でっかいオーガのキョンシーが一列になって砂漠をはねてくる話

銭剣好き(お話には出ません)
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まとめ ゴブリンのとりかえっ子が帝国随一の剣豪になりあがる話 別に良い話ではないです。 4042 pv 10

本編

帽子男 @alkali_acid

でっかいオーガのキョンシーが一列になって砂漠をはねてくる話。

2018-09-22 19:09:55
帽子男 @alkali_acid

月の沙漠を、長い影を伸び縮みさせながら、きらめく砂塵を舞い上げて、でっかいオーガのキョンシーが。身の丈は人の二倍ぐらいはあるか。 でかい。とにかくでかい。そして頭にはお札である。 ズッシンズッシン、ドスンドスン。両手を前に突き出し、両足をそろえて、跳ねる。跳ねる。

2018-09-22 19:11:23
帽子男 @alkali_acid

キョンシーを操るのはむろん、霊幻道士。いや女だから道姑である。 肌に切れ長の瞳に臉譜、というのは目元につける赤いくまどりみたいなもんね。黄杉(こうさん)をまとった姿は流麗。 しかし常人ではない。エルフである。東洋のエルフ。黄色い肌のエルフだ。

2018-09-22 19:14:57
帽子男 @alkali_acid

黒い肌のダークエルフや、白い肌のライトエルフはみなさんご存じだろう。 では黄の肌のドーンエルフはどうだろうか。 ドーンエルフの多くは東洋のはて、无屍民国(むしみんこく)に住んでいる。 民国というのは、人民が選んだ代議が治めている国という意味だよ。

2018-09-22 19:18:04
帽子男 @alkali_acid

夜明けの黄、日出るところの黄。それがドーンエルフの膚の色だ。 オーガのキョンシーを引き連れた道姑は、この暁の妖精の一員。民国副総統の第七十七夫人という大変に高い身分だ。そうでもない。

2018-09-22 19:20:25
帽子男 @alkali_acid

「はーやたら広い土地アル…」 語尾はアルだ。西洋で広く使う貿易語に慣れてないからね。 「わざわざ西の果てに来てこんな不毛の野っぱらを探索しなきゃいけないのはしんどいアル…でもウチの旦那様を民国総統にするために、頑張るアル!」

2018-09-22 19:22:32
帽子男 @alkali_acid

道姑の名はツィーツィー。あ、夫帯妻帯オッケーな門派です。

2018-09-22 19:23:40
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「ギヒ、ギヒ、らくだちゃん。ほーら、死人大根の根っこからつくったお砂糖だよー。ギヒヒ、おいしいねえ?おいしいねえ?ギヒヒ」 緑肌の若者が、深紅の毛皮の駱駝に、できのよいとは言えない蔗糖を差し出す。 駄獣は長いまつげをばかにしたようにまたたかせて無視。

2018-09-22 19:25:53
帽子男 @alkali_acid

「ギヒ、おいらを背中にのっけてくれたら、もっとたくさんあげるからねえ…どうかな?ん?ギヒヒ、あんな暴れものの女より、おいらの方がずっと優しくしてやるよぉ?ギヒヒ、おいらをのっけてくれりゃ…」 駱駝はいきなりべろっと舌で小鬼のてのひらをなめて甘味を平らげる。

2018-09-22 19:27:37
帽子男 @alkali_acid

そのままぽこぽことどこかへ行ってしまった。 「ギイイイイ!!ギイイイイ!!この泥棒野郎!よくもおいらが苦労して作った砂糖を!ギイイイ!!!!!!!」 「ふふ。ムスティは女の子でしてよ」 地団駄ふむゴブリンに、後ろから声をかけるものがある。 振り返ると褐色の肌に紅衣をまとう女。

2018-09-22 19:29:34
帽子男 @alkali_acid

「よ、よおルーナ。いや、あのかわいいやろ…女郎におやつをあげたくてな。ギヒヒ。仲良くなりたいのさ。おいら、動物大好き」 「あらそうでしたの?暴れものの女、とか仰っていたのは?」 「ギッ」 「ボルボさんたら、本当に集中すると周りが分からなくなるんですのね」 「ギヒ…ギヒヒ…」

2018-09-22 19:31:20
帽子男 @alkali_acid

クレセント帝国随一の剣豪にして、建国の英雄の子孫、古き闇を屠った聖なる三日月刀を継ぐ無双の使い手ルーナは、鷹揚にほほえんでこそ泥を見下ろす。 「そういえばシルヴィアさんが呼んでいましてよ」 「ギヒ、知ったこっちゃねえ。おいらはあいつの小間使いじゃねえんだ」

2018-09-22 19:33:35
帽子男 @alkali_acid

今は焦土と化したゴブリンタウンの屍漁りボルボはそう毒づいてそっぽを向く。 「でも、行って差し上げた方がよくなくて?」 「ギッ。どうせまた着替えが足りないだの、足に塗り込む油の質をよくしろだの、つまんねえ用事に決まってら。おいらは盗賊で、小間物屋じゃねえ!」

2018-09-22 19:36:10
帽子男 @alkali_acid

褐色の乙女は指をほほにあてた。 「ドラゴニアの竜騎士のご機嫌は損ねない方がよろしくてよ」 「なーにが竜騎士だ!あいつの乗ってたとかげはもうおっ死んだんだ。あとは、なまくらになったやっとうと、役にも立たない銀ぴかのよろいがあるばかりじゃねえか!怖かねえ!ギヒヒ!!」

2018-09-22 19:37:51
帽子男 @alkali_acid

「まあ…ひどいおっしゃりよう。あなたの大切な奥方に」 「ギヒヒ!お断りだ。鼻がつぶれて、図体がでかくて、頭の悪い人間の、それも凶暴なドラゴニア人なんて、なんでおいらの相棒にしなきゃいけねえ。ゴブリンの夫婦ってのは互いを騙しながらよその連中からはもっと掠め取る商売仲間だ」

2018-09-22 19:39:37
帽子男 @alkali_acid

「シルヴィアさんは抜け目のないところもありますでしょう」 「あんな能天気女が多少、頭を回すようになったところでゴブリンにゃなれねえな!ギヒヒ!人間のどっかの王子様とでもくっついて、ほら、あれだ、すえながく幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、ってのだ」

2018-09-22 19:41:09
帽子男 @alkali_acid

「まあ、では私はどうですの?」 「あんたはシルヴィアよりはましだが、やっぱり人間だ。くだらねえ使命だのなんだの、一文にもならねえ…おっといや、ルーナは立派な剣豪さんだ…おいらは尊敬してるぜ。ギヒヒ」 「…そうですの。では、私の剣の腕にかけてお願いするのですけど」

2018-09-22 19:43:19
帽子男 @alkali_acid

聖なる三日月刀の柄をひねり、光の刃をわずかに鞘から閃かせて、クレセント人は命じる。 「さっさとシルヴィアさんのところにおいきなさい」 「ギ…っ、ドラゴニアとクレセントは敵国じゃなかったのかよ。あんたら人間はすーぐ人間同士手を組みやがる。油断ならねえ…ギヒヒ」

2018-09-22 19:45:09
帽子男 @alkali_acid

すたこらさっさと駆けていく小鬼を見送ってから、肩を落とす剣豪。 「前途多難ですわね…シルヴィアさん…あなたも…私も…」 口笛を吹くと駱駝がうれしげに寄って来る。ひらりとまたがった紅衣の姿は、そのまま都の大路を馳せて見回りに出て行った。

2018-09-22 19:46:52
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 銀髪銀眼に骨のように白い肌をしたドラゴニアの元竜騎士、シルヴィアは、逝ける伴侶である天竜プラティムの屍に寄り添って、静かにうつむいていた。 そこへ足音を忍ばせてボルボが近づく。 「遅いぞ」 「ギヒヒ、精一杯急いできたんだ。勘弁してくれ」 「どうせ…」

2018-09-22 19:48:27
帽子男 @alkali_acid

乙女はとがった眼差しをぶつける。 「ルーナと話し込んでいたのだろう」 「ギヒ、いやたいした話はしてねえ」 「そうか?近頃貴様は、あの女と仲が良いからな…融通の利かぬ私より馬が合うのだろう」 「ギヒヒ、あの女もあれで頭の固いところはあるさ。しょせん人間だ」

2018-09-22 19:50:04
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