[R-18]魔女シリーズ9~ヘドロめいたババアがかわいい少女に惚れるが悲恋で終わる百合・終編

泥婆(どろばばあ)こと青海嘯ヘドローバと 見習いのドゥドゥすなわち飾の魔女ドゥニドゥニエンヌの物語 ほかのお話は以下 魔女シリーズ一覧 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

少女はようやく話を飲み込んだ。 「ちょ、ちょっと待つだ!おらのことだか?おらを…こいつらに渡すつもりだか?」 「済まぬ。ヘドローバ様は怒り狂うであろうが、これもあのお方のためだ…あのお方の命を救いたいと思うなら、受け入れよ」 「な、なに言ってるだ…」

2018-08-19 14:47:45
帽子男 @alkali_acid

見習い魔女は蛮鰭の男の腕をはらいのけようとしてできず、痛みにうめき、唇を噛んだ。 「おめ、よく考えれ!こいつら、ヘドローバ様が戦う相手だべ?賢いヘドローバ様が戦うしかないと決めたなら!そういう連中だべ?取引なんかできっこね!」 「ヘドローバ様の智謀は…お前より身に沁みておる」

2018-08-19 14:50:28
帽子男 @alkali_acid

瞬膜を閉じたダゴはうめくように話した。 「だが魔女は…魔女だけは…あのお方を惑わせる…あの日…あの魔女も…深きものを拒み…ヘドローバ様のただれた腕の中へ…今はその話をしている時ではない。神仙。取引に応じるか、応じぬのか」

2018-08-19 14:53:02
帽子男 @alkali_acid

神仙はうなずいた。 “魔女はもらっておこう。だが海霊の異常個体は危険だ。我々が遭遇したなかで、最も危険な存在だ。あれほどの脅威は放置できない” 「そうか」 魚人が隠し持っていた吹き矢を放とうとしたせつな、水中から紫の雷霆がほとばしる。避けるまもなかった。

2018-08-19 14:56:04
帽子男 @alkali_acid

「やんだ!」 髪の毛を逆立たせたドゥドゥが叫ぶ。波が盾となって霹靂を阻み、ダゴを守った。 喉の鰓をふくらせて魚人が合図すると、波の下に潜む同族が一斉に動き出した。

2018-08-19 14:57:56
帽子男 @alkali_acid

神仙の乗物から発する電撃や、人魚のような兵士と深きものは激しく戦った。 ドゥドゥは双眸を見開いたまま、硬直し、ダゴに抱きかかえられて海にもぐる。 「…お前を売ろうとした私を救うとは」 「ヘドローバ様の…けらいは…おらが守るだ…だって…おら…ヘドローバ様の…お嫁に…なるだもの…」

2018-08-19 14:59:53
帽子男 @alkali_acid

ダゴはまた瞬膜をおろした。 「…私は…お許しを青海嘯…」 だが深きものの数は少なかった。しかも多くは手負いだった。 神仙はしずかにすべてを見守り、ややあって小さな紫の銛を受け取ると、深く深く逃れようとしている存在を感じ取り、雷で射抜いた。水の魔女の未熟な防壁ごと。

2018-08-19 15:01:59
帽子男 @alkali_acid

「こやつら…すでに監視役の海霊と戦ったあとのようです」 “仲間割れか。食用人種と労役人種が殺し合う。無益だな” 神鋼の人魚が二体、ずぶ濡れの少女を左右から掴んで上がって来る。 “未熟な個体だ” 「…離すだ!さもねえと、おめ達!ヘドローバ様にきっついおしおきされるだ!」

2018-08-19 15:03:56
帽子男 @alkali_acid

“未熟な個体ほど、家畜としての馴致はたやすい。仙境に連れ戻ったらすぐに繁殖小屋に…捕えたばかりの東方の大型種とかけあわせてみよう” 「体格が合いません。死の危険があります」 “すでに海霊と結びついている。治癒の速さと頑強さは高まっている。順応する。ほかの魔女でも確かめている”

2018-08-19 15:09:45
帽子男 @alkali_acid

「はなせ!はなすだ!ヘドローバ様が」 “お前が絆を結んだ海霊の異常個体はまもなく駆除する…鎮静するようにあとで証(あかし)も見せよう。早く雌としての役割を受け入れるがよい。家畜の苦しみが長引くのは牧場主として本意ではない”

2018-08-19 15:11:38
帽子男 @alkali_acid

返事の代わりに水の弾丸が海から次々の浮かんだが、神仙のはなった電撃が幼い雌の家畜の意識を失わせるとすぐに崩れて没した。 “これで…資源たる魔女はそろった…空舟のくわだては完成する…おおいなる星々への道が開かれる…秘密を…真理を究める旅がいよいよ始まるのだ”

2018-08-19 15:14:23
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 巨大な水母の怪物が、空舟にとりつき、かしがせていた。瀕死の状態だがなお、金属の殻に吸盤でしがみつき、寄生している蝦蛄(しゃこ)を送って、装甲に穴を穿っていた。 “なぜ死なぬ” “分からぬ。すでに中枢は破壊し尽くした” 管制をつとめる神仙は外の映像をにらんだ。

2018-08-19 15:16:51
帽子男 @alkali_acid

「魔女は災いの種…滅びの因(もと)…ならば魔女を駆り集める汝等神仙も…朽ち果てねばおかしいわえ…」 爛れた溶け崩れた媼が笑う。全身に猛毒を帯びた海底の泥濘を吸い込み、膨れあった相貌は、感情の多くを失った天の民ですら直視できぬほど醜かった。畏ろしかった。

2018-08-19 15:19:03
帽子男 @alkali_acid

老婆の姿にかえったヘドローバは、今や血のかわりに流れるへどろを空舟の内部に流し込んだ。神仙は方術とからくりをもって遮断をこころみたが、ただ膨大な質量を前には無為に終わった。

2018-08-19 15:20:43
帽子男 @alkali_acid

「…ドゥドゥ…どうか…無事で…すこやかに…幸せに暮らしや…」 吸盤をしがみつかせる力がゆるみ、媼は天かける船からはがれおちると、生まれ故郷たるうなばらに堕ちていった。

2018-08-19 15:22:24
帽子男 @alkali_acid

空舟はよろめき、穴だらけの外殻から毒液を噴き戻しながら、本来あった大気と真空の境(さかい)、仙境の巡る虚空の軌道へ戻ろうとあがいたが、果たせず、じぐざぐに降下していった。

2018-08-19 15:24:01
帽子男 @alkali_acid

かくして貝の都は滅び、覇者たる青海嘯を失って、わだつみの五十七州の同盟は散じた。 もはや陸にも海にも、神仙に対するものはないかのようだった。

2018-08-19 15:25:33
帽子男 @alkali_acid

だが神仙の栄華の時代も過ぎ去ろうとしていた。 森の王ムンザがいまわの際にはなった地津波は常人の町々、村々を寸断し、木々はもはや神鋼の斧を入れるのを許さなかった。 海霊ははてなき大洋にひそみ、従う諸族に匿われ、もはや家畜としてとらわれることはなかった。

2018-08-19 15:27:36
帽子男 @alkali_acid

仙境は求めていた魔女をそろえ、牧場につなぎ、すべてが従順な雌の家畜となるまで丹念に飼いならしたものの、尽きせぬ地水火風の力を生かすべき空舟は内部に深い傷を負い、飛び立つことができなくなった。

2018-08-19 15:30:28
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ “何かが足りぬのだ…” 三日三晩の切れ目のない苦痛と快楽の奔流に、痙攣するばかりになった浅黒い少女を見下ろしながら、神仙は悩みを吐露していた。 “やはり…外側から知ろうとするだけでは…足りぬ。神仙そのものが、魔女や、樹精や…家畜を内側から知らねば…”

2018-08-19 15:34:37
帽子男 @alkali_acid

“いちどは失敗に終わった…だがもういちど…あるいは失敗の結果を生かす方策を…” 盤を操作し、柵を開いて、丹薬で発情した新たな雄を招き入れながら、神仙はつぶやく。

2018-08-19 15:36:37
帽子男 @alkali_acid

常人の二倍はありそうな筋骨たくましい有角の種族が、未熟な肢体を掴み上げて貫き、まるで腰から生えた凶器を収める肉の鞘のように扱って、勝ち誇った咆哮を発する。 神仙はさして望みもなげに百何度目かになる交配の試しを眺めてから考える。 “これではない。やはり神仙と魔女の仔を作らねばならぬ”

2018-08-19 15:39:52
帽子男 @alkali_acid

熟慮にふける牧場主をよそに、家畜となった少女のうつろなまなざしは、もう悲恋に終わった海の日々を思い出すこともないかのように、繁殖部屋の壁をなぞっていた。

2018-08-19 15:41:26
まとめ 魔女シリーズ一覧 魔女と妖怪変化の恋物語。スケベなやつです。 4100 pv 31
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