異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【後編】

男だったらウンコを売れ。
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帽子男 @alkali_acid

根負けしたボルボがそう告げると、船元動力の小さな経営者は鼻息もあらくうなずいた。秘書がおずおずと説明する。 「ええと、糸の長さは一千マドフィロス、織彦くんは複励起動力で二万プロケレド保証でよろしいですか」 「ギヒヒ、毎度あり」 契約を交わして決着だ。

2018-10-07 16:27:41
帽子男 @alkali_acid

「おまえ!なかなか気合のはいった小悪党だな!きにいったぞ!うちににゅうしゃしないか!」 「…ギ…いや先を急ぐんでね」 若社長の勧誘を辞退しつつ、さりげなく銀にきらめく蜘蛛に視線を走らせた。きなくさい。どことなく抜けた人間のふるまいにも、うかつに警戒を解けないところがある。

2018-10-07 16:31:04
帽子男 @alkali_acid

「ギ、じゃこれで」 まぶたを閉じて浮かんできた座標を読み上げる。長居は無用だ。たちまち矮躯は揺らめき、霧がかかったように消え失せる。 「ふうむ…あのぎじゅつのほうがきになるな」 「妖精の魔法だな」 空飛ぶ円盤が告げる。 「しっているのか」 「話だけな」

2018-10-07 16:32:40
帽子男 @alkali_acid

若社長が消えた売り込みのいたあたりをなでたりつついたりして調べていると、真空蜘蛛の動きがあわただしくなる。 「どうした?」 彗星印の翻訳装置が稼働する。 「ミカエラがいない」 女のような声が響く。 「ミカエラ?あのいたずらものの」 「正女王候補序列三位」 「そうか」

2018-10-07 16:34:52
帽子男 @alkali_acid

少年はうなずいた。 「壮行会をしてやりたかったな。りしょくとどけはじゅりしておく」

2018-10-07 16:35:53
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「ギヒヒ、おかしな連中ばっかりで、取引の儲けもしょぼいが、とりあえずつつがなく終わってよかったぜギヒヒ」 ゴブリンはほっとしていた。真空蜘蛛とやらには総毛だったが、しかしその前の樹精の仔ほどではない。 「リトリトみてえなやつと出くわさなきゃ御の字よ」

2018-10-07 16:38:56
帽子男 @alkali_acid

かえりみて、糸玉と織機を眺めやる。隣には妖精の粉の樽や豆の苗。数の減った便壺。 「ギヒ…さてそろそろ闇の国に帰りつかねえとあとがねえぞ」 視界の隅を何かがかすめる。とっさに虫のように地面に伏せてようすをうかがう。蜘蛛。小さな銀の蜘蛛が横切った気がする。

2018-10-07 16:41:07
帽子男 @alkali_acid

「ギ…いやまさかな…」 取引の品以外ついてこれるはずがない。今まではそうだった。 しかし何か裏をかく方法があるのだろうか。別の世界の生きものが一緒にまぎれこんでくるなど。 「ギヒ…あるはずねえか」 あたりをうかがうと、荒れ果てた地だ。

2018-10-07 16:43:02
帽子男 @alkali_acid

といって闇の国よりは肥沃だが、人間が耕し畑にしたがるほどではない。 「ギィ…居心地はわるくねえが…」 また殺気を感じて、飛び退る。半呼吸前までいた場所に、どでかい漆黒の鉞(まさかり)が食い込む。 「ガアアア!!!」

2018-10-07 16:44:53
帽子男 @alkali_acid

獣じみた叫びとともに、灌木のあいだからしなやかな影が飛び出し、そばに刺さった武器引き抜いて、斬りつけてくる。 魔法が守ってくれるはずだが、あまりの猛攻に、思わずボルボは腐肉漁りの鴉の兄弟団としての全力をふりしぼって逃げ回った。 「おい!!戦え!!」 「ギイ!!?」

2018-10-07 16:47:04
帽子男 @alkali_acid

強襲してきた敵の正体は判然としない。 雪花石膏の肌に真紅の双眸、目鼻立ちはエルフに似ているが牙や爪はゴブリンじみている。体つきはまだ未熟だが、細い四肢には引き締まった筋肉がついて、けたはずれの膂力が備わっているようだ。

2018-10-07 16:48:53
帽子男 @alkali_acid

また少年。また子供だ。女だけでなくこういう男児も禍の種らしいと、ゴブリンはまた口をつぐんだまま魔王や邪神を呪う。 「ギヒヒ、おゆるしくだせえ。おいらはあわれなゴブリンで」 「戦え。お前、俺の斧を三度かわした」 「ギヒヒ、ただのまぐれで」 沼地の水の泡立つような笑いが割って入る。

2018-10-07 16:51:02
帽子男 @alkali_acid

「よせガブ。そやつは強い魔法が守っている。お前が傷つけることはできん」 「魔法」 ガブという名らしいエルフもどきの少年は牙を鳴らし引き下がる。かわってあらわれたのはよりゴブリンに近いが、人間並に体の大きな亜人。かなり年を取っているようだが、筋骨は隆々としている。 「グググ」

2018-10-07 16:52:59
帽子男 @alkali_acid

杖をつき、ぼろをまとって、人間の魔導師の悪趣味なまねのようだ。 「我等が縄張りに、異世からの客とは…珍しいことよ」 老鬼はしわがれた喉で告げる。 向かい合った、緑肌の若者は頭のてっぺんから爪先まで痺れに似た感覚が走って、這いつくばれもせず鉤鼻をうごめかす。 「ギ…」

2018-10-07 16:55:25
帽子男 @alkali_acid

小鬼の勘が告げている。相手は先程まみえた樹精のリトリトと同じほどに危険だと。強いて口を開く。 「ギヒヒ、どうも、おいらは取引に来たんだ」 「グググ、歓迎しよう。ようこそオーク砦へ」 亜人の妖術使いはまたも沼地の水が泡立つような笑いをこぼした。 #ぴくめす

2018-10-07 16:57:58
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 闇の国の都から離れた環状列石の遺跡では、甲冑をまとうドラゴニアの竜騎士が広場の中央に立ち、祈りをささげていた。額には東洋の呪符が貼ってある。 岩柱が描く輪の外に、无屍の道姑と、クレセントの剣豪が立つ。 「ウチの呪符で、門とシルヴィア小姐をつなぐアル」

2018-10-07 17:01:34
帽子男 @alkali_acid

「シルヴィアさんの心や体にさわりはないのかしら」 「分からないアル。古き闇はあまり配下の命などにそこまで気を使わないやつだったらしいアル…でも急ぐなら」 「…焦りすぎな気はしますけど…そうね…」 ルーナはうねる前髪をかきあげる。 「古き闇が定めた取引の掟とやらも、完璧ではない」

2018-10-07 17:04:02
帽子男 @alkali_acid

「そうアル。かつて門から出てきて闇の国を荒らしまわった、紫鱗の龍みたいに、裏をかくとか、魔法を破れるすごいやつが、ほかの世界にいないとも限らないアル」 「記録から何か見つけたんですね」 「星々から降り来る魔女、冥王と雌を狂わす獣鬼とかが、避けるべき脅威として記述があったアルよ」

2018-10-07 17:06:27
帽子男 @alkali_acid

ドーンエルフの言葉に、クレセント人は相槌を打つ。 「古き闇がこの世界では最も強い魔法を使えたとしても、ほかの世界にはほかの世界の、古き闇に匹敵する存在がいる…ありうることですわ」 「よほど運が悪くなければ、出かけた先でいきなりそんなろくでもない世界にあたらないと思うアルが…」

2018-10-07 17:08:26
帽子男 @alkali_acid

「とにかく…紫鱗の龍や、星々から降り来る魔女や、雌を狂わす獣鬼のいる世界に入り込まないうちに、旦那様を取り戻すアル…シルヴィアさんの闇の魂で」 語らうふたりの仲間をよそに、ドラゴニア人は静かに瞑想に入っていた。醜く浅ましい夫のよすがを求め、心を次元のはざまにさまよわせつつ。

2018-10-07 17:10:24
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「グググ、つまりゴブリンの糞は猛毒になると…実に面白い」 「ギヒヒ、オークの血はきわめつけの媚薬になるって訳だ。しかも女にだけ効く!おいらみたいな男には利かない!ならいい!最高じゃねえか!」 オークとゴブリンはすっかり意気投合して話し合っているようだった。

2018-10-07 17:12:15
帽子男 @alkali_acid

大鬼が小鬼に申し出る。 「残りの壺はすべて引き取ろう」 「ギヒヒ、まいったな。元手がなくなっちまう。だが兄弟の願いとありゃいいさ」 「グググ、案ずるな…もはやお前が次の世界を心配する必要はない」 「ギヒヒ、確かに。おいらこの世界にとどまるのも悪くない気がしてきたぜ」

2018-10-07 17:14:19
帽子男 @alkali_acid

「ときにゴブリンキングの兄弟」 「ギヒ、なんだいオークメイジの兄弟」 小鬼が問い返すと、大鬼がしわだらけの顔をかすかにゆがめて尋ねる。 「お前のうちには薄き闇と、小さき光が重なっているな」 「ギヒ、前にもそんなこと言われたっけな」 「何かいわれがあるのか」 「おいらはゴブリンさ」

2018-10-07 17:16:19
帽子男 @alkali_acid

オークメイジはまぶたを閉ざす。 「ゴブリン…面白い…お前は面白い…闇は我が術を阻む。かの冥王のごとく…光は我が術の餌食となる…さて…」 ゴブリンはにたついたまま杯を上げる。 「ギヒヒ!ゴブリンのおやじやおふくろやいもうとやあにきは死んだが、新しい兄弟ができたぜ!」

2018-10-07 17:18:19
帽子男 @alkali_acid

せつな、鴉羽色の刃が脳天を唐竹のごとく割ろうとするのを、ボルボは後転してかわした。 「じじい…こいつは一滴も飲んでいないぞ。あてが外れたか?」 突如あらわれたガブが鉞を構えて告げる。 「グググ…こやつはわしらと同じ…まこと手強いやつよ」 うれしげにオークメイジが告げる。

2018-10-07 17:21:00
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