日向倶楽部世界旅行編第62話「ノーブレーキ・ガール」

予選大会と決勝大会の合間、互いに都合の良い時間を見つけた武蔵と初霜は、密かに情報を交換する。深海棲艦の謎を巡り、二人は互いの腹を探り合う。
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三隈グループ @Mikuma_company

「ああ…恐らく居るだろう。潜んで暮らして居る為か、私もまだ出会ってはいないがな。」 その答えが返って来ると、初霜はニヤケながら、心底楽しそうに訊ねる。 「ねえねえ、もしそれを見つけたら…良いのよね?」 人間に殺人をして良いかと聞くような質問、だが武蔵は、肩を竦めて笑った。

2018-09-05 22:34:04
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「勝手にすれば良い。まあどうせなら研究資料として連れて来るか、身の上話をきちんと聞いて来るか…最低限"石"は手に入れて欲しいがね。」 同族を庇う気などさらさらなく、むしろ注文をつける武蔵。初霜はそれを聞くと、小さく頷いた。 「ふぅん…石…そうね、なるべく考えておくわ。」

2018-09-05 22:35:59
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彼女は何かを察すると、受け入れた様な返事をした。 「…最も、人間に擬態しているとなると一定以上の力や知恵はあるだろう、返り討ちに遭わぬ様にな。」 「うふっ…そのくらい強い方が、きっと気持ち良いわ。」 武蔵の忠告に初霜はますます身体を昂らせ、赤い顔に恍惚を浮かべる

2018-09-05 22:37:24
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そして彼女は、常人には理解出来ぬ情欲に身体を熱らせたまま、武蔵のいる応接室を後にした。 やがて応接室から少し離れると、彼女は立ち止まって思索する。 (石…重要なのね、やはり…) 初霜は懐の石を服の上から触る。この石には何かがある…武蔵の言葉端から、初霜はそれを確信していた。

2018-09-05 22:38:46
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だが、その何かが分からない。 (まだ知らない事が多い…情報があいつ頼みな以上、このままじゃ良い様にされておしまい。この石の使い方だけでも、奴より早く辿り着きたいわね…) 最上や日向など、頼りになる仲間達と協力すれば、少しは石について近づけるかもしれない。

2018-09-05 22:40:26
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しかしそれではダメだった、彼女の思惑を遂行するのに、彼等ではあまりに良識的過ぎるのだ。もしこの石に何かあると分かれば、彼等は速やかに破壊したりするだろう。 (情報を知っていて、私に教えたら勝手に消えてくれる奴でもいたら良いんだけど…今は機を伺うしかないわね)

2018-09-05 22:42:28
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下手な動きでバレては困る、慎重に動かなければならない。少なくとも今は、自身の安全と信用は保証されているのだ、動かなければ不都合が起きる事はない。 (何か使えないか、よく見ておかないとね…) 彼女はひとまず、石の事は置いておく事にした。

2018-09-05 22:44:34
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そして彼女はまたスタスタと歩き出す、廊下は静かで薄暗く、ブルネイの華やかな外の音はほとんど聞こえない。 彼女はそこを、ゆっくり歩く。 (それにしても、人間に化けてのうのうと生きてる深海棲艦…図々しいわね…) 人に化けた深海棲艦の存在に思いを巡らせ、初霜は瞳に苛立ちを浮かべる。

2018-09-05 22:46:01
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だが苛立ちとは裏腹に、口元は広角が釣り上がり、ほんのりと濡れていた。 (でも人間の姿をしてるって事は、命乞いでもしてくれるのかしら?それはそれで、気になるわね…) 彼女は湿ったそこを、涎に濡れた口元をハンカチで拭う。気付けば口元だけでなく、汗で額や脇も濡れていた、身体が熱いのだ。

2018-09-05 22:47:41
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初霜はそれを認識すると足を止め、廊下の壁に、窓からの陽を避けられる陰に、その小さな身体を預けた。 「…誰もいないのよね」 彼女は静けさを確認すると、指先をぺろりと舐め、行儀悪く胸元の開いたワイシャツの中に手を突っ込む。汗にじんわりと濡れた素肌の感触が、唾に濡れた指先を熱くする。

2018-09-05 22:49:24
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細く白い指が、慣れた動きで身体をなぞる。余計に身体は熱を帯び、頭はボーッと火照り出す。その熱は身体を燃やし、欲求に駆られた精神をあらぬ方へと加速させる。 気付けば彼女はもう一つの手を、今最も敏感な場所に伸ばしていた。彼女は熱くなる身体を震わせ、壁に全体重を寄せる。

2018-09-05 22:51:10
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「ふふっ…ふふふっ…」 仇敵である深海棲艦、そこに付随する戦いの記憶…それらは彼女の情欲を掻き立て、かき乱す手を激しく揺する。 癖になっていた。平穏の中でも感じる事が出来るこの最低最悪の行為が、止められない、止めるつもりもない。それは到底理解されぬ、彼女のサガであった。

2018-09-05 22:53:02
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するとふとした拍子、彼女の脳裏に最上や日向など、親しい人達の顔が浮かんだ。とても綺麗で、楽しい思い出が浮かんだ。 それを思い出した瞬間、彼女の内腿を雫が落ちた。 「私、サイテー…ふふっ…」 熱い身体をかき回しながら、初霜は舌舐めずりをして吐息を漏らす。

2018-09-05 22:54:35
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やがて物足りなさを覚えた頃、彼女はふと、すぐそこにトイレがある事に気付いた。 「…時間は、平気よね。」 彼女はスカートで手を拭うと、スマートフォンで最上達にメールを送る。そして彼女は誰もいない女子トイレに、寸分の迷いなく歩いて行った。 〜〜

2018-09-05 22:56:07
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〜〜 応接室に一人残った武蔵は、ソファの背もたれに背中を預け、天井を仰ぐ。 「…ククッ、"人間の顔をした深海棲艦"か」 彼女はそう呟くと、天井から初霜が出て行った扉へと目を移す。 「汝は何になるのだろうな…実に楽しみだ、初霜…」

2018-09-05 22:58:19
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今最も興味を抱いている対象を思い、武蔵は湧き上がる気持ちに目をギラつかせる。人間の世界に順応した頃になって現れた、突飛な異常性を持つ人間、それは彼女にとって最高の出会いであった。 やがて武蔵は、高らかに声を上げる。 「ククッ…最高だ、最高だなァッ!クハハハハハハハッ!」

2018-09-05 23:00:00
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彼女は、気持ちを限りなく吐き出すような笑い声を響かせる。 「最高だ…全くもって素晴らしい…!"生き"ていなければ味わえない、死んでいるような連中には決して手に取れない、これが!」 全身に感情を表し、喜びの言葉を並べる…その姿はまるで、激しい人間であった。

2018-09-05 23:01:46
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「楽しみだ…ほんとうに楽しみだ…!これだけのものが用意されてるなど、人間はズルい生き物だよ…ククッ…ククククッ…!」 一人の応接室で、武蔵はしばらくの間笑い続けていた。 〜〜

2018-09-05 23:02:51
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〜〜 そんなこんなで時は経ち、決勝トーナメント開始前日。 「いよいよ明日からでありますな…」 小さなカフェの中、あきつ丸は真剣な表情でスマートフォンを見る。自分は既に敗退したが、身内や自分より強い相手がどうなるのか、行く末はとても気になった。

2018-09-05 23:03:44
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「何処が勝つかねェ、みんなつえーんだよな」 その向かい側で、鈴谷は砂糖をドバドバ入れたコーヒーを飲んでボヤく。決勝トーナメント進出チームの大半は、予選リーグで圧倒的な成績を残している。加えて秘策を未だ残している可能性を考慮すると、勝敗はやってみないと分からない状態だった。

2018-09-05 23:04:57
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予選とは違い、ここからはどちらかが全滅するか降参するまで行われる真剣勝負…これから始まる決勝トーナメントは、観客達にとってとても見応えがあるのだ。 「最上殿と日向殿は、決勝までは当たらないのでありますな」 「だね、トーナメントがそう出来てる。」 そうなのだ。

2018-09-05 23:06:19
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「何にせよ、明日から楽しみだな。」 鈴谷はそう言うと、砂糖の沈殿したコーヒーを飲み干す。あきつ丸も同じく、オレンジジュースをくぴくぴと飲む。 「三隈殿が用意してくれた特別席、どんな所なのでありましょうか…」 「料理とか出たり?そういう世界は分かんねえな…」

2018-09-05 23:07:29
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決勝トーナメントが近付く、果たして優勝は誰の手に…。 第62話 「ノーブレーキ・ガール」 おしまい

2018-09-05 23:08:31
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【武蔵】 ブルネイ泊地の英雄かつ、人に擬態した深海棲艦。相変わらずブルネイでは慕われており、豪快な性格を表に出し、人間に混じって生活している。現在は初霜と密約を結び、深海棲艦の正体を探っている。 回りくどい物言いで初霜を度々はぐらかすが、単に喋りが下手な可能性がある。

2018-09-05 23:09:38
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【初霜】 深海棲艦に両親を奪われた少女。 相変わらず表向きは天真爛漫な少女だが、武蔵との出会い以降、隠している異常性はどんどんと加速している。深海棲艦を倒す事は彼女にとって復讐であったのだが、今ではそれが本当に復讐の為なのか、最早怪しくなっている。

2018-09-05 23:10:38