松井和翠=責任編集『推理小説批評大全総解説』を読んでの感想

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シン@本 @naosarakyaa

ところで『推批大解』では「スープのなかの蠅」の底本を『深夜の散歩』(ハヤカワJA文庫)としていますがこの本に「スープのなかの蠅」は未収録です。私は『探偵たちよスパイたちよ』(文春文庫)を底本にしました。『推批大解』では「スープの中の蠅」表記ですがここでは「スープのなかの蠅」表記。

2018-11-08 01:32:41
シン@本 @naosarakyaa

小林信彦は『地獄の読書録』の1960年分が採られています。こちらも妥当。しかし私はあえて90年代の文章から選びたい。『本は寝ころんで』『〈超〉読書法』『読書中毒』(いずれも文春文庫)からパトリシア・ハイスミス論集成を編み、それを収録したいのです。

2018-11-08 01:33:13
シン@本 @naosarakyaa

ミステリの型・物語の定型をはみだしてしまうハイスミスの不気味な作家性に夢中になってゆく様子を記したこれらの文章は、逆説的に「ミステリとは何か」を考えさせられます。そしてこれは偶然にも同時代の高村薫・桐野夏生の動きとシンクロしているのです。

2018-11-08 01:33:43
シン@本 @naosarakyaa

ミステリから出発しミステリから離れていった高村薫と桐野夏生(野原野枝実名義もありますが)。90年代を代表する二人には今のところ決定的な作家論がありません。小林のハイスミス論がその代りになるのではないか?やがて書かれるべき高村論・桐野論の一助となるのではないか?そう思い選びました。

2018-11-08 01:34:12
シン@本 @naosarakyaa

余談ですが、ちくま文庫には丸谷才一のミステリ論を集めた『快楽としてのミステリー』があります。小林信彦のミステリ論集成もぜひちくま文庫で出してほしいものです。「宝石」「ヒッチコック・マガジン」での書評、ミステリ映画論、ベスト3、読書日記や『小説世界のロビンソン』からの抜粋等々……。

2018-11-08 01:34:50
シン@本 @naosarakyaa

『推批大解』はフランスミステリ論として松村喜雄『怪盗対名探偵』を採録。確かにこれは現実の怪盗=名探偵ヴィドックが小説に与えた影響を綴った先駆的通史。しかしその後同テーマでより完成度の高い小倉孝誠『推理小説の源流』が出ている。第2章第3節「ガボリオ作品の主題と構図」を抄録。

2018-11-08 01:35:22
シン@本 @naosarakyaa

北上次郎は大藪春彦論「ヒーローたちの悲哀」が採られていますが、この人の肝は時評にあると思うので本の雑誌の新刊めったくたガイドから採りたい。底本は『新刊めったくたガイド大全』。抄録するのは1982年。冒険小説が盛り上がってきている頃です。同時代ならではの熱気に溢れています。

2018-11-08 01:35:59
シン@本 @naosarakyaa

諸井薫『男の感情教育』とロバート・B・パーカー『初秋』を同時にほめるくだりが勘所。どちらも冒険小説ではありませんが、冒険小説への熱望がどこから来るか考えさせられます。足立巻一讃は見事。『占星術殺人事件』評も今読むと味わい深い。本の雑誌社刊。

2018-11-08 01:36:31
シン@本 @naosarakyaa

まとめ:差し替え希望 丸谷才一「エンターテインメントとは何か」→「フィリップ・マーロウという男」「角川映画とチャンドラーの奇妙な関係」「これが文学でなくて何が文学か」「ハードボイルドから社交界小説へ」「星と星との距離」(多く見えますが分量はそんなにありません)

2018-11-08 01:37:35
シン@本 @naosarakyaa

中村真一郎「スープのなかの蠅」→「赤川くんこれまでに何人殺しました?」(with赤川次郎) 小林信彦『地獄の読書録』(抄)→パトリシア・ハイスミス論集成 松村喜雄『怪盗対名探偵』(抄)→小倉孝誠『推理小説の源流』(抄) 北上次郎「ヒーローたちの悲哀」→『新刊めったくたガイド大全』(抄)

2018-11-08 01:38:06
シン@本 @naosarakyaa

次は追加希望作。まず何を措いても採るべきなのが内藤陳『読まずに死ねるか!』(1983、集英社)。80年代、冒険小説の時代の象徴。歴史的重要性からいっても面白さからいっても、これを採らないという選択肢は私にはありません。これほど評論が小説の力になった例はそうそうないと思います。

2018-11-08 01:38:38
シン@本 @naosarakyaa

抄録したいのは1981年の時評。日本冒険小説協会を作ってはしゃいでいる姿や、入れ込んでいたギャビン・ライアルの新作のふがいなさに「新作の/ライアルの/おとろえが/身にしみて/ひたぶるに/うら悲し」と『海潮音』のパロディをやっちゃうところ、ノリにノってます。初出は今は亡き「月刊PLAYBOY」。

2018-11-08 01:39:07
シン@本 @naosarakyaa

『推批大解』にはフランスミステリについてはフィユトン論があるだけでノワール論がありません。それを補うのが藤田宣永「われらをめぐる旅 パリ・ノワール」。初出ミステリマガジン1981年6月号。思い切り気障でかっこいい、そのくせ学究肌なところもある、完璧な短文なのです。藤田は作家デビュー前。

2018-11-08 01:39:43
シン@本 @naosarakyaa

「巴里は仮面を被るのが巧みな街だ」と書き出した藤田は観光用のお上品な巴里はまっぴらだと毒づき、ある小噺を披露します。それは文化人顔をしたフランス人の裏にある野蛮さを示す小噺。藤田はこの系譜の先祖をボードレールとポリス・ヴィアンに求めます。そしてその子孫がノワールなのだと。

2018-11-08 01:40:16
シン@本 @naosarakyaa

ミステリ専門書店NUIT BLANCHEや専門誌POLARを紹介し、A・D・G『おれは暗黒小説だ』の一節に見られる反知性主義を八つも挙げてみせます。そして「“接待ルーム”を一歩でれば、そこには、闇の巴里(PARIS NOIR)が拡がっている」と締める。日本のノワール論の嚆矢として評価されるべき一文です。

2018-11-08 01:40:56
シン@本 @naosarakyaa

座談会でも指摘されていますが『推批大解』には女性論者が少ない。2/70しかない。(リストアップはしていたという仁木悦子の評論とは一体?) ただこれは元々母数が少ないので仕方ないところもあります。統計をとったわけではありませんがミステリ論者の女性率はSF論者と比べても少ない気がします。

2018-11-08 01:41:31
シン@本 @naosarakyaa

そう『推批大解』で手薄なのはジェンダー論です。というわけで現代女性作家研究会編『P・D・ジェイムズ コーデリアの言い分』(1992)を加えたい。本書は「イギリス女性作家を読む」シリーズ第3巻で他の巻はフェイ・ウェルドン、アニタ・ブルックナー、バーニス・ルーベンス、アンジェラ・カーター。

2018-11-08 01:42:09
シン@本 @naosarakyaa

本書は序論(山内照子)『女の顔を覆え』論(山内)『女には向かない職業』論(岡村直美)『わが職業は死』論(武井誠子)『罪なき血』論(鈴木和子)『皮膚の下の頭蓋骨』論(山内)『死の味』論(太田良子)『策謀と欲望』論(宮澤邦子)及びオルガ・ケニヨンによるP・Dへのインタビューという構成。

2018-11-08 01:42:46
シン@本 @naosarakyaa

このインタビューがなかなか興味深く、ダルグリッシュの正確な発音がダルグリーシュでこれはスコットランド系の名前、学校で教わった女の先生にちなんでつけたことを知りました。『罪なき血』がアメリカで当りベストセラー作家になった経緯も。治安判事とBBCの理事をしながら執筆していたとは……。

2018-11-08 01:44:33
シン@本 @naosarakyaa

現代の女性作家で好きなのはアイリス・マードックとA・S・バイアット、劇作家ではトム・ストッパード、詩人ではラーキン。若手女性推理作家のジョウン・スミスは「プロの探偵を使わないとか、殺人ミステリにしないところが好き」とのこと。この人の小説も読んでみたいですね。

2018-11-08 01:45:02
シン@本 @naosarakyaa

P・Dがドロシー・L・セイヤーズを尊敬しているのは衆知の通りですが、ここではセイヤーズの書簡集を称賛しているのが目を引きました。セイヤーズは序文も多く書いているようで、書簡集と序文集を読んでみたいものです。

2018-11-08 01:45:16
シン@本 @naosarakyaa

閑話休題。評論の中では山内照子の『皮膚の下の頭蓋骨』論が図抜けています。前作『女には向かない職業』は〈父〉からの独立を、今作は〈母〉からの独立を表しているという仮説を、小泉喜美子の致命的な誤訳を指摘しながら論証してゆく手続きは非常に刺激的。

2018-11-08 01:45:28
シン@本 @naosarakyaa

今作で十年ぶりに再登場した女探偵コーデリア・グレイは、奇しくも同じ年にさっそうとデビューした二人の後輩キンジーとヴィクに比べ未熟で子供っぽく職業意識にも欠けていると評する山内。コーデリアは不思議の国のアリスでヴィクとキンジーはオズの魔法使いのドロシーだという対比が楽しい。

2018-11-08 01:45:43
シン@本 @naosarakyaa

前作の悪は力による悪で今作の悪は柔構造の悪だという納得の意見から、コーデリアと犯人はネクロフィリアの気質があるという大胆な説まで数々の興奮がある。ところでコーデリア論といえば瀬戸川猛資の『女には向かない職業』(ハヤカワ・ミステリ文庫)解説及び「塔の中の姫君」が広く知られています。

2018-11-08 01:45:58
シン@本 @naosarakyaa

こちらも名調子で読ませるのですが、今読むと女性蔑視がきつい。女性が探偵をするのは不自然だという決めつけや、高貴な姫君であるコーデリアを野蛮な女私立探偵と比べるなという分断には鼻白むほかありません。私は瀬戸川の排他的なハッタリよりも山内の激励にも似た洞察を支持します。勁草書房刊。

2018-11-08 01:46:13
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