ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト #1
「そんな無法は通らぬぞ、フジキド!」「これからその無法を通すのだ」フジキドは不吉なナラク・ニンジャの影へ向かって躊躇せず歩み寄る。「オヌシ……!」「イヤーッ!」
2011-04-30 22:19:5001000000011111110101011101010101111010101111000
2011-04-30 22:21:54フジキドは跳ね起きた。隣室のアガタがフスマを開けた。「大丈夫?よかった、あなた目を覚まし……ヒッ!」アガタは息を呑んだ。メディ・キットによる応急処置が施されたフジキドの体中から血が噴き出した。
2011-04-30 22:28:56噴き出た血は超自然的な力によってフジキドの周囲で渦を巻く。アガタが声も出せず震えて見守る中、血は赤黒のニンジャ装束をあっという間に織り上げ、フジキドの体を包んでいた。アガタはその場にへたり込んだ。「ア……アアア……アイエエ」「私はどれくらい寝ていた?何時間?何日だ?」
2011-04-30 22:30:32「モリタ=サン……?」アガタはフジキドの偽名を呼んだ。フジキドは己の体を見下ろし、「なるほど」無感情に呟く。「アガタ=サン。すまぬ。私だ。時間を知りたい」アガタは震えながら、「バイクに運ばれたあなたは、丸一日、さっきまで……眠っていた……今はウシミツ・アワー……」
2011-04-30 22:39:08「24時間か」フジキドはフートンの横に厳かに置かれていた「忍」「殺」のメンポに気づいた。アガタが取っていてくれたのだ。「では、アガタ=サン、私のこの姿を?」アガタはやや気持ちを落ち着かせ、頷く。「貴方はボロボロだった。それと同じ装束を着て。装束は塵になってしまったけど」「そうか」
2011-05-01 00:24:18フジキドはもうろうとしながらバイクから抱え上げられ処置を受けた記憶を少し思い出した。「感謝の言葉もない、アガタ=さん。本当に助かった」フジキドは短くオジギし、「……おかげでまたこうして戦える」「モリタ=サン」アガタは涙した。「悲しいです」「何がですか?」「……いえ」
2011-05-01 00:29:00ピー!鉄瓶のケトルが鳴る。アガタは隣の台所へ戻って行く。「お湯を沸かしていたの」フジキドはメンポを手に取り、装着した。アガタのいる台所からテレビの音声が聴こえてくる。「エー、こうして、締め切り前日に電撃的に立候補を表明したラオモト・カン候補ですが……」
2011-05-01 00:58:54「知事選」フジキドは呟いた。テレビ音声は続ける。ラオモトの肉声だ。「私は経済界の実際的な視点にもとづき、これまで言わば屋台骨としてネオサイタマの発展に尽力させていただいた。周囲の人々からの政界進出の勧めを断り続けるのも心苦しい。それゆえ立候補を決めた。やるからにはシッカリやる」
2011-05-01 01:05:25フジキドは電撃的速度で台所へ飛び込み、画面を凝視した。ダブルのスーツとニンジャ頭巾をつけた尊大な男が主婦と握手し、子供をにこやかに打き抱える。アガタは無言でフジキドの目を見た。そしてアガタは察した。このラオモト・カン候補者が、彼のこの……この恐ろしい何かの、発端であるのだと。
2011-05-01 01:13:10彼の目には極限の殺意と憎悪があった。そして焦りが。「私は何も知らない」アガタは呟いた。「でも、あなたは行くのね?……今すぐに?」「今すぐにだ」彼は即答した。
2011-05-01 01:16:39アガタは台所テーブル上のキーを取り、フジキドに渡した。「バイクのキーです」「ありがとう」「他の品々もここに」アガタはフロシキ包みを取った。「アガタ=サン。すまない」「……謝るなんて。私の方こそ、感謝しなくちゃいけないわ。何もかもを」アガタはつとめて優しく笑った。
2011-05-01 01:20:50「あなたが何者で、何をしに行くのかもしらない私が、こんなことを言っても白々しいだけだけど」アガタは言った。「どうか気をつけて」「……」フジキドは無言でアガタを見た。そして、素早くオジギすると、フロシキつつみを手に取り、ドアを開けて退出した。あっという間に。
2011-05-01 01:24:42「ハローワールド。アイアンオトメ=デス。レディーゴー」キーを挿し込むと、無機質な合成音声がニンジャスレイヤーを歓迎した。黒光りする車体はそれ自体が無慈悲で華麗なパンサーめいた肉食獣のようだ。ライトが点灯し、インジケータに「大人女」の漢字が浮かび上がった。
2011-05-01 01:35:10ニンジャスレイヤーは即座にシートにまたがり、キックを入れる。ゴアアアア!ゴアアアアア!地獄の猟犬めいた唸り声がニンジャスレイヤーに応える。かつてこのバイクの主はバジリスクという邪悪なニンジャだった。このバイクは今後、今まで以上に殺戮のただ中を行き、血に塗れてゆくことだろう。
2011-05-01 02:12:18ニンジャスレイヤーはナンシーの身を案じた。生死もわからぬ。あれから24時間以上の経過。事態は刻一刻を争う。それだけではない。ラオモト・カン。選挙が行われれば彼が知事の座を勝ち得るのは自明だ。彼は勝ちイクサのためにどんな手段も取るであろう。……ゆえに、今だ。今しかない。
2011-05-01 02:15:34ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを速度の中に解き放った。その走行痕は炎だ。彼は一直線にハイウェイを目指す。目的地はトコロザワ・ピラー。勝算など考えはしない。行く手を阻むもの全てを排除する。ニンジャを殺す。そしてラオモトを、ダークニンジャを葬る。考えるのはそれだけだ。
2011-05-01 02:19:18(第一話「ネオサイタマ炎上」最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」#1-1 終わり。「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」#1-2へ続く。)
2011-05-01 02:22:21