140ssログ4月~8月

石かり、薬宗、髭膝ログ
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やまたに @mw_snc

いつも通りに名を忘れると、いつも通りに膝丸だと返ってくる。それがすごく大切だと、弟は知らない。何度、その名を呼んだのか。膝丸、蜘蛛切、吠丸と、声が嗄れるほど叫んだか。薄緑でもなんでもいい。戻っておいで。やがて、千年過ぎるまで。だから、まだ。ええと、なんだっけ。膝丸だ、兄者。(髭膝)

2018-05-03 10:44:44

キスの日

七夕

やまたに @mw_snc

お願い事はなにかな、そう短冊でもないくせに聞いてくる大太刀へ、青江はもうお願いしたから、と口にした。私には教えてくれないのかな。寂しそうな声音につい甘やかしたくなるけれど。秘密、だねぇ。意味深に笑うだけにする。願い事は、君といる時間が増えること、なんて言えやしない。(石かり)

2018-07-07 07:14:49
やまたに @mw_snc

石切丸は笹の高い場所へ短冊をくくりつける。落ちないように慎重に、太い指で紐を結ぶ。あの子に見られては幻滅されない場所へ。彼が健勝でありますように。何気ない願いのようで、彼だけに願うのは御神刀として最低で。でも。君は私の特別なんだよ。だから一番上に、こそり。(石かり)

2018-07-07 07:21:07
やまたに @mw_snc

名前を呼んで欲しい。匿名での願い事は、字癖もあってわかりやすい。さて、と髭切は短冊を手に取った。弟の結び目に絡ませるように繋ぐ。そして。おーい、弟。いつも通りに呼び掛けた。泣きそうな顔のあの子はいつ気付くだろうか。膝丸、と紙いっぱいに大きく書いたその短冊に。(髭膝)

2018-07-07 07:34:31
やまたに @mw_snc

膝丸、と呼ばれる。膝丸、膝丸。嬉しいはずのそれがなんだか怖いのは、何故だろうか。可愛い膝丸。好きだよ膝丸。大盤振る舞いに混乱して、じわりと目尻に水滴が浮かんだ。いや、泣いてはないが。膝丸、僕の。熱っされたような声が願うことがそれならば。兄者の、俺だ。涙の代わりに星が流れた。(髭膝)

2018-07-07 17:31:50
やまたに @mw_snc

藤色の短冊を選んで、宗三は筆を走らせる。願い事なんて、絶対叶わないことか些細なことしか浮かばないのだけれど。だから、と背後から臨き込む短刀に見えるようにそれを書いた。夏物の掛け布団では心許ない夜を暖かく過ごせますように。背中から回る腕は、暖かいのだ。(薬宗)

2018-07-07 22:43:29
やまたに @mw_snc

短冊を薬研は主へ渡す。にっといい笑顔で。よろしくな、と愛嬌を振りまいて。馬鹿ですねぇ、と宗三は呆れる。その体を押し倒した先の畳は新品で。柱も、壁も、真新しくて。兄弟とは別の自室が欲しいって願っただけだぜ。一振りで離れは広すぎますよ。そういうことだ、とやはり薬研は笑う。(薬宗)

2018-07-07 22:51:03

夏の夜の石かり2つ

やまたに @mw_snc

(石かり)怖い話をして。涼を求めた短刀にそう言われて、青江はそうだね、と考える。つい昨日起きた、怖い話をしてあげよう。→

2018-07-18 20:21:39
やまたに @mw_snc

先日ね、歌仙くんに浴衣を貰ったんだ。紺地に上品な花柄の。ああ、花なんて僕のガラじゃないとは思ったけれど、歌仙くんだしね。有り難くその日の湯上がりに着させてもらった。何の花だったかな。頭を垂れた、幽霊みたいな白い花だ。→

2018-07-18 20:23:05
やまたに @mw_snc

で、部屋へ戻るために外廊下を歩いてたんだ。すれ違った蜂須賀くんが暑そうだよと簪をくれた。ついでに結い上げてもらってね。そこで首筋がすっと冷えたのは、果たして風が通るようになったからだけなのかな。→

2018-07-18 20:23:24
やまたに @mw_snc

ああ、そうそう。今日は石鹸を忘れたんだ。それで、宗三くんから甘い香りの石鹸を借りてね。そう、彼、悩ましげな香りだろう。僕も昨晩はお揃いだったんだよ。→

2018-07-18 20:23:53
やまたに @mw_snc

話を戻すね。廊下を曲がるとき、なにか嫌な予感がしたんだ。後ろからだ。でも、本丸には悪い物は入らない。だから、鶴丸さんでも脅かしてくるのかな、と身構えた。まぁ、彼には悪いことをしてしまったね。誤解だった。とん、と背中を叩いてきたのは数珠丸さんだった。→

2018-07-18 20:24:17
やまたに @mw_snc

いや、まさか彼を悪い気配と思うなんてね。驚いたけれど、暑さに疲れたかなと思って軽く会話して別れたよ。ああ、庭の蛍が綺麗だってね。そのくらいの些細な話だ。→

2018-07-18 20:24:49
やまたに @mw_snc

蛍の話をされたから、僕は見てみようと廊下を曲がらず真っ直ぐ進んだ。どちらにしろ慣れた本丸だし、自室とは違うけれど慣れた道でもあったからね。そう、よく慣れた道のはずだった。だから、疲れもあって気を抜いてたんだろう。後ろからぬっと忍び寄る手に、本当なら僕が気付かないはずがないのに。→

2018-07-18 20:25:37
やまたに @mw_snc

そして、その手は僕の腕を掴んで、どこかへ引きずり込んだ。真っ暗な場所だ。獣のような息遣いだけが響く暗闇だ。僕は焦ったよ。幽霊切りの刀が情けないことだけれど、暴れても暴れても引きはがせなくてね。そして、獣は僕の首筋に噛みつく。ゆっくりと、しっかりと。ひ、と喉の奥で声が鳴った。→

2018-07-18 20:28:18
やまたに @mw_snc

ふふ、ごめんね。そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。僕は無事さ。だって、そのケダモノの正体は、そこで反省している大太刀のことだから。おや、正体がわかると全然怖くないかい。ああ、君たちはそうだろうね。うん、お話は僕の怖い話だよ。石切丸のことじゃない。→

2018-07-18 20:31:11
やまたに @mw_snc

そう、あの風呂から全て、まるでかの注文の多い料理店のようだったと気付いたんだ。そして僕は見事腹の中ってわけさ。さあ、これで話はおしまい。乱くん、僕の石鹸を今日は返してくれるかな。(fin)

2018-07-18 20:31:57
やまたに @mw_snc

この感情は、綺麗過ぎて。青江は大太刀の姿を思い出す。きらきらと眩しい、正の方向にしか動かぬ刀だ。そこに、どうしようもなく惹かれたのが自分で。この綺麗な感情を、人間は恋と呼ぶのだとわかって。ああ、僕は武器なのに。どうして、こんな綺麗な心を持ってしまったのだろう。(石かり)

2018-08-03 14:04:09
やまたに @mw_snc

夏が始まる。僕の出番だね、と青江は笑った。ついでに、化け物切りの兄弟刀も協力してくれるらしい。天井裏の手足を切って、縁の下の目を潰して、門の前の黒い影にはお引き取りいただいた。池には神酒を流して、南泉の背中は撫でるだけにとどめておく。次はどこにしよう。青江は本丸を走る。

2018-08-14 22:12:05
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