異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【後編】

男だったらウンコを売れ。
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帽子男 @alkali_acid

「無事、取引を終えたとしても、戻ってこれるかどうかですね」 「旦那様がここ、闇の国の位置を示すしるべ、座標を覚えていればいいアルが…多分それはないアルな」 「こちらからひっぱり戻すことはできないのか」 「しかけが万全ならできるはずアルが…まだ調べてみないと」 「頼む。ツィーツィー」

2018-10-07 12:00:45
帽子男 @alkali_acid

勢いよくうなずいてから、にへらっとエルフは整った造作を笑みくずす。 「なんだ?」 「ウチ、育った道観でも、前の旦那様のお屋敷でも、じゃまものだったアルから…大姐や小姐に頼られると…くすぐったいアル」

2018-10-07 12:03:00
帽子男 @alkali_acid

「ツィーツィーの知がなければ、この難局に手も足も出ぬ」 「ええ。剣や刀を振り回してかたがつく話ではありませんし」 あっさり応じる人間ふたりに、妖精は抱拳してから元気よく声を上げた。 「よーし!がんばるアルよ!アチョー!」

2018-10-07 12:04:24
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「なるほど、糞尿を醸して作った薬ですね」 「ギヒヒ、毒さ。あんたの敵を盛り殺すもよし。ほかのやつに売るもよし。ゴブリンの糞毒は最高だぜ。使う時はちょっと塩を加えてくれよ」 闇の国からはるか次元を隔てたいずこか。だだ広い地下空洞の片隅で、少年と小鬼が額を寄せて話し込む。

2018-10-07 12:07:08
帽子男 @alkali_acid

「とても興味深いです。一ついただきます」 「ただじゃねえぜ。代わりに何をくれる」 「…そうですね」 リトリトの蔦の髪がうねって、ほどけると、いろとりどりの苗のようなものがあらわれる。いや苔の胞子だろうか。先端に丸い粒が実っている。 「豆はいかがですか」 「豆ぇ?」

2018-10-07 12:09:51
帽子男 @alkali_acid

ボルボはうさんくさげに苗をつまみとった。 「ギィ?何の役に立つんだ?」 「食べられます。色によってべつべつの味がして、おいしいです。僕が牧場ではたらいていたころに作りました」 「食いものねえ…」 「飢えておけば自然に増えますし、土地を肥やしてくれます」 「ギ」

2018-10-07 12:12:01
帽子男 @alkali_acid

土いじりにまるで興味のないゴブリンに、トレント、とでもいうべきか樹精の仔は辛抱強く説明する。 「豆は乾かして粉にすれば常人の好むパンも焼けますし、煮込みにしてもおいしいです。肉や魚そっくりの味もあります。その赤と青のです。友達のサルウとシュトイがお気に入りでウィリンカは果物味」

2018-10-07 12:14:24
帽子男 @alkali_acid

盗賊はしばらく目を細めたあと、指輪をいじった。 「ギ…どんどん増えるって言ったな。どれくらい増える」 「たくさんです」 「雑草みたいにかい?」 「そうですね」 「そいつは…始末したくなったらどうする」 「多分、あの糞毒ぐらい強い毒があれば枯らせると思いますが」 「ギヒ」

2018-10-07 12:16:03
帽子男 @alkali_acid

「だけど、一度伸び始めた草とかなんとかはそりゃすごい勢いで広がるもんだろ。糞毒は作るのにちょいと時間がかかる。追いつくかね」 「そうかもしれませんね」 「ちょいと危なっかしいな。よそに売るにゃいいが。ギヒヒ」 リトリトは瞼を閉じる。 「あなたは…魔女の伴侶にふさわしい」

2018-10-07 12:18:11
帽子男 @alkali_acid

「ギ?」 ボルボははじかれたように跳び退った。交易の客が、一瞬、ほっそりした少年からしなやかな乙女に変じたように見えたのだ。 「でも…そうしない方がいいでしょうね」 「あんた、いったい何なんだ。まるで一人なのに、二人も、三人もいるみてえな」 「あなたも同じでしょう」

2018-10-07 12:21:00
帽子男 @alkali_acid

蔦の髪の少年は、幼げなかんばせに似合わぬ齢長けた双眸で小鬼の若者を一瞥した。 「あなたの中に、闇と…光が見えます」 「ギヒヒ、何だか分からねえ」 「魔女があなたを取り込めば、闇や光も取り込まずにはいられない…御しきれるかどうか…」

2018-10-07 12:24:15
帽子男 @alkali_acid

リトリトは急ににっこりした。 「豆が増えすぎたら困るというのはごもっともですね。おまけをさしあげます」 蔦の先端がくるりと丸まってとれ、石化して指輪になる。大粒の琥珀がはまっている。中には花が閉じ込めてあるようだ。 「樹精の力のかけらです。どうぞ」

2018-10-07 12:26:27
帽子男 @alkali_acid

ボルボは舌なめずりをして受け取る。 「ギヒヒ!お宝だ!どうせ魔法がかかってるんだろうが…ギヒ、売る分にゃ構わねえ!」 「大地の命を力の素に、はめたものの意志によって草木や苔黴、茸などの生長をうながしたりおさえたりします」 「ギヒ、庭師が喜びそうだ」 「そうかもしれません」

2018-10-07 12:30:05
帽子男 @alkali_acid

小鬼は有頂天になって跳ねまわりつつ便壺の一つを指さす。 「あれをやるよ。特別できがいい糞毒の素だ!ギヒヒ!ウンコとひきかえに魔法の指輪がもらえるとは!ギヒ!」 「糞毒を作るのにあなたがたが用いる技も価値あるものです」 「ギヒヒ、だけどまねるのは無理だぜ」 「そうでしょうか」

2018-10-07 12:33:08
帽子男 @alkali_acid

淡々と答えるリトリトに、ボルボはぞくりとした。目先の利益とひきかえに、何かゴブリン族にとってとてつもなく大事なものを、売り渡してしまったような気がした。だがすぐにどうでもいいと考え直す。 「ギヒヒ!とにかく取引成立だ!」 「ありがとうございました」

2018-10-07 12:34:57
帽子男 @alkali_acid

盗賊は愛想笑いを浮かべつつ、続く攻撃に身構えたが、少年は何もしかけてくるようすはない。 「…ギ」 「もう少しご一緒されますか?」 「いや、迷惑だろうし」 「いえ、そばにいていただけるのはうれしいです」 「ギヒヒヒ…そうかい。悪いがおいらは先を急ぐんでね」

2018-10-07 12:37:35
帽子男 @alkali_acid

ゴブリンが急いで脳裏に適当な座標を浮かべると、醜い体は揺らいで消える。そばにあったあまたの便壺も、一つを残してなくなっていた。 トレントの少年も同じようにかぎろい、魔女のかたちをとる。 「素敵な殿方でしたけど…ご縁がありませんでしたね」

2018-10-07 12:40:11
帽子男 @alkali_acid

続いてまたうわべを移ろわせ、灰色の肌と真紅の瞳、牙を持つ美丈夫となり、ためらいもなく旅人の置き土産に近づく。 「だが、これは使えそうだ。地下の国で事をなすのにな」 耳まで裂ける笑いを浮かべて掌をかざす。たちまち素焼きの器の中身は泡立ち始めた。

2018-10-07 12:42:53
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「ギヒ、ギヒヒ…死ぬかと思ったぜ」 ボルボは独りごちた。あんなに恐ろしい相手に出くわしたのは初めてだた。天竜にまたがったドラゴニアの騎士よりも、聖なる三日月刀を振るうクレセントの剣豪よりも、キョンシーの群を操る无屍の道姑よりも難物だった。

2018-10-07 12:45:39
帽子男 @alkali_acid

「粉っぽい妖精といい、うすきみわるい木の子供といい、異世界ってのはろくな客がいねえじゃねえか…闇の国の方がましだぜ…」 見回すと先程と打って変わった明るい場所だ。あちこちに照明が灯っており、金属とも漆喰ともつかない壁がかなたに見える。眼下にはとてつもなく大きな艦、だろうか。

2018-10-07 12:48:32
帽子男 @alkali_acid

幾筋もの糸のようなものにからめとられた船体が見える。 ゴブリンも便壺や、エルフのフケの詰まった樽、トレントから生えていた豆の苗と一緒に、糸で編んだ足場の上にいた。 「ギヒ…また…やべえ予感がする…」 何かが近づいてくる。複数だ。竜の牙の短剣を抜くがすぐに目がどんよりする。蜘蛛。

2018-10-07 12:50:46
帽子男 @alkali_acid

正確には蜘蛛ににた大きな怪物で、竜騎士の甲冑をほうふつとさせるような銀の甲殻で全身を覆っている。すばらしい敏捷さでそばをかすめつつ糸を放ってくる。 ボルボはあえてかわそうとせず、古き闇の定めた取引の掟が攻撃をはねのけるのに任せた。

2018-10-07 12:52:30
帽子男 @alkali_acid

「と、取引がしてえ!」 わめいても、銀の蜘蛛はどれも反応を示さなかったが、攻撃が無駄だと分かるとあっさり引き下がっていく。 「ギ…大丈夫かよ…」 頭の中に思いついた座標を浮かべるが、やはり無駄。取引が終わるまで別の世界には逃げられない。

2018-10-07 12:54:44
帽子男 @alkali_acid

「おまえ!なんだ!」 しばらくして、居丈高な声が響く。見上げると、身軽そうな格好をした男児が蜘蛛に襟を咥えられながら偉そうに腕組みをしている。 「ギヒヒ、おいらは旅のもんで…ちょいと取引を」 「なんで、くうかんちょうやくそうちの、動作試験中に出てきた!」 「くうか…何?」

2018-10-07 12:58:07
帽子男 @alkali_acid

小鬼は、手の中で言語と文字を理解する魔法の指輪をなぜる。だが妖精の秘宝をもってしても、あまりに異質すぎる考え方はうまく咀嚼しきれないようだった。 「まあいい!とりひき?アポはとったのか?」 少年はなおも矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。 「ギ…」

2018-10-07 13:00:11
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