鈴奈庵を巡る騒動が一段落し、久々に佐渡への帰郷を決意した佐渡の貉団三郎こと二ッ岩マミゾウ。戻ってきた二ッ岩大明神の社殿は以前よりも遙かに荒れていた。 神霊はその社を門扉とし、幻想と現実を行き来できる。しかし現世における我が社の荒廃ぶりにはさしもの二ッ岩狢も頭を痛めていた。
2018-07-20 22:52:02このままではいずれ現世との行き来はかなわなくなる。千年来の旧友である鵺に請われて幻想郷に足がかりを作りはや七年。すっかり結界の向こうのの楽園に馴染み、居心地の良さを感じるマミゾウであるが、さりとて長年の故郷である佐渡の地をきっぱりと捨て、本格的に忘却を受け入れるのはためらわれた。
2018-07-20 22:54:29だが、改めて目にすると気が重くなるのはこの荒れよう寂れようである。屋根は崩れ瓦は落ち、住み着いた雀蜂が群れなして飛ぶ。思えば数年前の籠堂の焼失から、信徒の参拝の足は遠のいていた。最近は例祭もあまり行われず、別棟も朽ち果てすっかり自然の中に埋もれつつある。
2018-07-20 22:56:46二ッ岩の復旧と再建は急務であった。佐渡にはマミゾウ配下の四天王を筆頭に数多の化け狢が集うが、こればかりはいかな千変万化の化け狢とてどうにかできるものではない。神霊を祀る社殿というものは人間の畏れと信仰に基づく象徴である。狢が自分で建てた社殿には人間たちの信仰は詰まっていないのだ。
2018-07-20 22:59:13むろん、その気になれば絢爛豪華な大伽藍を相川に築くはたやすい。事実、マミゾウとその妻子らが暮らす狸穴の御殿はそうして作られたものだ。だが天地を化かすその秘術をもって人間たちを恐れさせたとて。それは所詮虚飾の栄華。人をさんざんに化かし誑かしたマミゾウは、その脆さを良く熟知していた。
2018-07-20 23:02:07かくて二ッ岩の親分は、久々に再会した妻たちと大きく背の伸びた仔狸豆狸たちに囲まれながら、相川の狸穴の座敷にて難しい顔をし、すまーとほんから世相を記すタイムラインを眺めていた。しばらく留守にしていた間に現世の世情は大きく移り変わり、相場に金融にと大きく揺れ動いている。
2018-07-20 23:03:59せわしく流れる時事を読み流し、人間たちの営みが相も変わらず忙しく騒々しいのを読み返していた中、ふとマミゾウの手が止まる。小さな、しかし切実な訴えをもって掲載されたそのニュースには、百ほどのお気に入りと拡散が付けられてネットの海を流れていた。
2018-07-20 23:05:45四国徳島、小松島にて金長神社存続の危機―― 狸の精緻たる徳島で、地元に愛し愛された押しも押されもせぬ大親分、金長狸の危機を知らせるその一報に、マミゾウは思わず天を仰ぎつぶやいた。どこもかしこも世知辛い。これれも時流かとつい弱音までもが漏れる。
2018-07-20 23:07:52だがしかし、それもわずかなことであった。しばし瞑目していたマミゾウ、やおら両目を開けばすっくとその場に立ち上がり、妻のおろくの名を呼んだ。膝の上から転げ落ちる丸い子狸たちがぱちくりと目を瞬かせる中、佐渡の二ッ岩狢は四天王に即座の伝令を飛ばしぽんと宙を跳ねて一転、旅支度に身を包む。
2018-07-20 23:10:55同朋にして恩人たる名狢のため、また自らの信仰のため、この国の狸の信仰を守るため、二ッ岩マミゾウは再度の現世行脚へと向かうことを決意したのであった。
2018-07-20 23:11:31前作で「人間なんてすぐに狸のことなぞ忘れるが、それで良いんじゃ」で終わらせたのに、今回は明らかに現実に影響を与えるように行動しないといけないマミゾウさんの明日はどっちだ。
2018-07-20 23:20:19以下はネタ出しのまとめです。
本陣狸大明神は父は四国八百八狸総帥の隠神刑部、妻は証城寺の狸ばやしで知られる証和大明神の娘・かずさ御前という超エリート。いささか盛り過ぎな感はありますが、娘の真狸(まり)は四国松山のお袖狸と金平狸の息子、狸平の元に嫁ぐなど、狸界の交流に一役かっております。 twitter.com/domioriha/stat…
2018-11-22 21:40:03ちなみに2013年、狸小路設立140周年を記念して真狸と狸平の間には双子が生まれ、兄は狸輝(りき)妹は結狸(ゆり)と名付けられ、それぞれ札幌と松山で発表。大変めでたいニュースとなりました。tanukikoji.or.jp/news/201308/21… m-machinaka.com/images/13'11.3…
2018-11-22 21:45:01時期的に二ッ岩狢化逆門でマミゾウさんが佐渡に帰ってた頃の話なんですが、書いていた当時のことをまったく知らず最近になって知って驚きました。金平狸とお袖狸、なんとなく仲の良いイメージはあったんですが実際にこうなるとなかなか面白い。
2018-11-22 21:47:16「二ッ岩狢化逆門 二調目」 - Togetter togetter.com/li/1248776 @togetter_jpさんから 二ッ岩大明神の再建と金長大明神の移転・存続問題に悩み再び現世に戻って双六行脚をするマミゾウさんの話、やるとしたらあれからの状況の変化が問題なんだけど、
2018-11-22 21:51:54前シリーズで触れてなかったところというと、この金平狸とお袖の息子の狸平と(二人の間に子供がいる説すら紹介してなかった)、そこにお嫁に来た本陣狸大明神の娘の真狸、そこに生まれたばかりの双子。 それと狸かどうかちょっと怪しいと言うことで完全スルーしてしまった岡山魔法神社の魔法様。
2018-11-22 21:53:35創作方面だと朱子すず先生の「狐狸の花盗り」で鶴姫の生まれ変わりを守って大活躍している喜左衛門狸。(こっちでは小女郎狸が屋島の太三郎の妹としてかなりピックアップされている)
2018-11-22 21:56:13ストーリーの中核はやはり頼母子講をやっていた淡路の芝右衛門からクラウドファンディングについて示すというのが無難なところではあろうか。 あと今回のマミゾウさんのお供は鞄に潜り込んでついてきた響子ちゃんにしたい。忘れられ失われたヤマビコが幻想郷でなにを得たかは大事。
2018-11-22 21:57:59