俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫誕生日SS
- kyoichi562
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「黒猫。そういえば今日、お前の誕生日だったよな?」 そのことを思い出したのは、4月20日の放課後。 俺のベッドの上で、俺の枕を抱きながらちょこんと体育座りをしている黒猫と話している時だった。
2011-04-20 23:57:01「……なぜ兄さんが私の誕生日を知っているの?」 「なぜって。前にお前が見せてくれた学生証に書いてあっただろ?」 黒猫が本名を教えてくれた時に見せた学生証。 あの時は本名に気を取られていたけど、友達の誕生日は結構重要な情報だろ? まぁ、思い出したのは、たった今なんだけどな。
2011-04-20 23:57:26「クっ……私としたことが油断していたわ」 悔しいのか、俺の枕に口元を押し付ける黒猫。 悔しいのはわかった。わかったけど黒猫さん。 それやられると、匂いとか何か移っちゃって後で俺が大変なんですよ……。
2011-04-20 23:57:52「それで……兄さん?」 「……なんだよ?」 黒猫の声に、ぞっとして意識を戻す。 枕から歪めた口元を覗かせる黒猫の表情を見ると、嫌な予感しかしねぇ。 なんつうか、今油断していたしっぺ返しを喰らう予感が――
2011-04-20 23:58:09「私の誕生日を知っていた、ということは当然、プレゼントを用意しているのよね?」 ま、まさに薮蛇……誕生日だって不用意に口にしなければ来ない要求がktkr て、別に嬉しくはないけどな!
2011-04-20 23:58:21だが、そんな俺の心境が斟酌されるはずもなく、黒猫の催促の眼差しは変わらない。 ど、どうする俺!? 気分は某ライフカードのCMの主人公。 つうか、俺が切れる一番冴えたカードって―― 「すまん! 何も用意してねぇ!!」 土下座。これしかねぇよ……。
2011-04-20 23:59:41「ふん……別に、あなたにそんな甲斐性があるなんて、最初から思っていないわよ」 「……り、リアルに傷つくお許しをありがとうございます」 平身低頭。というより土下座して後輩に許しを請う先輩。 涙が出る構図だな。 でも、一応お許しは出たんだよな――
2011-04-20 23:59:57だけど、違ったんだよ。 許しが出たと思って顔を上げた俺の目と黒猫の目が合った。 どっか悲しそうな、残念そうな、子どもみたいな瞳とさ。 ――クソッ! 後輩泣かせる先輩が、居ていいわけねぇだろ!
2011-04-21 00:00:27だけど、黒猫も好きかどうかは、正直微妙だよな……。 でもよ。今さら晒す恥もないんだ。 なら、ハッキリ聞いた方がいいじゃねぇか。 俺は覚悟を決めて、口を開いた。
2011-04-21 00:00:46「黒猫。そういえば今日、お前の誕生日だったよな?」 嬉しかった。それ以外の言葉も、それ以上の言葉もない。 いえ、きっとあるはずなのだけれど。 今の私に、そんなことを考える余裕があるはずもない。
2011-04-21 00:03:47「なぜって。前にお前が見せてくれた学生証に書いてあっただろ?」 刹那の瞬間しか見せなかった学生証。 だと言うのに、兄さんは私の誕生日を記憶してくれていた。 その事実が、少しずつ、私の心を侵食する。
2011-04-21 00:04:08えぇ、頬が緩んでしまうのはそのせいよ。 兄さんの枕を顔に押し当てるのは、それを隠すため。 だって、こんな顔。人間風情に見せるわけにはいかないもの。 そう……兄さんに、見せられるはずがないじゃない。
2011-04-21 00:04:30だけど、いつまでも隠れてはいらない。 私は誇りに満ち溢れた闇の女王。 人間風情に遅れを取る謂れはないわ。 「それで……兄さん?」 強大な闇の魔力を言葉に込めて、私は口にする。
2011-04-21 00:04:54「私の誕生日を知っていた、ということは当然、プレゼントを用意しているのよね?」 魔力によって、時が止まったように部屋は静寂に包まれる。 それなのに、心音は止まらない。早鐘を打つように鼓動する私の心臓。 まるで、彼の言葉を一日千秋の思いで待つ私の心と呼応していて――
2011-04-21 00:07:50「すまん! 何も用意してねぇ!!」 だから、私はその言葉を、すぐ、受け入れることが、出来なくて。 でき、なくて。 嘘。いいえ、嘘じゃない。 兄さんは、私を困らせる嘘なんて、つかない……もの。 土下座までして、嘘をつく人じゃ、ない、もの。
2011-04-21 00:08:15闇の眷属たる私は、この世に遍く全てを支配し得る。 その私に、プレゼントの一つも寄越さないその愚かさを、どう矯正してあげようかしら。 魔力と怨嗟を込め、私は恐るべき呪いを口にせんとして―― 「ふん……別に、あなたにそんな甲斐性があるなんて、最初から思っていないわよ」
2011-04-21 00:08:57口をついて出たのは、心にもない空虚な言葉。 呪いには程遠く、本心とは真逆の言葉。 なんの、意味も、ない。 そんな言葉を、私は口にしていた。 ただ、この気持ちをなかったことにして欲しい。 そう、願ったというのに――
2011-04-21 00:09:18彼の、兄さんの瞳を見てしまう。 あらゆる真実を見通し得る赫眼を、今の私は持たない。 五更瑠璃の形で、兄さんのベッドの上に座る私は、ただただ兄さんを見返してしまう。 不安に押しつぶされないために、兄さんの枕をギュッと抱きしめるしか出来なくて――
2011-04-21 00:09:32「あ、あなた……何を言っているのよ!?」 突然の言葉に、私は我を忘れて兄さんに枕を投げつける。 ばふっ! 兄さんは顔面で枕を受け止めた。 に、人間風情が何を……いえ、この雄は何を言っているの? まさか、私の心を見透かしたとでも言うの?
2011-04-21 00:10:11