、鹿島は辺りを見回して「香取姉......香取さんは?」と聞いた。空席、荷物も既に無い。 そういえば、と思い出しつつ背後の白板で香取のスケジュールを確認する。

2018-05-29 12:22:09
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「香取は明日から海洋研究の船の警備ね、今日はもう帰らされてるわ」 戻るのは......二週間は先だ。 鹿島はそうですか、と元気なく言った。再び白板を見る。 「このかわうちって方と一緒に?」 「ええ、あとそれせんだいって読むの......まあかわうちでも反応するからいいけどね」

2018-05-29 12:26:22
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「ねえ、私が聞いていいのか分からないけど、貴女は香取の知り合い?」 「香取......さんは実の姉です、会うのは20年ぶりになりますけど」 大井が軽く言った感動の再会は本当に感動の再会だったのだ。 「ご、ごめん」 「いえ、こんな所でまた会えるなんて思ってませんでしたし、むしろ感謝してます」

2018-05-29 12:36:52
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どうも心が痛むので、昼ご飯は社内食堂で大井が奢った。 「まぁ二週間後には帰ってくるから」 「はい、それまでに話したい事いっぱい考えます」 鹿島に笑顔が戻り、大井は安心した。 「さて、午後からは外出するからね」 「営業ですか?」 「まだまだ、案内のうちよ」

2018-05-29 12:39:17
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車は使わず、陽射しの下を歩く。鹿島はどこに行くのか分からずきょろきょろと街を見回していた。 「残念ながら都会には行かないわよ、この道をこっち」 そう言って蔦が覆いつつあるコンクリートのトンネルを指す。 「え、探検ですか?」 「ある意味ね」

2018-05-29 12:58:04
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短いトンネルを抜けると、目の前には広大な海が広がっていた。 「え、ここ海岸沿いだったんですか?」 「ええ。塀で全く見えないから感覚狂うのよね」 どこかごまかすような調子を感じ、鹿島は地図を確認しようとスマートフォンを取り出したが、画面には圏外と表示されていた。

2018-05-29 20:14:07
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「さて、案内したいのはこっちよ」 大井の指し示す方角には、岩壁に埋まるようにして存在する白い建物があった。 鹿島はこのままついて行って良いのかと疑問に思ってくる。 「大井さん」 「怪しい建物じゃないから」 いや怪しいですよと言うのを堪え、大井の後を少し遅れてついて行く。

2018-05-29 20:18:05
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建物に小さく掲げられた看板を読もうとした矢先、茶色い大型犬のような何かが扉から飛び出し鹿島に抱きついた。 「待ってたクマ新人!大井が粘って引っこ抜いてきた人材クマ〜、期待してるクマ!」 「く、くま......?」 「姉さん、昨今のご時勢これはセクハラになりますから」 「むぅ世知辛いクマぁ」

2018-05-29 20:25:30
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「改めて挨拶するクマ。球磨だクマ、球磨カンパニーの社長クマ。そこの大井の姉でもあるクマ」 「鹿島です、よろしくお願いします」 「あの語尾は気にしないでね、マスコットキャラを作ろうとか言ってた頃の名残だから」 「立ち話もアレだし、中に入るクマ。こんなとこいたら日焼けするクマ」

2018-05-29 20:30:34
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建物の中は雑然としたガレージのようだった。歩きながら球磨は鹿島に向けて話を始める。 「さて鹿島、君の入社を心から歓迎するクマ。パンフレットにある通り、うちは海洋警備会社だクマ。舞台は主に海だけど、会社は仮泊用の小型船舶しか持ってないクマ。それでも立ち行く、どうしてか分かるクマ?」

2018-05-29 20:45:54
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球磨は鹿島が答えるのを待っている。 飛行機を使っている?いや、小型船舶しか無いと言ったし......まさか泳いで警備なんて事も無いだろう。 「み、皆さん海の上を歩けるからとか......なんて」 言ってはみたが、仮に歩けたところで船の移動スピードにはついて行けない。鹿島は自分の思考に苦笑する。

2018-05-29 20:54:40
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「大井、黙っとけって言ったのにバラしたクマ?」 「私何も言ってない、鹿島が賢いんでしょ」 「本当に海の上を歩けるんですか!?」 「歩くどころかめちゃくちゃ速く移動もできるクマ」 からかわれているのか真実を言っているかの判断ができず戸惑っていると、見れば分かるわと大井に背を押された。

2018-05-29 21:00:47
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球磨を先頭に奥へ進むと、壁に突き当たった。床には靴らしいものがごちゃごちゃと散らかっている。 「夕張、来たクマー」 薄暗い中どこかから足音が響いてくる。なんとなく背筋が冷え、鹿島は大井の服の裾をつまむ。 「安心して、夕張は生き物よ」 大井の励ましは鹿島を脱力させるのには充分だった。

2018-05-29 21:10:51
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足音の主は何かの機械を抱えて現れた。 「こんにちはー、夕張です」 「ど、どうも鹿島です」 「これが我が球磨カンパニーの立役者の一人、夕張クマ」 「いろいろと変わったものを作ってるヤツよ」 親しげな会話を聞いて、皆仲が良いのだなと鹿島は思う。

2018-05-29 22:57:08
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複雑そうな鹿島の表情を不安と受け取ったか、球磨は新たな説明を始めた。 「昔、夕張たちは海の上でも陸と同じように動けないか色々実験してたんだクマ。で、そんな事はできなかったクマ」 「あの努力の日々を端折られた......」 「そして色々試して、一つの可能性に辿り着いたクマ」

2018-05-29 23:00:46
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「人間が船と同じ挙動をする事クマ。で、いっぱい話し合って、機械をつけて海の上で船らしく振る舞える人間を艦娘と呼ぶ事になったクマ」 「船娘は速攻で却下されたよね」 「実現できたスペックが軒並み過去の軍艦たちと同じ程度だったんだクマ、だから艦娘で良いクマ」 「は、はぁ」 「大井、椅子を」

2018-05-29 23:06:00
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「はい。鹿島、座って」 意味は分かるのに理解が追いつかない説明を反芻しながら、すすめられるままに椅子へ座る。 「ま、経緯は忘れていいクマ。とりあえず鹿島の適性チェックするクマ」 「て、適性?私、えっと......海を歩く......?」 「落ち着いて、とりあえずこの機械を持って」

2018-05-29 23:09:15
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困惑を深める鹿島をよそに、手に持った機械は何かを計測し始める。 大井はそんな鹿島を見ながら、やっぱりコンビニ店員に戻りますと言いださないか、内心不安を感じていた。 数秒も経たないうちに夕張が鹿島の手から機械を取り上げた。 「お、練習巡洋艦だって」 「巡洋艦クマ!?良いクマね!」

2018-05-29 23:13:56
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楽しげに球磨は続ける。 「警備事業は巡洋艦が主役クマ。艦娘として活動するには結構訓練がいるけど、それさえこなせば仕事には困らないクマ」 「は、はいぃ」 「鹿島、大丈夫?」 「すみません、会社員って事務作業とか営業職を想像してて」 「事務希望クマ?そっちも手が欲しかったところクマ!」

2018-05-29 23:26:32
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「会社案内はこれでおしまい、明日からは仕事に入ってもらうクマ!」 「落ち着いてからいろいろ整理するといいよ、球磨の説明は勢いで畳み掛けてくるからアレなんだよね」 「アレってなんだクマ」 「これからよろしくね〜」 怒濤の説明で鹿島の処理能力は未だに麻痺させられつつ、建物を退去する。

2018-05-29 23:31:23
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ぼーっと宙を見つめながら歩く鹿島。キリッとした店員姿が印象づいていただけに大井は心配になる。 「鹿島、このまま直帰でも良いんだけど、家まで帰れそう?歩いて来てるの?」 「......あ、はい歩きです。私あのコンビニの近所に住んでるので」

2018-05-29 23:34:26
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「私が勧誘しといて何だけど、どう?」 「よく、分かりません」 「まあそうよね......聞きたいことがあったら答えるからなんでも聞いてね」 一瞬仕事の話でない事が口に出そうになったが、思い留まった。 「これ私の連絡先。休むとか遅刻とかの連絡もとりあえず私でいいから、気軽に使って」 「はい」

2018-05-29 23:40:10
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まだ明るいし、家まで送るのは流石にやり過ぎだろう。 一礼して帰っていく鹿島を見送りながら、大井は一旦会社に戻る。 鹿島は明日も来てくれるだろうか? 一抹の不安を抱えながら、デスクを整理して大井も帰宅の準備を始めた。

2018-05-29 23:47:28