異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【後編】
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まごつくボルボ。どうやら女だけでなく子供も鬼門になりつつある。 「ギイイ…とっちゃいねえが」 「とびこみか!よし!いいぞ!きいてやる!うちに…船元動力になにを売りたい!」 「ギヒヒ…ふなもと…どうりょく…?」
2018-10-07 13:03:08ゴブリンはすっかり押されながらも、どうにか主導権を取り戻そうと手をすりあわせながら、鉤鼻の顔に愛想笑いをはりつけた。 「実はちょいとしたもんでね…」
2018-10-07 13:03:55◆◆◆◆ 「むうう…」 闇の国の異世への門で、ツィーツィーは頭を抱えていた。 「どこに詰まっている」 シルヴィアが革袋の水を渡しながら尋ねる。 「どうやら門を御せるのは古き闇か、その力を分かち与えられたものだけアル…」 「力だと」 「古き闇の…魂というか…闇の魂というか」
2018-10-07 13:08:42「闇の魂、ね」 ルーナが、淡く光を帯びた文字を浮かばせる岩の柱をなでながら繰り返す。 「ウチにはそれがないアルよ…異世への門を通じて送りだした斥候も、闇の魂を通じて古き闇とつながっていたようアル…だから古き闇の魔法である取引の掟が保護できたアル」
2018-10-07 13:11:05ドーンエルフのおとめが説明すると、ドラゴニア人はじっとまた環状列石の中心にある虚空を眺めやる。 「ボルボには、ある。闇の魂が」 「この門を通じて闇の魂を持つもの同士は惹かれ合い、つながりあって、取引の掟を異なる世界にも及ばせ、またいざという時は引き戻せるアル…でも」
2018-10-07 13:13:41「古き闇はもはやいないアル…ルーナ大姐のご先祖が退治してしまったアル…だから…」 クレセント人は間をおいてから答えた。 「古き闇は復活しようとしています。闇の魂は、再びこの闇の国に集まってただよっています。依代を求めて…私やツィーツィーさんにも…多分、少しずつ染み込んでいますわ」
2018-10-07 13:17:06「だとしてもわずかアルよ…ウチは門を動かせないアル」 「私は…ドラゴニア人には生まれながらに闇の魂がある」 シルヴィアが嘴を入れた。 「ドラゴニア人は往時、古き闇に仕え、闇の国に住まう堕落した人間だった。古き闇が倒れた際、闇の国の最大の武器であった竜を連れて南へ逃れた」
2018-10-07 13:19:26「そうでしたわね」 「私なら…門を御せる…いや…できなくても、ボルボとつながれる…そうだな」 「うーん…どうアルか…やってみる価値はあるアルが…ただ、門にはたらく魔法はとても強いアル。シルヴィア小姐の人間の体で耐えられるかどうか」 「ゴブリンに門が動かせて、私にできぬものか」
2018-10-07 13:21:20騎士が断言するのへ、道姑と剣豪は顔を見合わせる。 「シルヴィアさんは、ボルボさんのこととなると理も非もありませんわね」 「熱血アル…」 甲冑のおとめが振り返って、黄杉の娘に尋ねる。 「どうすればいいツィーツィー」 「ちょっと待つある。今考えるアルよ」
2018-10-07 13:24:07また忙しく岩の柱に刻んだ文字を追い始めるツィーツィーを、シルヴィアは焦れながらも無言で見守る。ルーナは連れのはりつめた横顔を盗み見て溜息を吐く。 「やっぱり正室は譲らないといけないかしら」 呟いてから唇をかむ。 「私としたことが弱気な。ボルボさんのせいです…早くお帰りになって」
2018-10-07 13:27:09◆◆◆◆ 「なるほど、排泄物を微生物で発酵させて。面白い酵素だね。これは非常に多くの知見が得られるよ。彗星印の生理学部門が興味を示すんじゃないか」 空飛ぶ円盤が、便壺の上を旋回しながら喋っている。 「ギ…」 間合いをとって、あぐらをかいたゴブリンが眺めやっている。
2018-10-07 13:29:22さらに周囲には、煌々として照明のもとで、銀の蜘蛛の群と空飛ぶ円盤。女だか男だか分からない細身の人物と子供とが、糸で編んだ足場の上に散らばっている。 下方には糸で吊るした艦。まったくおかしな光景だった。
2018-10-07 13:31:32「買おう!ぜんぶ!」 少年、船元動力の若社長と呼ばれる小さないばりぼうが吠える。 「ギヒヒ…全部ね…いや壺一つにしといてくれよ」 小鬼はそっけなく応じる。はたしてまだ闇の国に帰れるか分からないのに、扱いを知っている交易の品を売りつくすのはまずい。
2018-10-07 13:34:29「ひとつか!つまらん」 「解析用の標本としては十分な量だぞ若社長」 むすっとする男児に、空飛ぶ円盤が助言する。 「ふん!よし!こっちから蜘蛛の糸をやる」 「あん?蜘蛛の糸なんぞ何の役に立つ」 疑わしげなゴブリンに、また円盤が仲裁する。 「真空蜘蛛の糸はどんな単分子繊維より強靭だ」
2018-10-07 13:37:31「ギイ?」 ボルボにはぴんとこないようす。 「蜘蛛の糸なんぞ高く売れねえや。もうちょっと違うのにしてくれ。あのでっかい艦とかよ」 「だめだ!糸にしろ!」 真空蜘蛛の群が輪を狭めてくる。剣呑だ。
2018-10-07 13:39:17最前から働いている不思議な魔法が、今回も異世界の怪物から身を守ってくれるのを願いながら、盗賊は見栄を切る。 「おいらが飛び込みに来たのは品に自信があるからよ。代金にやすもんを押し付けんのはやめてくれ!」 「あの」 先程から黙っていた女とも男ともつかない人物が声を上げる。
2018-10-07 13:41:46「糸の使い道を…見せてあげては」 「つかいみち?建艦の作業用資材として、べんりなのは見ればわかる!」 「ほら、そういうんじゃなくて…彗星印が営業が置いて行ったあの自動織機で」 「ふむ。かしこいな!さすがおれの秘書だ!」 少年はぎゅっとほっそりした連れに抱き着く。 「ひゃっ」
2018-10-07 13:44:13恥ずかしがる秘書の腹のあたりに、ぐりぐり頭をこすりつける若社長。 「なんだってんだこいつらは…」 異世界から来た行商はげんなりしつつも、仕方なく話の続きを待つ。
2018-10-07 13:46:10真空蜘蛛なる怪物が二匹、放射状に棒の突き出た機械を持って来る。 「彗星印の自動紡績製織染色裁断縫製装置、なづけで織彦くんだ」 「ギィ…」 「真空雲の軍用繊維にたいおうしている。彗星印ほこるアカネ・ヤマハラブランドの服飾パターンももうら」 「ギ?」 「アカネ・ヤマハラだぞ?」
2018-10-07 16:01:33盗賊と若社長はしばらくむなしく見つめあった。 「わかった。おまえいなかものだな」 「ギ…なんてムカつ…かしこいおぼっちゃまで。ギヒヒ、おっしゃるとおりです」 「よし。どうだ。これもつけるから糸とウンコをこうかんしろ」 「ギィ…いまいちそいつが何か分からねえ」
2018-10-07 16:03:58少年は腰に手をあてて胸をそらせた。 「じゃあいりょくをみせてやる!んーと、ドレス!ななひゃくにじゅうよんばん!」 銀色の宝石のような光をはなつ糸玉を、蜘蛛が機械に差し出すと、突き出た棒がひっこんだり伸びたりしながら巻き取り、縦横にはげしく回転を始める。
2018-10-07 16:06:04数秒ののち、目の覚めるような青い裳裾のついた夜会服が仕上がっていた。 「ギィ…?」 首をかしげるゴブリンの若者に、人間の子供はじたんだを踏む。 「まだわからんか!秘書!きてみせろ!」 「え?僕?」 「いいだしっぺはにいさんだ!」 「う、うん…」 そばにいる秘書がまごつきつつ従う。
2018-10-07 16:09:23船元動力の若社長は兄と呼んでいるが、どうも衣装を変えると女にしか見えない。しかもたいそう器量よしの。 「ど、どうかな?」 「にあうぞ!つぎのうちのせんでんホロは秘書でいく!」 「え、えへ」 いちゃつく労使ふたりに、ちびの取引先はうんざりぎみ。 「ギィ…いったいなんなんで」
2018-10-07 16:12:36上機嫌だった男児はまたむくれる。 「まだわからんか!次!燕尾服はっせんとんでにばん!」 またしても彗星印の自動紡績製織染色裁断縫製装置、名づけて織彦くんが作動し、見事なジャケットとパンツ、シャツ、タイなどを瞬時にして仕立てる。 「どうだ」 「ギィ…」 「秘書!しちゃく!」
2018-10-07 16:21:23かくして若社長の命令により次々とできあがる服を秘書が着こなすもよおしが開かれ、小鬼はずっと見物を強いられるはめになった。 「ギヒヒ、わかったわかりました。降参だ。その反物(たんもの)もそこそこの値段じゃあ売れるでしょ。そちらのからくりと糸玉で手を打った」
2018-10-07 16:23:39