フリージング・フジサン #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆数分後、タキはいよいよ深層へのハッキングを開始していた。部屋の隅ではイータがうつ伏せに倒れ、屈辱に頬を紅潮させて嗚咽していた。「よくも……! ふ……紛争解決の手段は幾らでもあるんだ……許しませんよ……!」「アダナスの社員っていうのは皆アンタみたいなんスか?」「クソーッ……!」◆

2018-10-28 21:52:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆コトブキは激しく駆動するUNIXデッキを前に、魔術師めいて手をかざし、直立している。彼女とデッキは光り輝くLANケーブルによって結ばれ、今まさに、ネオサイタマのピザタキからタキが侵入を開始する!このふざけたエメツ抽出装置を掻き回し、広間に寝かされた人々を覚醒させるべく!◆

2018-10-28 21:53:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウン……。電子風の唸りが上空の虚無を吹き抜けていった。黄金の立方体はある一転に静止し、緑の格子模様の平原を冷たく照らす。コトダマ空間の姿は無限の側面を持つ。だがその上と下に広がる虚無と緑の格子模様、そして黄金の立方体は不変である。1

2018-10-28 21:57:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

010011……緑の飛沫打ち寄せる電子波止場のマンホールが開き、コトブキが顔を出した。彼女は用心深く這い上がり、顔面に「仇」と書かれた電子フクスケたちに見守られながら、厳めしい門に進んだ。先程と違い、彼女の手には光り輝く鍵がある。「時間を食っちまったぞ。とっととやれ」タキが指示する。2

2018-10-28 22:00:22
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「はい。行きますよ」「おう」「ハイヤーッ!」コトブキはキアイとともに鍵を挿し込み、回した。キャバアーン!電子ファンファーレが鳴り響き、「正解です」のショドーが垂れ下がった。フクスケたちがドゲザした。コトブキは凍りついた。赤い氷が彼女の足首に貼りつき、押し留める。「これは!」 3

2018-10-28 22:02:28
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パキ……パキパキ。乾いて澄んだ音が聞こえた。コトブキの電子自我に亀裂が生じる不穏な音だ。「タキ=サ……」「ストップだ!喋るな」タキはコトブキの傍らに降り立ち、進み出た。「畜生が。上等だよ」電子汗がこめかみを流れ落ちるに任せ、タキは門をくぐった。パキパキ……音が奥にのびてゆく。 4

2018-10-28 22:04:44
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タキの後ろでコトブキは赤い氷の像と化している。透き通った身体の奥に、タキの忠告通り、じっと息を殺して動かない彼女の自我の芯が光っている。動くなよ。タキはもう一度呟く。コトブキにそのまま奥まで行かせて、うまくやらせる当初のプランは早速失敗だ。タキがやるしかない。 5

2018-10-28 22:09:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あのイータとかいうアダナスのサラリマン野郎、パスワードは教えたが他は知らんぷりか。ホワイトカラーらしい陰湿な真似をしやがるぜ。タキはぼやきながら進む。しるべとなるのは、このパキパキいう音……凍結されたコトブキと繋がる赤い氷結音だ。タキは注意深く音を見た。伝染の源を探す。 6

2018-10-28 22:12:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「仇」「仇」「仇」。回廊の左右の壁を、光に近い速度で「仇」の漢字が流れゆく。パキパキという氷結音が途中で見えなくなる。だがタキは深呼吸をひとつ。問題なんて何もねえ。オレはテンサイだ。だからわかる。音は消えたのではなく、壁の一点に吸い込まれた。そこに下階層への道がある。 7

2018-10-28 22:16:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このまま直進通路を進み続ければ、果てにあるのはただの崖で、そこまで無心に進んだハッカーは今更ブレーキすらかけられず、永久放逐。寄る辺を失った自我の行きつく先は誰も知らない。緑の格子模様に落ちるのか、空に吸われて、バケモノに食われるか。とにかく脳波がフラットラインするのだ。 8

2018-10-28 22:18:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だからここでの解放はひとつ、左右の壁を流れる「仇」の文字を認識する、その速度を、同時に視界に収めて、集中せずにただ見つめる、まるで立体視のイメージで。そうすると、等間隔同速度で流れている筈の左右の壁の右側だけに、一文字分の空白が見えてくる。簡単だ。ナメるなよ。タキは穴を穿つ。 9

2018-10-28 22:22:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRACK……。ブルズアイ。口笛でも吹きたくなる。タキは亀裂に己の自我を吸い込ませ、向こう側に抜ける。乾いた氷結音と再びご対面だ。マジック・フットプリントじみた等間隔の赤い音が、電子白樺の森に入ってゆく。勇んで駆け出す……のはきっかり主観十秒、そこで立ち止まると目の前を罠が通過。10

2018-10-28 22:25:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

罠は弓型のギロチンで、遥か頭上から垂れており、振り子めいた動きで薙ぎ払った。戻ってくるのは相当早い。タキは再び走り出す。今度は主観12秒。そこで停止。「カカカーッ!」藪の中からボロ布姿のヨーカイがジャンプし、狂笑しながら走り去る。タキは電子ファックサインで見送り、再び進む。 11

2018-10-28 22:30:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

白樺森はいつしか燃える竹林と化す。タキは狼狽えない。今回ばかりはビビりあがった姿を見せるわけにはいかない。ビビればそこで死ぬ。その感情の動きすらも、ロープの上でクシャミをするのに等しいからだ。KABOOOM!足元の地面が破裂し、タケノコが屹立。タキはその勢いで上に跳ぶ。 12

2018-10-28 22:33:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここからはセットプレーだ!タキは既に跳躍先のブロックに逆立ちしている。そして跳んできた自分自身をキャッチし、振り回して送る。キリモミ回転の速度を調節し、渦巻き状の穴に飛び込む。四方八方から飛び出す杭にはリズムがある。01010001「グワーッ!」脇腹を持っていかれた。健康診断が要る。 13

2018-10-28 22:35:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

音だ、相変わらずあの凍り付く赤い音が唯一の命綱だ。タキは危ういところで、本当に危ういところで、音にしがみついた。たちまち上に引っ張られる。すがりつこうとするゴースト達。仲間を増やそうとするかのように。つくづく趣味が悪いプログラムだ。 14

2018-10-28 22:38:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こんなところで死んでられっかよ、タコが」タキは逆さづり状態でダブル電子ファックサインし、ゴースト達を振り払うと、白く四角い電子冷蔵庫の前に無事に着地した。これこそが氷結音の源、反抗的なソルダACV-401の源だ。ダイヤルを回して冷蔵庫を開くと、薄汚い蓄音機が入っている。15

2018-10-28 22:40:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここまでくれば慎重さは不要だ。タキは蓄音機をケーブルごと引きずり出し、床に投げつけ、踏みにじって破壊した。「コラッ!畜生がコラ!」「ピガガガーッ!」悲鳴を上げる蓄音機から赤い血が溢れ出る。これがソルダACV-401、当時ネオサイタマのハッカーがシケモクと呼んでいたウイルスの心臓だ。 16

2018-10-28 22:44:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「調子に乗るなよ!」「ピガガーッ!」「ファッキンダムシットが!」「ピガガガーッ!」「オレはなァ、テンサイなんだよ!」「ピガガ0100101」「フーッ……クソが」タキは引きずり出したケーブルを睨み、投げ捨てた。シケモクの概念が消滅し、遠くでコトブキが凍結から復帰するのを感じた。 17

2018-10-28 22:49:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「流石です、タキ=サン!」コトブキの声が届いた。「おうお前、もっとしっかりしろや」タキはクールにキメた。「さすがですね!きっと鮮やかだったでしょう」「ああ、まあな。シケモクならオレは寝ながらでも解除できらァ」「シケモクなら?」「ああいや、他のも楽勝だがな。爪を隠してンのさ」 18

2018-10-28 22:52:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキはポケットからタバコを取り出し、電子肺の奥の奥まで吸い込んで、01の紫煙を吐き出した。「ちっと疲れたからよ。ここから指示すッから、オマークに繋がってるアホどもをとっとと起こしに行けや」「わかりました!」タキはもう一度タバコを吸い、脇腹を擦った。 19

2018-10-28 22:57:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スターン!スターン!スターン!コトブキが電子ショウジ戸を開けていくのを眺めながら、タキはタバコを掌で消した。「マジ、ラッキーだったぜ」彼は呟いた。……姉はシケモクに殺された。だからタキはそのコードの一字一句漏らさずニューロンに刻みつけた。今回それが役に立った。それだけの話だ。20

2018-10-28 23:03:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「ハイヤーッ!」スターン!コトブキは最後の電子フスマを蹴り破る!「アイエエエ!?」「アイエエエエエ!」電子座敷牢の中で右往左往するアカウント達をコトブキは確認した。「皆さん!穏便にやっている時間は無いのです!」電子格子を引きちぎる!「ハイヤーッ!」 21

2018-10-28 23:09:25