【創造入門】福間健二 #k2fact196
生ぬるい風が吹いて、月が見えない夜。三人の「表現者」が話している。流行遅れの、おしゃれな靴はいて、つよい言い方。自分の声で語っていない。実は、それには気がついているのかもしれない。あとに引けなくなっているだけ。倒れたくない。死んだ心がさまよっている。(創造入門1)#k2fact196
2018-06-28 07:58:41いつもはボスっぽい男の話し声が響いている。窓の下。けさは機械の音がうるさくて、それからカリカリ、カリカリ、コンクリートを削る音。これを聴きながらぼくが対面するのは「苦労してきた人」。先に言われちゃう。人間のすること、どんなことでも意味のないことってない。(創造入門2)#k2fact196
2018-06-29 12:20:09作業が終わり、外からのチェックを待つ「苦労してきた人」は大きく息を吐いた。ぼくは空を見る。種類のちがう雲、それぞれの奇跡。いいなあ。青のなかにあるということ。浮いているんじゃない。鍵が、はずれる。自分で勝手に。診断、いらない。五万個の部品を用意しろ。(創造入門3)#k2fact196
2018-06-30 11:25:38もちろん、全部を使うわけじゃないが、五万個の部品。遠い山のそのむこうまでの青を抱きしめる。創造。大きいもの、無限のものに、負けることじゃない。もう持ちこたえられそうにない屋根だって、一九六五年に死んだ作家が暑いのに来ていたレインコートをおぼえている。(創造入門4)#k2fact196
2018-07-01 09:59:16「苦労してきた人」はその屋根の心配もした。関係なくないですよ。人の目を見て話さないが、人の心は読む。なんでも出てくるカバンから出した立入禁止の標識テープ。聞いてないけど、アスクルで買ったと言った。昔はなかったもの。そして昔からいくらでもあったもの。(創造入門5)#k2fact196
2018-07-02 07:27:59あったね。ボウルに浮かべた未来。ただ溶けるだけか、爆発か、消え方にここが日本だからどうだということあるだろうか。ひしひし、胸からあわてる。こんなところにそんなものが。そんなところにこんなものが。ベンチで寝ているつもりだったが、乗り物で運ばれていた。(創造入門6)#k2fact196
2018-07-04 08:51:19やまない風。否定的に言う理由にも砂がたまって、京都から持って帰った箱や袋からの虚像、「なんならここで死んでもいい」と甘えること、いまのところはなさそうだ。それよりも洗濯だし、掃除だし、とりあえずの結論に長生きされる。創造。座ってやれとは言われていない。(創造入門7)#k2fact196
2018-07-05 09:27:11ピーンと張っているべきロープがどうしてもゆるむ。負けずぎらいの、窓。ここまでの苦労、どうなるのか。人間ひとりを捕まえられず、光にぬれる虚像の数々。雨の裏口。分け前を欲しがる人たちはいつもいる。いいとも、なんでも持っていきなさいと言った。言っちゃった。(創造入門8)#k2fact196
2018-07-06 09:36:39大雨。死刑執行。余分の麦。ロープからはずれ、粉々になって飛びちるレンガ。目まいからの、五万個の部品。使うのは全部じゃない。そのほんの一部を組み合わせて、人の死に方への、円錐形の感想。わだかまり解いても言えない。さっき大事なものを運んできてくれた人の名前。(創造入門9)#k2fact196
2018-07-07 11:51:55この人は、ぼくを許していない。その目を知ることから創造がはじまる。部品のほとんどがまだ悪魔に負けないほどバカになっていなくても、包み、包みこまれるぼくは完璧なまぬけだ。空を飛ばない。飛べないだけ。悩み多いときは食べなくていいのに食べすぎてばかりいる。(創造入門10)#k2fact196
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