時計屋シリーズ6~あの世のものを討つ騎馬警官隊の話~

色々違います
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帽子男 @alkali_acid

ようやく電話が切れる。 仕入係と調達係、名前はタロとジロだが、二人はあらためて顔を見合わせた。 「どうやらさっきのリストは、軍規格の耐衝撃構造を採用した音叉時計をリストアップしたものだね」 「ご説明ありがとう。ちなみに僕等がつけているやつもだ」 「やっぱり時計屋は何か企んでる」

2018-10-20 14:56:55
帽子男 @alkali_acid

二人は時計屋から贈り物としてもらい、壊してしまった腕時計を見せ合った。 「僕等を罠にはめる気だったんだ」 「そうだろうと思ったよ。あいつは悪人だからな」 「僕らを殺す価値のある敵と認めてるってことだよな」 「時計屋は僕等を意識してるんだ」 「きっと僕等のことを考えて眠れない日もある」

2018-10-20 14:58:10
帽子男 @alkali_acid

タロとジロはファクシミリの内容を暗記すると裁断機にかけて読めなくした。 ついで事務所の机の引き出しに単純だが気づきにくく解除もしにくい仕掛けをとりつけ、セムテックスと起爆装置につないだ。 「これで時計屋は死ぬ」 「でも警察が先にガサ入れしたら」 「まあしょうがないさ」

2018-10-20 15:00:13
帽子男 @alkali_acid

仕入係は溜息をついた。 「ああ…やっぱり時計屋を半身不随にして拷問した方が楽しいんじゃないかな」 「どんな」 「裸にして…僕も脱いで…」 「また個人的興味じゃないか。時計屋はプロだぞ。僕等もプロらしく振舞え」 「うん…」 「それにやるなら僕がやる」

2018-10-20 15:02:06
帽子男 @alkali_acid

腹黒百貨店の二人は朗らかに笑い合う。 「ねえ次はどうする」 「そうだな。時計屋の最期をはなばなしく飾ってやろう。あいつが調べてたこの時計塔を全部爆破するってのはどうかな」 「いいね!きっと新聞もテレビも時計屋を取り上げるぞ!」 「じゃあ、硝酸アンモニウムとガソリンを確保だ」

2018-10-20 15:04:22
帽子男 @alkali_acid

「了解了解」 侵入の痕跡を消し、次藤の事務所を後にした腹黒百貨店の面々は、急にまた腕時計をはめた手首に震えを感じた。 「まただ」 「市内に入ってからずっとだね」 「いつも霧がかかる時だね」 「時計屋と関係あるのかな」

2018-10-20 15:05:55
帽子男 @alkali_acid

二人が唇の動きだけで会話しながら最寄りの路面電車の停留所まで歩いていると、いきなり薄灰の帳の向こうから吠え声とともに塊が襲ってきた。 とっさに回し蹴りで弾き飛ばすと、向こうは甲高い悲鳴を上げてうずくまる。 「野良犬だ」 「猫だよ」 どちらなのか、人面の四つ足だ。

2018-10-20 15:08:52
帽子男 @alkali_acid

首が逆さについているのでちょっと分かりにくいが。 「ほら犬だ」 「猫だって」 霧の向こうから一匹また一匹と逆さ首の人面犬または猫があらわれる。 「お腹が空いてるみたいだぜ」 「狂犬病の予防接種をしといてよかった」 「だろ?病院に忍び込むのも楽しかったし」

2018-10-20 15:10:38
帽子男 @alkali_acid

タロとジロはそれぞれ隠し持っていた糸と針を引き出しながら、にこやかに話し続ける。だが霧の奥からはさらに大きな影がゆっくりと近づきつつあった。

2018-10-20 15:11:31
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 騎馬警官隊の火傷の隊長は、部下だったものの遺体が暗緑色の路面電車に運びこまれてゆくのを鬱然と眺め、オイルライターで紙巻の先端をあぶり、煙をくゆらせた。とがめだてするものはいない。 「…初ケ谷の聴力試験は乙種だったはずだな」 「はい。鐘つんぼでした」 傍らで部下が応じる。

2018-10-20 15:15:47
帽子男 @alkali_acid

「例の腕時計のせいか」 「分かりません。鐘守寺の和尚のお話では、聞こえるものがあの腕時計をはめてはいけない、ということでしたが、鐘つんぼが影響を受けたという話はなかったかと」 隊長は煙を吐いた。 「…お前は和尚をどう思う」 「はあ」 「正直ものだと思うか」 「判断しかねます」

2018-10-20 15:19:46
帽子男 @alkali_acid

ケロイドで顔半分をただれさせた美丈夫は、煙草を捨てて靴の先で踏み消した。 「三好さんは、和尚と距離をとっていた」 「三好顧問がご存命でいてくれればありがたかったですね」 「死んだと思うか」 「は?」 「三好さんの時は、我々は出動していない」 「はあ…」 「三好さんの御夫君の時もな」

2018-10-20 15:23:25
帽子男 @alkali_acid

また遠くで鐘の音がして、制服の男達は同じ方向を見そうになるのを、うつむいてしのぐ。きわめて強い訓練をうかがわせる動作だった。 「どんどん音が強く、近くなっている」 「…はい…」 「私が、初ケ谷のようになったら貴様がやれ」 「は…」

2018-10-20 15:25:59
帽子男 @alkali_acid

火傷の隊長はゆっくり深呼吸する。 「聴力検査結果の再確認があるまで、乙種のものでも音叉時計の装着は禁ずる。乙種のものは署で待機だ…それと…少年課の石崎警部に連絡して三好さんの娘…なんといったか…所在を早急に確認して折り返し連絡してほしいと伝えてくれ」

2018-10-20 15:30:25
帽子男 @alkali_acid

無線が嫌な音をさせ、新たな事件発生を伝える。 隊長が合図すると騎馬警官隊は全員鞍上に登る。 霧はすでに十歩先も見えないほどたれこめているが、適切に馴致した馬が道を過ることはない。

2018-10-20 15:32:11
帽子男 @alkali_acid

鐘の音と霧に対して、市の治安機関が出した目下、最善の処方だった。 以前は一つの家が担ってきたつとめを引き継いでから、犠牲を出しながらも、過去に幾多の事件を解決してきた。今後もそうあらねばならかった。

2018-10-20 15:37:07
帽子男 @alkali_acid

そうあらねばならなかったが。 "霧の都"の騎馬警官隊は、予備隊も含め、隊員一名の変死から二日のうちに全滅することになる。

2018-10-20 15:38:22

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