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拾ったショタが成長して美青年になるのを日々夢見ながら暮らしてた魔女、ショタが男性フェロモンムンムンガチムチマスキュリンに成長してこんなはずじゃなかった嘆く系のお話
2018-09-07 22:45:35「坊やどうしたの」 魔女は尋ねました。 「おなかがへった」 子供は答えました。 「かわいそうに」 魔女はマントから鳥籠を出して、子供を入れて持ち帰りました。
2018-09-07 22:48:49「さあたんとお食べ」 魔女は子供に沢山のごはんをあげました。 ルバーブのパイとか、リンゴのタルトとか。マッシュルームのポタージュとかです。
2018-09-07 22:49:50「おばさんありがとう」 「おねえさん」 「おねえさんありがとう」 「いいの。さあベッドでおやすみなさい」 「ぼくもういかないと」 「おやすみなさい」
2018-09-07 22:51:11子供はやわらかい布団で眠りました。 魔女はそばで子守歌を歌ってくれました。そのあいだ皿は自然に洗われ、台所は掃除され、家じゅうはぴかぴかになっていきます。どうってことはありません。妖術です。
2018-09-07 22:52:35子供が夜明け頃に眼を覚ますと、魔女はもういませんでした。 どこか散歩に行ったのでしょうか。 子供はそっと寝台を抜け出すと、丸い緑の扉を抜けて外へ出ました。 てくてくと歩いていくと、やがて日の出前の風がざわっとそよぐ原っぱに出ます。
2018-09-07 22:54:53地平線のほうがかすかに燃えて、原っぱに立ついくつもの像を浮かび上がらせます。 雄狼。雄鹿。雄猪。雄山猫。雄鷲。雄牛。雄山羊。 「立派でしょう」 気付くと魔女が子供のそばに立っています。
2018-09-07 22:57:22「これはなに?」 「魔法で時を凍てつかせた私の宝物」 「たからもの?」 「そう…皆とても美しい毛並み、羽振り、角振りをしているでしょう」 「うん」 「森で野で山で一番きれいな雄を、捕まえてあるの」 子供はぽかんと口を開けました。
2018-09-07 22:59:16「あなたも美しい雄に育つといい…きっとなる…そんな気がするの」 「でもぼく」 「なあに?」 「ええと…」 「いやかしら?痛くも苦しくもないのだけど。何も感じないし。ずっと眠っているようなもの」
2018-09-07 23:00:28子供は考え込みました。 「でもぼく」 「なあに?」 「ちゃんとおおきくなれるかな」 「なれると思う。私がたくさんおいしいものを食べさせてあげる」 「おいしいもの…!」 魔女の誘惑に、獲物はたやすく屈してしまいました。
2018-09-07 23:02:05子供は毎日、アオスイカズラの実の砂糖漬けだとか、カエデの蜜に漬けたパイだとか、アオマメとハーブの揚げ物だとか、そのほかもろもろのご馳走をもらい、夜は魔女の膝の上で絵本を読んでもらったりして過ごしました。
2018-09-07 23:04:38魔女は子供の亜麻色の髪をくしけずってやりながら、うれしげに言います。 「あなたの鳶色の瞳と亜麻色の髪はきっとすばらしくあの草原に映えるでしょうね。狼のそばにおこうかしら、雄羊のそばにおこうかしら」 「でもぼく」 「なあに?」 「ちゃんとおおきくなれるかな」 「だいじょうぶ」
2018-09-07 23:06:25子供はちっとも大きくなりません。いつまでも幼げな姿のままなのです。 もちろんお荷物ということではないのですが。しなくていいというのに、妖術でやれば一分で済むようなお掃除や片付け、庭の草むしり薪ひろい、煙突の掃除までやろうとし、はじめは失敗しますがすぐこつをつかみます。
2018-09-07 23:09:32「そんなに下働きをがんばるより。大きくなってくれた方が嬉しいんだけど」 「やっぱりぼく」 「あ、気にしないで頂戴。気持ちはありがたいの。でもどうして大きくならないのかしら」 「あの…」 「ま、そのうち何とかなるでしょ。ほら、おやつにしましょう」
2018-09-07 23:10:41子供はそのあとも、魔女の肩やふくらはぎを揉んだり、髪をくしけずったり、着替えを手伝ったり。 「あなたって何でもできるのね」 「ううん」 「できないことあるの」 「じはよめない」 「そうなの。読んでみる?」 「おこられる」 「怒らない怒らない」
2018-09-07 23:12:44子供は字の覚えは悪かった。算数もあんまりちゃんとやれない。 「まあいいの。あなたは美しくほっそりした男に育ってくれれば」 「でもぼく」 「なあに?」 「…できるかな」 「大丈夫」
2018-09-07 23:14:00春が来て、夏が過ぎ、秋が去って、冬が戻り、また繰り返し。 「いくらなんでもおかしいかしら」 「うん」 「どうなってるのかしら」 「ぼくでていったほうがいい?」 「あらいいの。別に困ってはいないんだけど…でも」
2018-09-07 23:16:15魔女は切妻屋根の家の地下におりて、古い本をひっぱりだしてきます。 「あなたは…ひょっとして…魔法がかかっているのかしら」 「…どうしよう…でていったほうがいい?」 子供は不安そうです。 「どうしていつもそんな風に言うの?」 「ぼくがおおきくならないと、みんなこわがるから」
2018-09-07 23:18:02「それはたいへんね…あ、これだ。時を…ふうん。私の妖術と違って、成長だけを止めるのね。どうしてこんなものかけたのかしら」 「わからない」 「親のことはおぼえていない?」 「うん」 「ずっとどうやって生きてきたの」 「いろんなおうちでおてつだいしてきた」 「そうだったの」
2018-09-07 23:20:01魔女は子供の頭をぽんぽんしながら訊ねます。 「一番最初のことを覚えている?」 「うーん…ううん…ちゃんとはおぼえてない」 「思い出せるだけ思い出してみて」 「おおきな…」 「おおきな?」 「て」 「手」 「てにはいってた」 「なにが?」 「ぼく」
2018-09-07 23:21:39「赤ちゃんがどんなに小さくても手には入らないと思うけど」 「…ゆめ、かなあ…」 「ふうん…とりあえず術を解いてみましょうか」 提案する魔女に、子供は不安げです。 「でもぼく」 「なあに?」 「しんじゃったらどうしよう」
2018-09-07 23:22:41子供はうつむきます。 「ぼくずっとながいあいだ、おおきくならなかったでしょ?」 「そうね」 「もう、おじいさんになって、それでしんでるとしだったらどうしよう」 「そうねえ…大丈夫じゃないかしら。死にそうには見えなくてよ」 「そうかなあ…」 「そうそう」
2018-09-07 23:24:25